ITP International Training Program



約束事にもっと敏感であろう

平松潤奈

(第1期ITPフェロー、オックスフォード大学に派遣)


 英語ライティング指導を受けるという今回の貴重な機会は、英語のみならず日本語論文についてもあまり規範を意識してこなかった私にとり、はじめて論文の作法を知るよい場となった。


 1日目には、英語論文の言葉遣いに関する講義があり、いくつかの点で自分が大きな誤解をしていたことがわかった(たとえば文語では、フランス語起源の語を選んで文章に格調を与えるべきなのだそうだが、私はこれまで、英語らしくしようと一生懸命、古英語・ドイツ語起源の口語を探していたのである)。2日目には、すでに添削済みの個々人の英文をみなで検討する場が与えられた。冠詞のつけ方など、初歩的だがなかなか体得できない点に関して丁寧な解説や質疑があり、私もまだおぼろげながら理解が進んだように思う。また添削を受けた自分の英語論文には、大量の文法・表現上の過ちの指摘のほか、たくさんのクエスチョンマークがついていた。文法的に一応問題がなくとも、意味がよく伝わらない箇所が多いのだ。明快さを追求しつつ、他方では議論を単純化させることなく、というバランスを外国語においてどう実現するか、今後の課題を見つけたように感じる。


 それぞれの日の後半には、英語雑誌に論文を掲載された日本人研究者の方々、そして英文雑誌の編集者の方々のお話を伺った。これまで私は、論文投稿の際に心がけるべき形式的な側面を軽視しがちであったが、外国語というハンディキャップを背負う以上、約束事や手続きにもっと敏感であるべきだと思うようになった。今回のセミナーは全体にとても充実しており(むしろあまりに詰まって追いつけないほどであった)、研究を進める上での刺激を与えられた。私は、3月の英語キャンプに参加していなかったこともあってか、みなの積極的な発言に圧倒されてほとんど議論に加われなかったが、ライティングだけでなくスピーチや日常会話についても他の参加者の方々の姿勢から学ぶところが多かった。私にとって研究とは基本的に孤独な作業であり、明確な目標のもと多くの同年代の研究者とともに指導を受けるというこのたびの共同作業の機会は、たいへん新鮮であった。それが無駄にならないようにこれから実践していきたい。


 現在、英語での報告・執筆を予定しているのは、スターリン文化論、そして博士論文のテーマであったショーロホフとソヴィエト文学体制との関係についての論考である。「ショーロホフ」というテーマは、現代におけるスターリン文化の後遺症という側面をもち、歴史的な研究対象としても重要性をもつのではないかと自分では考えているのだが、しかしそのイデオロギー性ゆえにロシアの言論界では自由に論じにくく、英語圏でも黙殺されている。ぜひ発表して他の研究者からの批判や意見を受けたい。報告は、BASEES や AAASS などを目指し、論文化できたならば、ロシア・スラヴ地域研究の総合誌 Slavic ReviewRussian Review などに投稿してみたいが、おそらくハードルが非常に高いと見られるので、文学に特化した Russian Literature などにも挑戦してみる。いずれにしても、英語で書くということは潜在的な読者の数が増すことを意味するので、その点を自覚して内容的にも議論を向上させていきたい。



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