スラブ研究センターニュース 季刊 2010 年冬号 No.120 index

新学術領域研究


2009 年度冬期国際シンポジウム「ユーラシア地域大国の政治比較」開催される

12 月12 日(土)、13 日(日)に、新学術領域研究「ユーラシア地域大国の比較研究」の第 2 回国際シンポジウムが、法政大学市ヶ谷キャンパス外濠校舎にて開催されました。本シン ポジウムは、政治班(第2 班)を中心に組織されたものです。全体のテーマは「ユーラシア 地域大国の政治比較:中国、ロシア、インド、トルコ」で、グローバル化、自由化、情報化 などを背景として、地域大国における政治変化のダイナミズム、体制移行の実態、地方のガ バナンスを明らかにし、同時に地域大国の政治比較の方法論を模索するものでした。基調講 演とラウンドテーブルからなるパネル・ディスカッションと、三つのセッションが用意され ました。

基調講演では、3 人の講演者が、ソ連およびロシア、中国、インドの経験を中心として、 各地域大国の比較の視点を軸に講演をおこないました。その中では、政治および経済の両面 から体制変容がどのようにおこなわれたか、またとくに、インド経済の著しい発展が開発経 済学にいかなるインパクトを与えようとしているかについて、実態的な分析がなされました。 これを受けたラウンドテーブルでは、地域大国の比較研究は何を目指すのか、いかなる手法 で比較研究をおこなうか、様々なフィールドやディシプリンをもつ地域研究者が、共同作業 においていかに連携をおこなうか といった、方法論的・実践的問題 について、議論がなされました。 その結果、この比較によって問題 を集約的に捉える事が可能となり、 さらには各国固有の特徴が導き出 されるということ、また地域研究 者は各国研究に閉じこもるのでは なく、徹底的な比較検討による知 的作業をおこなう事が必要である ことが確認されました。

セッションのようす
セッションのようす

第1 セッション「近代化と民主 主義のためのサブナショナルな単 位:ロシア、中国、インドの村社会とNGO」では、地域の民主主義とキリスト教の影響と の関係に関する印露の比較分析、村のガバナンス、自治と公共財に関する中露比較研究、土 地収用問題を例に、社会紛争の解決方法に関する中印の比較分析がおこなわれました。報告 では、豊富な統計データ、現地調査、事例研究に基づく成果の発表が注目されました。

一方、宗教ほど政治的なものはないとも言えるでしょう。中国の新疆問題やロシアのチェ チェン問題をはじめ、インドにおけるヒンズー教とその他の宗教の闘争、そしてトルコにお けるイスラーム主義の高揚など、地域大国の今後を占う上で宗教政治は重要な試金石となっ ています。第2 セッション「偉大さへの鍵:地域大国の宗教政治」では、宗教・文化の違い、 特にキリスト教とアジア的価値は、人権の捉え方にいかなる影響を与えているか、またトルコ・ ロシア・中国はイスラーム寺院およびイスラーム組織をどのように管理しているかについて の報告がなされたほか、南アジア地域における民族・宗教紛争と外交政策を中心とする比較 分析がおこなわれました。

地域大国は経済開発を進め、国民の生活は底上げの形で改善されつつありますが、開発の 成果は必ずしも平等に配分されているとは言えません。第3 セッション「社会階層の再編と 社会的亀裂」で、ヴァムシ報告は、豊富な統計データをもとに経済格差に関する中印の共通 点と相違点を明らかにしました。続く林報告は、ロシア中間層の構成と価値観の多様性を中 心に分析しながら、中国の中間層との比較を試みるものでした。園田報告は、アジアバロメー タ等の調査データを中心に、中国、インド、ロシアの人々が階層間の格差をどのように認識 しているか、それぞれどこがどう違うかについて、比較分析をおこないました。

本シンポジウムは、終始「比較」の視点に貫かれた、大胆かつ意欲的な試みでした。その結果、 各地域大国の個別性が浮き彫りにされると同時に、これらに共通する普遍的特性の抽出に向 けて、一歩迫る事が出来たように思えます。加えて二日間で国内外を問わず約150 名の参加 者が集まり、登壇者との間で活発な議論が交わされ、盛況のうちに閉会の運びとなりました。 日本経済新聞、北海道新聞は13 日に初日の講演、取材をベースにして報道記事を掲載しまし た。中国の有力なニュースサイトも、中国の新華社の配信記事を掲載しました。諸報告およ び議論の内容は新学術領域のディスカッション・ペーパー『比較地域大国論集』などの形で の出版を予定しています。ここで得られた貴重な知見は、今後本プロジェクトを進める上で 大きな財産となることを確信しています。

[組織委員長・唐亮]

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