スラブ研究センターニュース 季刊 2009 年冬号 No.116 index

研究の最前線


国際ワークショップ「人文学的アプローチによるポーランド 地域主義研究:言語・文化・芸術を通して考えるポーランドの周縁地域」 開催される

東欧革命から20 年目を迎える本年1 月 10 日、上記のワークショップが東京大学 で開催されました。本企画は地域研究コン ソーシアムの主催で、センター、日本学術 振興会「人文・社会科学振興のためのプロ ジェクト」研究領域V-1 第2 グループ「越 境と文化」、東京大学文学部現代文芸論の 共催によりおこなわれました。また内容的 な関連から、北海道大学総長室重点配分経 費「公募型プロジェクト研究等支援経費」 (代表:野町)も一部使われました。

「ポーランドの周縁部」という、あまり 馴染みのないテーマであったにもかかわ らず、研究者・一般の方を合わせて50 人 近くの方が参加されました。また、在日 ポーランド共和国大使館からヤドヴィガ・ ロドヴィッチ大使もお見えになり、ボジェ ナ・ソハ文化担当一等書記官からはご挨 拶をいただきました。大使館は本企画の 後援を引き受けてくださっていたのです が、大使館の方々がご来場され、ご挨拶 までいただけるとは予想外の名誉でした。

左から加藤氏、小椋氏、ホミャク氏、
シュミット氏
左から加藤氏、小椋氏、ホミャク氏、 シュミット氏

司会進行役の小椋彩氏(早稲田大)からワークショッ プの目的と概要が説明された後、「現世代」研究者の沼 野充義氏(東京大)の、次世代研究者へのメッセージと なる「中心・周縁・中間-スラヴ地域研究の活性化に向 けて」と題された基調講演でワークショップが幕を開け ました。

研究発表は3 部構成(文学・芸術・言語)でした。文 学セクションでは、まず小椋彩氏が「若きポーランド」 派の文学における東部クレスィ地方のアンビヴァレント な表象について、続いて加藤有子氏(日本学術振興会特 別研究員)が多文化都市としてのルヴフとポーランド語 雑誌『シグナウィ』について、最後に井上暁子氏(日本 学術振興会特別研究員)がドイツとポーランドの国境地 帯の作家・パヴェウ・ヒューレの処女作『ヴァイゼル・ ダヴィデク』についての研究報告をおこないました。

マイェヴィッチ氏
マイェヴィッチ氏

芸術セクションでは、小川万海子氏(多摩市立関戸公民館)が「インスピレーションの源」 としての東部地域について、特にユゼフ・ヘウモンスキとヤン・スタニスワフスキの作品に ついて報告をおこないました。次に加須屋明子氏(京都市立芸術大学)による、冷戦期のシ ロンスク地方(特にカトヴィツェ)における前衛芸術運動についての分析の報告があり、続 く久山宏一氏(東京外国語大学)は、ウェムコ人の傑出した画家・ニキフォルについての映 画作品『ニキフォル:知られざる天才画家の肖像』に関し、クラウゼ夫妻の演出歴、フェル ドマンの演技歴、「芸術家の伝記映画」などという多角的な視点からの研究報告をおこないま した。

言語セクションでは、まず論文を本企画にお送りくださったイェジ・トレデル氏(グダン スク大学)による「カシュブ語文化の最新動向」の概説を野町(センター)がおこないました。 続いて、野町によるカシュブ人社会活動家アレクサンデル・ラブダのカシュブ語文語形成へ の貢献についての研究報告がありました。

尚、言語セクションでは2 人のゲストスピーカーによる特別講演が企画されました。まず、 ウェムコ語教育の先駆者であるミロスワヴァ・ホミャク氏(ウェムコ協会)が、ポーランド の少数民族ウェムコ人の言語文化の概説と教育の現状と諸問題について報告されました。続 いて、世界的な言語学者であり、センターの外国人研究員でもあったアルフレッド・マイェ ヴィッチ氏(アダム・ミツキェヴィッチ大学)が、ポーランドの多民族国家性と多言語性に ついて、独自の統計資料と多数の文献を用い詳細に報告されました。

テーマの斬新さのみならず、若手研究者による質の高い報告と学界を代表する「現世代」 研究者の広い視野に立つ基調講演、および本国ポーランドからの特別講演が組み合わされる ことにより、本企画は予想以上の成功を収めたと言えるでしょう。

ワークショップ当日と翌日のエクスカーションでは、ポーランド大使館経済部のマウゴ ジャータ・シュミット氏が通訳として参加されました。シュミット氏は金沢大学、東京大学 での留学経験を持ち、また筆者がワルシャワ大学講師を勤めていたときの「教え子」であり ますが、「教え子」などというのが大変おこがましいほどの大活躍ぶりでした。

ワークショップの翌11 日、報告者数人はホミャク氏とマイェヴィッチ氏と共に「はとバス」 で東京観光をし、12 日にお二人は帰途につかれました。

目下、企画代表の小椋氏と野町によるワークショップ報告集の編集作業がおこなわれていま す。予定されている報告集には、海外も含めて問い合わせが既にあり、編集作業が急がれます。

最後になりますが、本企画を採択してくださった地域研究コンソーシアム、共催および後 援を引き受けてくださった関係者の方々、そしてご来場の皆様に、この場をお借りしてお礼 申し上げます。

[野町]

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