スラブ研究センターニュース 季刊 2009 年冬号 No.116 index

研究の最前線


新学術領域研究「ユーラシア地域大国の比較研究」の採択

今年度開始で申請していた新学術領域研究「ユーラシア地域大国の比較研究」(領域代表者  田畑伸一郎)が採択されました。新学術領域研究は、従来の特定領域研究などを再編した もので、今年度から新たに設けられた科学研究費補助金の研究種目です。人文・社会系で今 年度採択されたのは、本研究の1 件だけでした。研究期間は、2012 年度までの5 年間です。 2008 年度の直接経費の総額は4760 万円で、5 年間では、直接経費だけで5 億円ほどとなります。

研究体制

本研究は、ロシア、中国、インドなど、ユーラシアの地域大国を総合的、学際的に比較し ようという取り組みです。ここで、地域大国とは、ある程度の経済力・軍事力を有し、近隣 諸国への影響力を発揮しながら、同時に、米国、EU、日本など、政治、経済、文化などの面 で現代世界の中核となっている国々に対して、一定の距離を置く大国群を意味します。ユー ラシア地域大国は、米国やEU 主導の国際政治・経済秩序に対して、時として異議を唱える 存在となっています。民主主義や市場経済などについても、先進国とは異なる見方を示すこ とがあります。また、これらの地域大国は、過去に帝国として存在したことがあるという共 通性を有しており、現在においても、かつての文明圏、文化圏を何らかの形で引き継いでい ると言えます。

本研究の目的は、第1 に、これらの地域大国を総合的に比較することにより、それぞれの 地域大国の理解をさらに深めることにあります。日本では、ロシア(スラブ・ユーラシア)、 中国、インド(南アジア)のそれぞれについて、十数年前に特定領域研究(重点領域研究) がおこなわれ、それぞれの地域の研究については既に国際的に研究をリードする水準にあり ます。今回は、初めてこれらの国々を対象とする地域研究者が糾合して研究をおこなうこと になりました。これは日本だけでなく、世界的にも画期的なことです。

本研究では、以下のように、国際関係、政治、経済、歴史、社会、文化の6 つの視点から の計画研究が設けられています。そして、それぞれの計画研究班に、ロシア、中国、インド などについての研究者が含まれています。このようにして、人文・社会科学の諸分野にわた る体系的な共同研究体制が作られています。

第1 班:国際秩序の再編(研究代表者 岩下明裕、センター)
第2 班:エリート、ガバナンス、政治社会的亀裂、価値(研究代表者 唐亮、法政大学法学部)
第3 班:持続的経済発展の可能性(研究代表者 上垣彰、西南学院大学経済学部)
第4 班:帝国の崩壊・再編と世界システム(研究代表者 宇山智彦、センター)
第5 班:国家の輪郭と越境(研究代表者 山根聡、大阪大学世界言語研究センター)
第6 班:地域大国の文化的求心力と遠心力(研究代表者 望月哲男、センター)

各計画研究における研究は、対象として取り上げる諸国が地域大国として発展・定着でき る条件が何であるのか、また、それを妨げるような不安定要因は何であるのかについて明ら かにするという共通の問題意識をもって進められます。ロシア、中国、インドが10 年後、20 年後にどのような国になっているのかについては、日本でも世界でも大きな関心が持たれて いますから、本研究によりそれを学術的に明快に示すことが期待されます。

本研究の第2 の目的は、超大国とその他の国々の間に、地域大国という「中間項」を挿入 することによって、世界を理解するうえでの新たな視座を確立し、その視座から現代世界の 様々な問題について検討することにあります。これは、「超大国の一極支配」あるいは「世界 的な均質化や画一化」とは異なる視座です。折から、米国主導の国際秩序は、政治的にも、 経済的にも、不安定な様相を強めています。ユーラシアあるいは世界において、ロシア、中 国、インドがどのような位置を占めるようになり、どのような世界秩序が今後形成されるの か、そのような問題に答えることが本研究の課題の1 つです。図に示したように、本研究では、 民族紛争、宗教対立、格差と貧困など、現代世界の重要な問題について、この新しい視座か ら総合的、学際的な解明を試みることを予定しています。さらに、こうした問題について何 らかの政策提言をすることも視野に入れています。

本研究についての詳しい説明と研究組織、構成員については、本研究のウェブサイトhttp:// src-h.slav.hokudai.ac.jp/rp/)をご覧下さい。

なお、本研究の第1 回の全体集会が3 月4 日(水)午後2 時半から北海道大学百年記念会 館大会議室で開催されます。プログラムは、以下のとおりです。一般公開の研究会ですので、 ふるってご参加ください。

第1回全体集会プログラム

パート1 (14:30 ~ 15:15) 「研究の第1段階にあって: ねらい・手法・抱負」

報告者:領域代表者と6つの計画研究班の代表者
司会:長縄宣博(北海道大学)

パート2 (15:20 ~ 18:15) 「『ユーラシア地域大国の比較研究』に期待すること」/p>

報告者:猪口孝(中央大学),長崎暢子(龍谷大学),沼野充義(東京大学)
コーディネーター:林忠行(北海道大学)
懇親会(18:30 ~ 20:30)場所:百年記念会館きゃら亭

また、本研究の第1 回の国際シンポジウムが7 月9 ~ 10 日に新装されたスラブ研究センター の大会議室で開催されます。これは、本研究の第3 班(経済班)を中心に組織されるもので、 持続的経済発展がテーマとなります。これも一般公開ですので、皆さんの参加を歓迎します。

[田畑]

→続きを読む
スラブ研究センターニュース No.116 index