スラブ研究センターニュース 季刊 2011 年夏No.126 index

新学術領域研究

第5回国際シンポジウム開かれる

シンポジウム会場1
シンポジウム会場2
活 発な議論で盛り上がるシンポジウム会場の様子
 2011年7月7日から8日にかけて、スラブ研究センターで夏期シンポジウム『同盟と境界:地域大 国を規定するもの』が開か れました。新学術領域研究「ユーラシア地域大国の比較 研究」(田畑伸一郎代表)第 1班(国際関係班)の主催、グローバル COEプログラム「境界研究の拠点形成:スラブ・ユーラシアと世界」(岩下明裕代表)、および科研費基盤研究 A「北東アジアの冷戦:新しい資料と展望」(ディビッド・ウルフ代表)の共催による今回のシンポジウムには、海外から多くの研究者が集まり、合わせて日米 安保 60周年と、ソ連崩壊 20周年を記念しておこなわれました。今回のシンポジウムで最も重要な意味を持つ試みとしては、アジアの冷戦における同盟と境界の諸問題を明確に位置付け ること、現代ヨーロッパの再編に関わる出来事を検証することが挙げられます。
これまで、ヨーロッパとアジアをめぐって二つの超大国が競い合うという構図が、冷戦を捉える上でお定まりの基準となっていましたが、現実はそのように単純 な幾何学的構図で捉えられるものではなく、より複雑に絡み合っていました。まさに合意が結ばれる過程そのもののなかに、将来不和の生じる要因が含まれてい ることもあったからです。例えば1950年に結ばれた中ソ協定の機密条項は、スターリンやその他の「新しい皇帝たち」に対する毛沢東の態度を硬直化させま した。さらにその後、日米同盟の取引と、安全保障上の基地をめぐって内密の取り交わしがなされたことは、「マッカーサー憲法」の関連条項とともに、日本が 再軍備にかかる出費を回避することを可能にしましたが、アメリカは後でこのことについて不平を言うようになりました。中ソ関係の場合も、日米関係の場合も ともに、安保条約にともなう経済的効果への期待が、長年にわたる非難の応酬を招くことにもなりました。あとから考えてみると、取引の核となる部分に意図的 に残された様々な不均衡が、時代を越えてそれと認められる不平等を生みだし、同盟関係 の破綻を招いたのは明らかです。
シンポジウム会場3
シ ンポ会場受付にて
 また同じく重要なのは、ほとんどの場合、同盟関係は敵対する勢力に対して目に見えない三角関係を作りながら結ばれるものだったということです。そのた め、同盟関係にある国のどちらか一方の変化は、たとえ敵との緊張を和らげる望ましいものであったとしても、「抜け駆けの和合」という裏切りの恐れをもたら すものでした。日本の議員が 1950年代に中国を訪問したことに対してアメリカが反応し、1970年代に米中の国交正常化にいたったことは、こうした点から分析されなければなりませ ん。  国境もまた、しばしば厄介な問題となります。冷戦によってあらゆる戦闘に歯止めがかかるとともに、パルチザン戦、秘密作戦、「パブリック・ディプロマ シー」など、クラウゼヴィッツの古典的な公式で言うなら別の意味で真の政治をなすところの様々な「小戦争」とならんで、国境をめぐる小競り合いが起きるよ うになりました。世界最長の中ソ国境は、友好的に機能する時期もありましたが、より永続的には両国を分かつ深い溝となりました。比較的流血沙汰になること の少ない国境をめぐる小競り合いは、しばしば壊れやすい同盟関係の裏に潜んだ三角関係を明るみにします。 1959年と 1962年に起こった中印衝突は、間もなくして中ソ同盟が崩壊する要因となり、ネルーの抱いていた「非同盟」の道筋を弱めることになりました。 1969年にウスリー川流域と新疆ウイグル自治区で起こった中ソ国境紛争は、一つの同盟が終わって別の同盟が始まることについて、中国がアメリカに知らせ る明らかな合図でした。
 国境と同盟に関する難問の数々においては、ヨシフ・スターリンから鄧小平、リチャード・ニクソンから中曽根康弘にいたるまで、私たちの時代における様々 な 政治家によって、地域の覇権を築いたり妨害したりするなかで、影響力が行使されてきました。その戦略や計画はしばしば期待とは異なる結果を招いたものの、 基本的な輪郭は維持されたままで、同盟国は過去から持ち越された共通の利益や共有される将来の不安によって結びつけられています。国境と同盟に関する問題 は、まさに地域大国がそれによって成り立っている要素なのです。これらのことが札幌の白熱した二日間で報告され、議論されました。シンポジウムで報告され た内容は、グローバル COEプログラムの発行する雑誌『Eurasian Border Review』の特集号として刊行される予定です。
 プログラムの詳細はこちらを ご覧ください。
[ウルフ]
新学術領域研究第5 回国際シンポジウム 
同 盟と境界:地域大国を規定するもの
Alliances and Borders in the Making and Unmaking of Regional Powers
(プログラム)

