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修了者の声   秋山徹(2009年度博士課程修了)

スラブ社会文化論での8年間を振り返って

秋山 徹(日本学術振興会特別研究員PD/東京大学)

 私は2002年4月にスラブ社会文化論専修の修士課程に入学し、先日2010年3月末に同博士課程を修了しました。8年間を札幌で過ごしたことになります(留学の2年間を含む)。私の専門は中央アジア近代史です。とくにこれまで本格的な研究がなされてきたとは言い難いクルグズ(キルギス)遊牧社会を中心に据えて研究してきました。高校生の時分に漠然と興味を覚えた中央アジアについて博士論文を書くことになろうとは、想像していませんでした。博士論文では、同社会でのロシア統治の成立と展開について、部族指導者たちの位相に着目しながら考察しました。スラブ社会文化論そして北大は、このテーマを考究する上で絶好の環境でした。スラブ研究センター図書室ならびに北大図書館スラブ・コレクションに所蔵される膨大な資料群へのアクセスは言うまでもなく、日本が誇る世界レベルの研究拠点スラブ研究センターの先生方の謦咳に身近に接することができました。

 特に、私の研究生活において特に重要だったのは、指導教官の宇山智彦先生の存在です。そもそも同専修への入学の動機は、先生が 1997年に『スラヴ研究』に発表されたカザフ知識人についての御論考を読んで受けた感動、衝撃にあったといっても過言ではありませんでした(いまでもそれは私の研究の原動力であり続けています)。先生は、歴史学者、文学者、政治学者といった多彩な側面をお持ちですが、分野の如何を問わず根底にあるのは、まず何はともあれ他者に耳を傾け、それを的確に理解しようと努めること、だと私は理解しています。そして、それに基づいて鋭く深く――しかし決して重苦しくなく――洞察し、清々しく表現されてきたように思います。たまに先生の研究室に相談に伺ったものでしたが、私は決まってあの鋭い眼光の前でタジタジになるのが関の山でした。几帳面に整理された書類と資料で埋め尽くされた研究室のなかには、教授という肩書を超えた、現代を生き抜く知性とその魂が輝いていて、その姿に私は魅了されていたのだと思います(特に用事がなくても、いろいろ口実を作って、詣でたものです。先生ごめんなさい)。

 さらに同専修に全国、そして世界各地から集う気鋭の院生たちからも多くの刺激を得ることができました。私と同年代にして本を出したり、シンポジウムを組織したり、学会賞を受賞したりとめざましい業績を次々にあげる優秀な院生が少なからずいました。特に思い出に残っているのは、金曜二限に開講されるスラブ社会文化論総合特別演習という授業です。これは専修に属する院生は原則として全員参加ということになっていて、毎回2名の院生が自らの研究成果を発表するというものです。専門が多岐にわたる多くの院生に自分の研究をわかってもらうことの大変さを毎回痛感させられました。或る意味、専門の近い院生や研究者が集う学会や研究会よりも、その前提の共通理解といったものがまったく通用せずたいへんチャレンジングだったように思います。この授業はスラブ社会文化論の宝です。全く専門の違う方から意表を突かれたりしましたが、これが不気味に快感でした。フロアの反応が悪く、あるいはコテンパンに批判されると授業の後凹んだものですが、とても貴重な素晴らしい体験だったと思います。

 8年間、特に目立った活躍をしたわけでもなく、専修の末席を汚すに過ぎませんでした。難点だらけの私を長い間、寛容に見守ってくださった宇山・長縄両先生をはじめ先生方には頭が上がりません。在籍中に実のある恩返しができたとは、到底思えないのですが、いつの日かその時が来ればうれしいです。どうも有難うございました。


2013年4月から早稲田大学イスラーム地域研究機構研究助手

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