COE_Title SRC
in English
TopNews
概要
構成員
研究会情報
研究
教育
募集
出版
LINK
contact
SRC Home

saikousei

◆ 中域圏について

◆構 築される中域圏

「中域圏」がこの研究教育プログラムで新たに提唱している分析概念です。中域圏は、社会主義として同一 の体制を維持してきたスラブ・ユーラシアの中で、社会主義体制崩壊後、次第に独自性を強めつつある極東・シベリア、中央ユーラシア、東欧などの空間的なま とまりを持つ地域のことです。これらの地域は社会主義時代においても全く同質的だったわけではありません。しかし、「中域圏」としてこれらの地域が独自の まとまりを持つに至ったのは、そうした固有の要素に基づくのではありません。むしろ隣接する外部世界で進行している広域的な変化と連動して、政治的・経済 的・社会的なさまざまな力が内外から働く新しい場が成立し、それによって独自の中域圏が出現したと考えられるのです。ここが従来の地域概念と大きく異なる ところです。
従来、地域を特徴づける個性は、予め与えられた前提条件でした。これに対して中域圏論では、他者との関 係の中で形成されるものと仮定しています。例えばこうした関係性が最もよく現れている東欧中域圏を例にとって考えてみましょう。東欧中域圏はEU統合とい う圧力の中で形成された中域圏です。EUに加盟するためには、アキAcquisと呼ばれる膨大な数のEU規範条項をすべて、好むと好まざるとに係わらず、 国内に移植し、かつそれを実践しなければなりません。つまりEU加盟を目指す国々は政治外交から文化に至る広範な分野で、達成すべき共通の行動規範を有し ているのです。東欧中欧圏とは、EU規範を共通の到達目標とする地域のことです。従って、かつての東欧と一致する必要はなく、伸縮自在です。EU加盟を決 めているバルト諸国はもちろんのこと、遠い将来にせよ、EU加盟を望んでいるウクライナやモルドヴァも東欧中域圏に含めることができます。

◆多 様な地域統合と相互作用

ところで、こうした広域的地域統合の在り方は多様です。スラブ・ユーラシアの周りでは様々な広域的地域 統合が進行しており、その広域統合の在り方の違いにより、それぞれの中域圏の形成のされ方も多様なものになっています。例えば欧州におけるEUの拡大はい ま述べたように、極めて包括的な性格を有しており、国家を超えた新たな社会形成にまで向かう統合が目指されています。これに対して東アジアでの広域統合は 経済的な分野に限られ、しかもこの経済統合は国家間関係に代替するものではなく、むしろそれを補完するする性格が強いと言えます。他方、中央ユーラシアを 取り巻く国際環境の変化はイスラーム世界からの影響が大きいとはいえ、中国や南アジアからの吸引力も作用しており、統合圧力も文化、経済、政治など多岐で あり、極めて複合的な様相を呈しています。
中域圏を性格づける重要な要素は中域圏に働く様々な作用の相互性です。つまり隣接する地域から及ぶ影響 は一方的な作用として完結するのではなく、その影響を中域圏の人々がどう受け止め、どう対応するかによってその地域の将来が大きく変わるのです。さらに、 こうした中域圏における意思形成、あるいは中域圏が隣接地域での広域統合に加わること、それ自体によって、今度はその広域地域統合のあり方に変化が生まれ ます。例えば、2004年5月に旧社会主義圏の8カ国(エストニア、ラトヴィア、リトアニア、ポーランド、チェコ、スロヴァキア、ハンガリー、スロヴェニ ア)がEUに正式加盟し、さらに今後EU統合はルーマニア、ブルガリア、旧ユーゴスラビア諸国、さらにはウクライナなどにも及んでいくと予想されます。こ のEU拡大は第一に、中域圏という視点から見ると、EU統合である以上に東欧中域圏の拡大であるといえます。EUへの加盟が終われば、その国はもはや東欧 中域圏ではなくなるという見方もありえます。しかし実際はそうではありません。すでに加盟交渉を終えた上記の8ヶ国は例外なく、極めて広範なEU規範条項 の施行猶予を求めており、さらにEU規範受け入れのために行われた法整備も名目だけで終っている分野が多いのです。つまり加盟を達成した国でも、事実上の EU化は加盟後に本格化するといっても過言でありません。東欧中域圏における、加盟と非加盟の違いは質的なものではなく、量的です。EU規範が規範とし て、あるいは達成目標として共有される状態は長期にわたって続くと考えられます。他方、EUの方も構成員の倍増という大規模な拡大に備えて内部機構改革を 推し進め、それまでの平等主義的な意思決定制度に代えて、大国優位の仕組みに改めました。また農業政策などでも、大規模農場を数多く残す東欧圏の加盟で、 従来の家族経営農場を前提とした制度と齟齬が生じています。EUは東方拡大とともにその組織原則を大きく変えざるをえなくなっています。このように東欧中 域圏のEU統合参加は相互に大きな影響を与え合っています。