日時:2011年 7月 7日(木)、8日(金)場所 :北海道大学スラブ研究センター大会議室(403号室)
Thursday, July 7, 2011
9:30-10:00 Welcome: MOCHIZUKI Tetsuo (SRC Director);
Introduction: David WOLFF (SRC)
10:00-12:00 Session 1 The Opening Door: New Archival Evidence from Japan
開き始めたドア:日本からの新たなアーカイヴ
Chair: ISHII Akira (Emeritus, Tokyo University)
1-1 INOUE Masaya (Kagawa University) “Japan’s Pursuit of a Modus Vivendi: Normalization of Sino-Japanese Relations and the Taiwan Issue, 1971-1972”
1-2 YOSHIDA Shingo (JSPS Research Fellow)“Credibility Imperatives vs. Domestic Antimilitarism: Japan’s Alliance Policies during the 1970s”
1-3 KUSUNOKI Ayako (Kwansei Gakuin University) “Evolution of the U.S.-Japan Alliance” Discussants: GABE Masaaki (Ryukyu University) and Vojtech MASTNY (Parallel History Project)
13:30-15:30 Session 2 “Hub and Spokes” Revisited: Korea, Taiwan, ANZUS
「ハブとスポーク」を考える:韓国、台湾、ANZUSの場合
Chair: SASAKI Takuya (Rikkyo University)
2-1 IZUMIKAWA Yasuhiro (Chuo University) “The Emergence and Evolution of the Hub-and-Spokes Alliance System in East Asia”
2-2 MATSUMOTO Haruka (Institute of Developing Economies, JETRO) “Taiwan Strait Crises and Chiang Kai-shek’s Strategic Thinking: A Perspective from the Taiwan’s Archive”
2-3 Vojtech MASTNY (Parallel History Project) “The ANZUS Experience and Security
in Asia Pacific: A Cold War Legacy”
Discussants: NAKAI Yoshifumi (Gakushuin University) and ENDO Ken (Hokkaido University)
15:45-18:00 Session 3 China’s Borders 中国の国境
Chair: IWASHITA Akihiro (SRC)
3-1 Sergey RADCHENKO (Nottingham University) “Carving up the Steppes: Borders, Territory and Nationalism in Mongolia, 1943-1949”
3-2 Sören URBANSKY (Freiburg University) “A Very Orderly Friendship: The Sino-Soviet Border under the Alliance Regime, 1950-1960”
3-3 Pierre GROSSER (Institut des Etudes Politiques) “Chinese Borders and Indigenous Parallels: France, Vietnam, and the Korean Model”
3-4 David WOLFF (SRC) “Stalin and Pan-Asianism: The Peoples of Asia Are Looking to You with Hope”
Discussant: Lorenz LÜTHI (McGill University)
18:30-20:30 Reception (Sapporo Aspen Hotel)
Friday, July 8, 2011
10:00-12:00  Session 4 Roundtable on Archives and Archival Projects
ラウンドテーブル「アーカイヴとアーカイヴ・プロジェクト」
Chair: MINAGAWA Shugo (Emeritus, Hokkaido University)
4-1 Japanese POW Project TOMITA Takeshi (Seikei University)
4-2 Japan GABE Masaaki (Ryukyu University)
4-3 Korea KURATA Hideya (National Defense Academy of Japan)
4-4 Russia Sergey RADCHENKO (Nottingham University)
Discussant: SHIMOTOMAI Nobuo (Hosei University)
13:30-15:30 Session 5 New Recently-declassified Evidence on Sino-Indian Border Conflict
中印国境紛争:公開された証拠
Chair: HAYASHI Tadayuki (Kyoto Womens University)
5-1 Lorenz LÜTHI (McGill University) “Sino-Indian Relations, 1954-1960”
5-2 James HERSHBERG (George Washington University) “Quietly Encouraging
Quasi-Alignment: US-Indian Relations, the Sino-Indian Border War of 1962, and the Downfall of Krishna Menon”
5-3 SHEN Zhihua (East China Normal University) “A Historical Investigation of the Sino-Korean Border Issue, 1950-1964”
Discussant: YOSHIDA Osamu (Hiroshima University)
16:00-17:30   Final Discussion Session
 Preliminary Conclusions, Emerging Linkages, Unresolved Gaps and Future Agendas
Chair: David WOLFF (SRC)

