スラブ研究センターニュース 季刊 2008 年春号 No.113 index

研究の最前線


佐藤圭史(4 月より学術振興会特別研究員PD)

3 月10 日、地下鉄真駒内駅から丘上の合宿場へ向かう道はまだ雪に覆われていた。目的地 へ向かう道を迷いつつ、雪砂利に足を取られつつ、歩き続けていた。そういえば、今まで私 が歩いてきた道とはこういうものだったのかもしれない。目的地はどこかにあるはずなのだ が見えてこない。そして行く手をさえぎるように、視界も、足元も悪い。いつ着くのだろう かと、不安の念に何度さいなまれたことだろうか。そんな雪道を一人、歩いていた。

午前9 時、合宿場へ到着した。やや遅れた私が合宿場の奥にある部屋の扉を開けると、そ れまでほとんど交流のなかった若手研究者たちが目に入った。誰だろうと思われたかもしれ ない。彼らは外国に長いこといた私をよく知らないだろうし、私も彼らのことを、正直、よ く知らなかった。休憩時間に、外に横たわる雪塊に目をやった。開会式のおこなわれた部屋 は暖かかったのだが、そのためか室内から見える雪は余計に寒さを感じさせた。「あぁ、まだ 冬は終わっていないな」と。

今回の英語合宿で得たものは数え上げればきりがない。すばらしい講師陣の惜しみない援 助により、プレゼンテーション能力、ディスカッション能力、コミュニケーション能力、文 章作成能力など全てにわたって、実に短期間ながら効率良く私の英語スキルをベースアップ できた。このような特別授業は、大金を払ってもそう易々と受けられるものではないと断言 できる。合宿で得た全ての価値あるものの中でも、最も価値あるものを一つあげることがで きる。それは、多くの若手研究者の存在を知り、彼らと近くなることができたことだ。今回 の合宿では、日本人同士であっても全ての会話を英語でこなした。語彙不足のためか、考え を伝え合うために表現がストレートになってしまうことがあったが、これはある意味良かっ たと思う。従来の学会発表とは違った私の別の側面を出すことができたし、私も彼らの別の 側面を見ることができた。この合宿には有能な若手研究者が集まっている。そんな彼らも、 努力してこの丘上へたどりついてきたのだ。御輿に乗って左団扇でここまで来たものなど誰 もいない。睡眠時間を削りながらプレゼンテーションの準備に備えている人、自分の考えを 何とか伝えるために気持ちでぶつかってくる人など、タイトなスケジュールにひたむきに取 り組む姿は全てを物語っていた。私が抱えている苦労や問題は、実は彼らも等しく感じてい ることなのだ。

3 月22 日、合宿場を出る頃にほとんどの雪は解けていた。暖かい気候が春の到来を感じさ せている。合宿場へ来たとき、そういえば何かを考えていたなと思ったが、いや、今ではそ んなことはどうでもいいことだと前方を見た。雲ひとつない快晴の中、私の視界をさえぎる ものはない。前方にまっすぐに見える道に向かって私は歩を進めた。足元にはかつてあった 雪砂利はもうない。私の心の中にも雪解けが感じられた。


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