スラブ研究センターニュース 季刊 2008 年秋号 No.115 index

研究の最前線


専任研究員セミナー

ニュース前号以降、次の専任研究員セミナーが開かれました。

9 月19 日:田畑伸一郎 “Influence of the Oil Price Increase on the Russian Economy: A Comparison with Saudi Arabia”
センター外コメンテータ:細井長(国学院大)、上垣彰(西南学院大)
9 月29 日:岩下明裕「広域ユーラシア:国際関係の新たなパラダイムを求めて」
センター外コメンテータ:遠藤乾(北大公共政策大学院)、湯浅剛(防衛研究所)

田畑論文は、9 月初旬にモスクワで開催された欧州比較経済体制学会の大会で報告された ものです。ロシアとサウジアラビアの経済の比較を通じて、近年の原油価格上昇がロシア経 済に与えた影響をより明確に特徴づけることが狙いとされています。両国の公式統計に基づ き、石油生産・輸出の近年のトレンド、国内総生産・国民所得への寄与と経済成長の要因、 国家予算の役割などの分析がおこなわれ、特に、両国の通貨・為替政策の違いに着目して、「ロ シアの経済ブームの特徴は自国通貨高により増大した輸入で個人消費が加速化されている点 にある」と強調されています。コメンテーターからは、サウジアラビアの公式統計が全く信 頼できない点や、“swing producer” として国際価格に影響力を行使してきたサウジと異なり ロシアでは技術的な原因から国際市場の動向に応じて生産を柔軟に変化できない点、民間企 業によって担われているロシアの石油産業と単一の国策会社が石油産業を支配するサウジの 違いなど、論文の中では触れていない重要な側面についての指摘がなされました。

[山村]

岩下論文は、国際政治学会が刊行する本のために書かれたものです。三角形・四角形・円 を多用した概念図(その多くが本に収録されないのは残念です)を駆使しながら、国境と広 域的な国際政治の関係や、上海協力機構の位置づけを論じています。討論では、バランスオ ブパワーと地政学の関係、国境を接すること・接しないことが国家間関係にとって持つ意味 の多様性、「米国=遠い隣国」論の妥当性、ユーラシアという地域概念の問題などが話題にな りました。センター研究員同士の忌憚ない意見のやりとりに、コメンテータの一人からは「ワ イルドな研究会」という感想をいただきましたが、今後もワイルドな伝統を維持していきた いと思います。

[宇山]

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