スラブ研究センターニュース 季刊 2008 年春号 No.113 index

研究の最前線


越野剛(SRC COE 共同研究員)

真駒内で学んだことはたくさんあるが、とりわけ有意義だったのは英語による研究発表の 練習だと思う。スピーチとは話芸(エンターテイメント)だという悟りを得ることができた。 どんなにすばらしい内容のペーパーを用意していたとしても、聴衆がそれを聞いてくれなけ れば口頭で発表する意味はあまりない。目の前にいる人たちを驚かせたり、笑わせたり、あ りとあらゆる手を用いて注意をこちらに引きつけなくてはならない。3 人の英語教師の方々 がスラブ研究の専門家ではなかったことも幸いであり、いかにして話を相手に伝えるかとい うプラグマティックな方法論にのみ集中して指導を受けることができた。

自己点検のためスピーチの練習はくりかえしビデオで撮影されることになった。画面の中 であやしげに身体を揺らしながらうろ覚えのセンテンスをしぼり出す恥ずかしい自分の姿を 見ることによって、「何とかしなければならん」という危機感を持つことができた(もちろん ビデオには他にも建設的な効果はたくさんあった)。その成長の軌跡は立派なDVD に焼いて いただいたのだが、小心者の私はなかなか全部を見通すことができないでいる。瞬間の芸術 であるパフォーマンスはその場かぎりで演じられるものであり、記録ではなく記憶の中にの み残されてこそ美しいという思いもある。しかしそれは英語力の強化とはまったく関係のな い話だ。

こうした特訓の成果を披露する模擬シンポジウムは、お祭りのような緊張と愉悦をはらん だものとなった。参加者はそれぞれの分野の意欲的な専門家でもあるわけだから、スピー チで語るべきユニークな話題を持ち寄ってくれる。そうした面白さは当然なのだが、英語合 宿の一環としてはスピーチの内容よりも形式のほうが重要である。その形式が参加者の個性 を様々に反映していたのが、模擬シンポの中で何よりも楽しい見せ場になったと思う。演台 のまわりを飄々と歩き回る人、動きを抑制させて眼差しでものを語る人、やわらかなジェス チャーで叙情を漂わす人、普段と違うドスの効いた声でたたみかける人、などなど。パフォー マンスの点ではスラブ研究センターの普段の国際シンポジウムよりも多彩だったのではない かと思うほどだった。個性豊かな人々の間で私もささやかながら自分のスタイルを見つける ことができたようだ。もちろん訓練されたスタイルでもって伝えるにふさわしい研究内容を 続けていかなくてはならない。2 週間の実り豊かな合宿を企画していただいたセンターの皆 様に感謝します。


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