スラブ研究センターニュース 季刊 2009 年冬号 No.116 index

研究の最前線


国際ワークショップ「ポスト共産主義の変容」開催される

12 月5 日に、国際ワークショップ「ポスト共産主義の変容:中東欧諸国とロシアの比較分 析」が、センター主催でおこなわれました。このワークショップは、科学研究費補助金(基 盤研究A)「旧ソ連・東欧諸国における体制転換の総合的比較研究」(代表:林忠行、2005 ~ 2008 年)の一環として、アメリカ、イギリス、チェコから著名な研究者を招き、ロシアと東 欧の政治経済の比較をめぐる議論がおこなわれました。

第一パネルでは、大串敦がロシアの執行権力の二頭制(大統領府と政府)は、ソ連時代の ソ連共産党中央委員会と閣僚会議から発展したものであり、大統領府の役割は遠心的かつセ クショナリズムの強い政府官僚組織の監督であると論じました。リチャード・サクワは、現 代ロシア政治最大の問題として、政党の社会利益表出機能が弱いことに示されるように、制 度化された立憲的な政治と、その背後にある権力体(「レジーム」)のと間に大きな乖離があ ることだと論じました。討論者の松里公孝はじめ多くの参加者は、二頭制成立における偶然 性の問題や、統一ロシアの役割、ロシア社会の「ユニークさ」などに関して活発な議論をお こないました。

第二パネルで、ピーター・ラトランドはロシアと中国の開発モデルを比較し、異なった発 展程度から始まり、異なった経路をたどった両国の開発モデルが、着地点では、(いわゆるワ シントン・コンセンサスとは異なる)「規制された市場」モデルに収斂してきていると論じま した。また、上垣彰は、自身の考案した分析モデルに基づき、他の中東欧諸国と比較した際 のルーマニアとブルガリア経済の「後進性」を分析しました。討論者の田畑伸一郎を含む参 加者からは、ロシアと中国のモデルは本当に収斂しつつあるのか、国際経済に巻き込まれる 度合いの低かった「後進的な」国々には、現在の金融危機の中では、利点があるのではない かといった多くの質問がなされました。

第三パネルでは、マルティン・ポトゥーチェクが、緻密な経験的なデータに基づいて中東 欧諸国の福祉制度の多様性を示し、特にチェコの福祉制度の発展経緯を跡付けました。質的・ 量的なデータと正確な比較分析の手法によって、仙石学は、そうした福祉制度の多様性を、 政党・労組といった政治・社会的アクターの影響力によって説明しました。討論者の伊東孝 之はじめ多くの参加者は、制度的多様性の類型、労組の影響力の程度などの点に関して、様々 な議論をおこないました(以上、敬称略)。

ワークショップの報告論集は近刊の予定です。

[大串]

10:00-12:00

大串敦(学振特別研究員)「ソ連共産党中央委員会からロシア大統領府 へ:ロシアにおける半大統領制の発展」

リチャード・サクワ(ケント大、英国)「臣民それとも市民:現代ロシア における憲法的主権行使への障害」
討論者:
松里公孝(センター)
13:30-15:30

ピーター・ラトランド(ウェスリアン大、米国)「ポスト社会主義国と新 しい開発モデル:ロシアと中国の比較」

上垣彰(西南学院大)「EU 統合と新加盟国の『後進性』:ルーマニアとブルガリアのケース」
討論者:
田畑伸一郎(センター)
15:45-17:45

マルティン・ポトゥーチェク(カレル大、チェコ) 「ポスト共産主義ヨーロッパでは福祉資本主義か粗野な資本主義か?」

仙石学(西南学院大学)「中東欧諸国における福祉国家制度と福祉政治: 制度的多様性の政治的背景」
討論者:
伊東孝之(早稲田大)


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