スラブ研究センターニュース 季刊 2008 年春号 No.113 index

研究の最前線


 専任研究員セミナー

ニュース前号以降、昨年度は次の専任研究員セミナーが開かれました。

月日
発表者
報告
センター外コメンテータ
2 月12 日
前田弘毅
  “From ‘Oriental’ to ‘Russian’?: Lives of One Armenian Noble
Family in Tbilisi” 
黒木英充(東京外国語大)
2 月19 日
望月哲男
「現代ロシアにおけるロシアのイメージ」
岩本和久(稚内北星学園大)
3 月5 日
ウルフ、ディビッド
 「スターリンの描いたスラブ・ユーラシア(スラブ・ユーラシアへのスターリンの視座)」
横手慎二(慶応大)
3 月7 日
長縄宣博
「可視化する共同体の構造:オレンブルグ・ムスリム宗務協議会の改革論」 
竹中浩(大阪大)
3 月18 日
宇山智彦
 「日本の対中央アジア外交:アジア主義と日米関係のはざまで」 
湯浅剛(防衛研究所)
3 月31 日
家田修
「離散ハンガリー人の再統合」 
平田武(東北大)

前田報告は、AAASS でも報告されたもので、エニコロピアン家というグルジア出身のアル メニア人の家系を取り上げて、コーカサス地域の多民族性・跨境性を描き出したものでした。 概念や切り口、具体的な史実をめぐって、質疑応答がなされました。

望月報告は、1 月24 ~ 26 日の21 世紀COE プログラム総括シンポジウム「スラブ・ユー ラシア学の幕開け」で報告されたもので、同プログラムの文学・文化研究における成果の一 端を示すものとなっていました。イメージということで、確定的な議論は難しいところなの でしょうが、様々なコメントが出されました。

ウルフ報告も、上記の総括シンポジウム用に用意されたもので、冷戦史研究プロジェクト のなかで得られた新資料をもとに書かれたものでした。同じ資料を使って書かれ、東京の別 のセミナーで報告された“The Cold War in Northeast Asia: Past and Present” と題するペー パーも配布され、資料についても多くのコメントが出されました。

長縄報告は、昨年博士号を授与された博士論文の第1 章を書き直したもので、本格的な歴 史研究のペーパーでした。数多く出てくる難解な制度名にはクレームが付いたものの、意欲 的な研究内容については、おおむね好意的なコメントが出されたように感じられました。

宇山報告は、昨年9 月に東京で開かれたシルクロード外交国際ワークショップで報告した ペーパーを、報告集出版のために和訳・増補改訂したものということで、研究の社会的貢献 を意識した、政策提言を含むような内容のものでした。普段の専任研究員セミナーとは異なり、 日本外交のあり方など、大きなテーマをめぐっても議論が交わされました。

家田報告は、21 世紀COE プログラムが得意とした跨境やディアスポラをテーマとしたも のですが、それをハンガリー人に適用するという新しい試みについてのおろしたての報告で した。それだけに、方法論や種々の概念について、活発な議論がなされたように思いました。

[田畑]

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