スラブ研究センターニュース 季刊 2010 年春号 No.121index

オックスフォード・ラウンドテーブルに出席して

家田 修(センター)

 

3月21 日から26 日までイギリ スのオックスフォード大学で環境 問題に関するラウンドテーブル が開催され、筆者も呼ばれて報 告をしてきた。正式なラウンド テーブルの名称はOxford Round Table: The Copenhagen Protocol; Problems and Possibilities – An interdisciplinary perspective であ る。この名称にあるように2009 年 12 月に開催予定だったコペンハー ゲンでの地球温暖化会議(COP15) を意識した国際会議ではあったが、 その結末を見る前に報告を用意し なければならず、基本的にはそれぞれの参加者の研究テーマが地球温暖化との係わりの中で 報告された。

会議風景
会議風景

この会議では全部で30 の報告が行われ、それぞれ15 分のプレゼンテーション、15 分の質 疑応答がなされた。参加国はアメリカ、イギリス、スウェーデン、カナダ、オーストラリア、 南アフリカ、ジンバブエ、そして日本の8 ヵ国であるが、アメリカが圧倒的多数だった。し かし国籍はパスポートによるもので、アメリカ人といっても出身を尋ねると、エジプト、イ ンド、ロシアなど多様であり、報告された話題も非常に多岐にわたるものだった。

いまここで30 の報告について述べる余裕はないが、今回の会議で改めて感じたのは、アメ リカの科学者たちが「地球温暖化がなぜ問題なのか」、「地球はこれまでも寒冷化と温暖化を 繰り返してきたのではないか」、「なぜそのような研究に予算をつける必要があるのか」とい う世論、そして政治家たちの強い疑問に常にさらされているということである。今回の会議 の中で数億年、数千万年数百万年規模での大気温度の変動を推定した若い研究者がいたが、 それに対してはすぐさま、「それをアメリカの政治家の前で話す時には気をつける必要がある」 と批判まじりの声が上がった。これに関連してもう一つ印象的だったのは、地球温暖化は基 本的には地球や自然の問題ではなく、人間の問題であるという強い認識である。それは温暖 化の原因を人間が生み出しているという意味だけはない。日本では地球温暖化を考えるさい 「地球を救おう」という類いの標語をよく耳にするが、今回の出席者の大半は、あえて標語 風に表現すれば、「人類を救おう」という視点からの温暖化認識が基本だった。前の話に続 けて言えば、「地球を救おう」などと言おうものなら、「気の長い話ですね、それなら研究費 はいらないでしょう」ということになる。もちろん報告者の中にはミシシッピ・デルタにお けるマングローブの植生変化を取り上げた生物学者のように、「生態系を救いたい」という 思いをみてとることもできる。またこうした論調の中でジンバブエからの報告者が、「先進国 は地球温暖化についていろいろ言うが、その被害を受けている人々に何もしていない」と厳 しく批判する一幕もあったことは書き留めておくべきであろう。

筆者の報告は、スラ研では田畑 さんが担当している北大のオホー ツク環境プロジェクト及びやは りスラ研が係った「アムール・オ ホーツク・コンソーシアム」の話 を交えて、跨境的地域Transborder region における環境政策について でした。今回の出張予算はオホー ツク環境プロジェクトから出して もらったこともあり、初めから北 大とオホーツク研究の成果を前面 に出すつもりでしたが、おりしも ワシントン条約締結国会議でクロ マグロの禁輸措置回避に関連して 日本が海洋資源の保護を国際的に約束した直後でもあり、日本の研究者がオホーツクの海洋 資源を「巨大魚付き林エコシステム」として保全するイニシアティブをとっているという話 は、絶好のタイミングで世界各国からの参加者に理解してもらえたと思います。

今回の会議はリンカーン・カレッジがホスト役を務めました。このカレッジは15 世紀に設 立され、オックスフォードの中では比較的古い方で、町の中心にあります。外見はオックス ブリッジに特有な石造りですが、内装は近代化されていて、快適でした。三度の食事も全て カレッジの食堂で学生と同席でした。歴代関係者の肖像が見守る典型的な古めかしい内装で、 タイムスリップした雰囲気を味わいました。写真は最後の夜の晩餐のときのものです。

食堂での晩さん会
食堂での晩さん会

今回のラウンドテーブルでは、テーマが今ホットな地球温暖化問題だったこともあり、マ スコミ向け声明を採択しました。その声明文の写しをここに掲げておきます。

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