スラブ研究センターニュース 季刊 2011 年秋号No.127 index

学界短信

 第3回スラブ・ユーラシア研究東アジア・コンフェレンス(北京)における一つのパネルにて

 2011 年8 月27-28 日にかけ、北京で開催された「第3 回東アジア・スラヴ・ユーラシア学会」において、「ユーラシア主義の過去と現在:東からの視線」パネルがおこなわれた。
 ユーラシア大国としてのロシアの例外主義(Russian exceptionalism) は、1920-1930 年代にかけて、ボリシェヴィキに反対したロシア人によって形成された理論としてのユーラシア主義(евразийство)に端を発している。こうした知識人や学者の多くは革命を逃れ、西欧における亡命者として、新たなロシア・ナショナリズムのイデオロギーを構築した。初期ユーラシア主義者の思想は、力強く、喚起力に富むもので、ソヴィエト崩壊以降のロシアにおいても新たに関心と熱狂をもって取り上げられている。
 近年、ユーラシア主義に対して学術的な関心の復興が見られるようになってきた。しかし、それは「大西洋」的な見方であり、大陸での拡張主義のイデオロギーとしての政治的な意義に焦点を当てたものであった。それに対し本パネルでは、中国、日本、イギリス、ロシアの研究者が参加して、より広範に知的、地政学的、年代記的な観点から考察した。特に、ユーラシア主義へのアジアの態度と、ユーラシア主義者の思想におけるアジア理解が議論された。
 本パネルでは、Wu Yuxing 氏 (中山大学、中国)と斎藤祥平(北海道大学)が、アジアの視点から古典的なユーラシア主義について議論した。ポール・リチャードソン氏(バーミンガム大学、英国/北海道大学)は、南クリル諸島(北方領土)をケーススタディとして取り上げ、それがいかにユーラシア主義や現代ロシアのアイデンティティに関連するのかを考察した。山本健三氏(長安大学、韓国)は、ロシア思想におけるレイシズムと黄禍論について論じた。その後、アンドレイ・ポポフ氏(モスクワ国立大学、ロシア)と黒岩幸子氏(岩手県立大学)が各報告についてコメントをおこなった。ポポフ氏は、古典的ユーラシア主義とロシア思想について論評をおこなった。黒岩氏は、主にリチャードソン氏の報告を取り上げ、アレクサンドル・ドゥギンの思想を「ユーラシア主義」とすることに疑問を呈した。このパネル全体を通じて、古典的なユーラシア主義とネオ・ユーラシア主義の違いが明確になり、ユーラシア主義の研究に当たって、様々な方法のありうることが明らかとなった(本パネルについてのポポフの論評は以下参照:
 http://src-h.slav.hokudai.ac.jp/rp/group_06/achievements/index.html#20111005)。
ユーラシアの様々な地域から参加者を集めることができ、これからの議論に創造的な展望がもたらされるであろう。さらに、このパネルがユーラシア主義研究の国際的な協力をさらに促進することも期待したい。同時に筆者自身は、特に中国の研究者と交流するために、実践的なロシア語能力、特に会話能力を向上させる必要があるということを痛感させられた。
 将来、再び中国での国際会議に出席する機会を得ることがあれば、ロシア語での報告をおこないたい。
その一方で、ITP の一環としておこなわれた英語キャンプで、英語での報告方法を学んだことが、大いに役に立ったことを付け加えたい。さらに、そこで筆者は、同じくキャンプに参加していたFeng Yujun 氏(中国現代国際関係研究所)と知り合い、彼の好意でWu 氏とコンタクトを持つことができた(参照:http://src-h.slav.hokudai.ac.jp/itp-hp/itp-index.html)。
最後に、筆者はGCOE「境界研究」教育プログラムの補助によって、この会議に参加できたことについて謝意を示したい。また、拙稿にコメントをくださり、ご協力いただいた、先生方、スタッフ、同僚たちに感謝を捧げたい。これらの協力なしには、筆者は本パネルを組織することはできなかったであろう。本当にありがとうございました。

[斎藤祥平(桜間訳)]

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[大須賀]

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