スラブ研究センターニュース 季刊 2010 年冬号 No.120 index
10 月31 日、11 月1 日の両日にわたって、ロシア外部の史料に通暁する専門家の報告に対 して、ロシアの専門家が迎え撃つ形で討論をおこなうという、大変ユニークな研究会が開か れました。これは、スラブ研究センターの共同利用・共同研究拠点公募プログラムとしては、 記念すべき第1 回目のシンポジウムでした。スラブ研究センターは、歴史研究では近現代に 重心が偏っていますので、前近代の研究者とどのように協力関係を築いていくかは、以前か ら大きな課題でした。そうした中で、北欧中世史で新進気鋭の小澤実氏(名古屋大学)の熱 意によって、各専門領域で第一線の研究者をセンターに糾合できたことは、大変光栄なこと でした。
我々は、ユーラシアという言葉を使うとき、ともすれば歴史的に一貫したシステムとして その空間を想定しがちです。しかし、今回のシンポジウムで、「北西ユーラシア」という空間 を設定して浮かびあがったのは、そこに住む人間集団の間に直接的な接触のない時期、少な くともお互いに関心を持たなかった時期、そして文字記録から抜け落ちている時期が、長く 存在したということでした。「史料の沈黙」の意味が、セッションを横断的に議論されたこと は偶然ではありません。今回の研究会では、時代と地域によっては必ずしも豊かではない史 料を精読することを通じて、どのような問題設定によって、「北西ユーラシア」という空間が 有意味な研究対象になりうるのかが、真摯に検討されました。
講演: |
「アラビア語史料に記録された北西ユーラシア世界
とくにイブン・ファドラーン『報告書(リサーラ)』による」家島彦一(早稲田大学) |
第1 セッション: |
「中央アジアの視点」赤坂恒明(早稲田大学)、川口琢司(藤女子大
学)、長峰博之(北嶺中・高等学校) コメント:堀川徹(京都外国語大学) |
第2 セッション: |
「イスラーム世界の視点
」小笠原弘幸(青山学院大学)、磯貝健一(京都外国語大学) コメント:濱本真実(人間文化研究機構) |
第3 セッション: |
「スカンディナヴィアの視点」小澤実(名古屋大学)、成川岳大(東京大
学) コメント:細川滋(香川大学) |
第4 セッション: |
「ビザンツ帝国の視点」草生久嗣(千葉大学)、橋川裕之(静岡県立大
学) コメント:宮野裕(北海道大学) |