ITP International Training Program



ストックホルムでの教訓: ICCEES VIII World Congress 2010に参加して

井上 岳彦

(北海道大学大学院)



  教訓:1)プログラムの変更を信じてはいけない。2)パネルを組織すること。3)真駒内を思い出しなさい。4)英語で論文を書くこと。


  ICCEESストックホルムでの私の報告は、慌ただしく始まって、あっという間に終わってしまった。日本を出発する一週間前に、私の報告はセッション一日目から三日目へ移動したというプラグラム変更のメールを大会実行委員会から受けて、そのつもりでいざストックホルムに行ってみると日程は変更されていなかった。準備していたとはいえ、突然のことに慌ただしく報告することになってしまった。自分の悪い癖を確認している余裕はあまりなかった。案の定、いつもの良くない部分が出てしまった。ロシアでもどこでも常に臨戦態勢にしておく必要がある。


  私が個人報告で応募することができたのは、ICCEES大会実行委員会の配慮のおかげだった。報告は政治的側面から宗教について考察するというセッションに入った。私自身はロシア帝国の仏教僧侶に対する政策を研究しており、同じセッションには帝政末期カレリアにおけるロシア正教宣教師の学術活動についての報告と、1990年代のブルガリア正教の復興のプロセスについての報告が入っていた。正直、報告タイトルを見て、彼らとうまく議論ができるのか不安だった。実は、ブルガリアの報告者は、上述のプログラム変更メールを信じてセッションに間に合わなかったのだが、あとで空いているセッションに報告の場を得ていた。二人だけのセッションは一日目の最終の時間帯ということもあり聴衆はわずかだった。案の定、質疑応答に入っても微妙な空気が流れていた。ただ、司会を務めたウメオ大学のOlle Sundsröm教授(シャーマニズム研究)が非常に的確なコメント・質問をしてくださったので、なんとか時間を埋めることができた。彼はあとでスウェーデン・サーミ人の天然痘予防接種について研究している同じウメオ大学の教授を紹介してくれた。とはいえ、偶然に任せるのもいいが、やはりパネルを企画したほうが深い議論ができるように思う。


  報告者二人のセッションであったため、予定より多い報告時間を割り当てられた。そのため20分で用意した報告に少し詳しい解説を加えたが、リズムのことを考えれば当初用意したように20分で報告しておけばよかったと後悔した。英語セミナーで指摘されたこともすっかり忘れてしまった。報告内容は、僧伽と天然痘予防接種という二本柱だったが、今思うと一本に絞った方が聴衆にとって理解しやすかったかもしれないと反省している。不本意でも大胆に報告内容をスリムにするということも大事だと気づかされた。


  収穫としてはダラム大学のDavid Moon教授にお会いできたことである。思えば、学部で初めて自主的に読んだ英語で書かれたロシア史の本は、彼の農民に関する著作だった。レセプションの場で熱っぽく自己紹介する私に彼が問うのは、やはり英語の論文のことであった。論文を書いたら「私のところに送りなさい」とも言っていただいた。やはり英語の論文を書かなければならない。私の場合、日本語の論文も書かなければならないのだが。


  今回、私がストックホルムの国際学会で貴重な経験を積み多くの教訓を得ることができたのはすべてITPの物質的・精神的な支援のおかげである。サポート・スタッフの方々に深く感謝申し上げます。また、わざわざ報告を聞きに来ていただいた方々にも感謝申し上げたい。


[Update 10.08.23]




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