新学術領域研究

 第4回全体集会開かれる

全体会の一こま
全 体集会での一こま
 7月9日(土)に新学術領域研究第4回全体集会「最終成果の出版に向けて」が開催されました。プログラムは、下記のとおりでした。
 今回の全体集会 は、新学術領域研究の最終成果を各班 1巻ずつの 6巻本として出版することが最終的に決まったので、その出版に向けて体制を整え、各巻の位置付けを確認し合うことなどを主な目的としました。おかげ様で、 執筆予定者の6割以上の方々に集まっていただき、有意義な議論ができたように思います。「地域大国」や「ユーラシア」の定義など基本的な概念の確認や、比 較をどのようにおこなうかなどの方法論をめぐる議論もなされました。また、 7月 9日の午前中や 7月10日には、やはり出版を主要議題とする班ごとの打ち合わせがおこなわれました。これらを通じて、最終成果の出版に向けてよいスタートが切れたように 思っています。
[田畑]
新学術領域研究     第4回全体集会
  「最終成果の出版に向けて」
日時:7月 9日(土)14:00~ 18:00
場所:北海道大学スラブ研究センター大会議室(4階 403号室)

①出版の概要について
・趣旨説明
・執筆者・編者・総括班・事務局・出版社の役割分担と連絡体制
・執筆・編集・刊行スケジュール

②各班の出版への取り組みについて
上垣彰「ユーラシア地域大国の持続的経済発展」
唐亮・松里公孝「ユーラシア地域大国の政治比較:統治モデルの模索」
岩下明裕「ユーラシアの国際関係と政治地理」
宇山智彦「帝国の領域性を議論する意味:世界システム論の再考に向けて」
山根聡・長縄宣博「国家の輪郭と越境」
望月哲男「近代文化におけるユーラシアとアジア」


新学術領域研究

第6回国際シンポジウム(予告)

  2012年1月 19日(木)~ 20日(金)に、新学術領域研究第 6回国際シンポジウムが、スラブ研究センター大会議室で開かれる予定です。これは、センター恒例の冬期シンポジウムを兼ねたもので、仮の総合タイトルは Comparing Modern Empires: Imperial Rule and Decolonization in the Changing World Order[近現代帝国の比較:世界秩序変動の中での帝国統治と脱植民地化]です。近代帝国の統治システムの比較、帝国間や帝国と周縁の相互認識、帝国の 崩壊と国家再編、国際関係の中での脱植民地化、現在の大国を帝国として見る意味などを、ロシア、中国、インド、日本、イギリス、アメリカ、イランなどの例 に沿って議論します。プログラムは出来上がり次第、センターのウェブサイトで発表します。
[宇山]

新学術領域研究

『比較地域大国論集』第6号の刊行

 新学術領域研究第 1班の研究代表者、岩下明裕の編集で、『比較地域大国論集』第 6号 India-Japan Dialogue: Challenge and Potential[日印の対話:困難と可能性]が刊行されました。これは、本年 3月 11日にスラブ研究センターでおこなわれた国際シンポジウム「ユーラシアをめぐる日印対話」の報告を中心にまとめたものです。当号の全内容を、 本領域研究のホームページからダウンロードできます。
[後藤]

→続きを読む
スラブ研究センターニュース No.126 index