◆メ ガ地域

一般に中域圏の形成に際しては、変化が単に中域圏だけでなく、中域圏に影響力を及ぼしている隣接地域で も生ずると想定されます。さらに、もともと中域圏が属していた地域においても、当然のことながら変化が生じます。例えば、スラブ・ユーラシア地域は旧東欧 諸国が急速にNATO加盟やEU加盟を進めた結果として、まずバルト諸国がその動きに歩調を合わせるようになり、それによってロシアは対西側政策を大きく 変更せざるをえませんでした。中域圏に影響を及ぼしている地域を本研究プログラムではメガ地域と呼んでいますが、実は中域圏分析は中域圏それ自身の分析で あると同時に、中域圏に影響を及ぼしているメガ地域の分析をも不可欠としているのです。スラブ・ユーラシアもメガ地域の一つであり、中域圏論を通して、ス ラブ・ユーラシアの全体像を描くことが可能になります。
このように中域圏を枠とした分析方法により、スラブ・ユーラシア地域が現在体験しつつある体制転換、地 域変動、そして地球化に伴う広域的地域統合の進行と いう複合的な変化が包括的に分析できるようになります。
これまで地域、あるいは地域研究というと、その地域が他と異なる独自な性格を有していることが前提とさ れてきました。そして、その独自性を解明することに 主眼が置かれてきました。このため、他の地域との関係性はあまり注目されませんでした。しかし地域の固有性は歴史の始まりから存在していたわけではなく、 むしろ歴史の中で、そして他地域との相互作用の結果として形成されてきたものです。中域圏分析では、さしあたってスラブ・ユーラシアという変動・再編期に ある地域に焦点を当て、どのような要因が互いにどう影響を及ぼしあうことで新たな地域が生まれるのかを明らかにすることが目指されますが、そこで生み出さ れる方法論は、他の地域に関する地域研究にも広く活用できるものになると期待しています。

◆中 域圏分析の可能性

以上のように、中域圏という分析概念はスラブ・ユーラシア地域の変動の中から導き出されましたが、スラ ブ・ユーラシアを越えて、地球化、あるいは様々な広域的地域統合の影響下にある地域、あるいは広域的統合を推し進めている地域そののもの分析にも適用でき ます。さらには従来、帝国論、植民地論、あるいは世界システム論として受動ないし能動の一方向だけで理解されてきた「世界地域world areas」認識に対しても、これを双方向的、かつ相互作用的に理解することを可能にする分析枠になると考えています。
本プログラムでは以上のような独自の分析方法を世界に向けて発信するため、様々な視点からテーマを設定 し、日常的な研究会を積み重ねながら、毎年二回の国際シンポジウムを開催します。また2005年にはドイツのベルリンで行なわれる国際学会で中域圏概念を 中心とした独自の分科会を組織して、国際的な議論を積極的に喚起する予定です。

susumumodoru



TopNews 概要 構成員 研究会情報 研究 教育 募集 出版 LINK

contact SRC Home
北海道大学