スラブ研究センターニュース 季刊 2012 年冬号No.128 index

エッセイ

ワシントンDC 出張報告

安達祐子(上智大学)


20 日朝からおこなわれたパネル“Comparative Analysis
of the Russian Economy in Eurasian Perspective (2)”
 2011 年11 月17 日から22 日まで、 新学術領域研究「ユーラシア地域 大国の比較研究」の一環として、 ワシントンDC に滞在した。目的 はASEEES(Association for Slavic, East European, and Eurasian Studies スラブ東欧ユーラシア学 会、AAASS から改称)の年次大会 でのパネル報告、およびジョージ ワシントン大学(GWU)で開催さ れたセミナーでの報告であった。 ASEEES への参加は今回が初め てだった。かねてから11 月になる と、AAASS のプログラムを眺めな がら渡米したいという思いを募ら せていたのだが、今年は幸いにもこの時期の出張が可能となった。17 日から21 日までの大 会で、興味深いパネル(セッション)がぎっしり詰まっていた。初参加ということもあってか、 論文は読んでいるがこれまでその姿を目にしたことがない研究者の話を生で聞けるという楽 しみもあり、プログラムを手にしながらどのパネルに行こうかワクワクと迷いっぱなしだっ た。(行きたいパネルが決まったにもかかわらず、開催会場のつくりが複雑で、目的地にたど り着くのにも迷ってしまったが…。)特に楽しみにしていたパネルは朝一のものが多かったが、 8 時開始にもかかわらず、どれも盛況だった。 さて、自身のパネル報告について。これには心配事項が二つほどあった。一つ目はプログ ラムに急きょ変更が生じたこと。パネル(“Politics in Regional Powers: Russia, China and India”)は3 つの報告によって構成され、もともと私は「ユーラシア地域大国の比較研究」 の成果として大阪経済法科大学の大串敦さんとの共著ペーパーの共同報告を予定していた。 だが、直前になり同じパネルで報告を予定していた研究者の方が諸般の事情により参加が難 しくなったため、代わりに私が一つ独立した報告をすることになってしまった。突然の展開 にうろたえながら、なんとか持ちネタ(最近やっと出版できた単著)をベースにしたもので 対応することができた。二つ目の心配事はパネルの日時だった。幸か不幸か最終日の最終時 間帯に割り当てられたのだ。最終日が日曜日だったので、多くの参加者は報告や討論などそ れぞれの出番を終え、帰路に向かう人々が多かった。しかも裏番組で相当面白そうなパネル が同時並行であり、最終日まで残った聴衆がそちらのほうに流れることが想像できた。ただ、 実際にふたを開けてみると…。大入り満員というわけではなかったがオーディエンスの皆さ んの反応がとてもアクティブで、パネルを組織してくださったスラブ研究センターの松里公 孝先生のディスカッションとGWU のHenry Hale 氏のチェアのもと、質疑応答も大いに盛 り上がった。 というわけで、心配事もパネルが終わってしまえば良い思い出となり、今回のASEEES 参 加は実り多きものとなった。巡った数々のパネルは全般的に質の高いものが多く、大変勉強 になった。また、いろいろな出会いがあった。これまで名前だけは知っていた研究者たちと
の出会いをはじめ、大学院時代にお世話になった人々との懐かしい再会、また私のことを論 文などを通じて知っていると言ってくれた人々と出会えたのは嬉しい驚きだった。なんだか 今回すっかり刺激を受けてしまった私は、来年はできれば今回知り合った研究者とパネルを 一緒にやろうとこっそり心に決めたのだった。 ASEEES での報告の翌日、新学 術領域研究「ユーラシア地域大 国の比較研究」とGWU のエリ オットスクールとのジョイント 企画としてセミナーが開催され た。題して“China, Russia, and the Existing World Order: Seeking to Overthrow the Status Quo or Merely Pursuing Advantage within It?”。報告については、「ユーラシ ア地域大国の比較研究」第2 班よ り松里先生、大串さん・安達報告、 第3 班より田畑伸一郎先生、金野 雄五さん報告という4 本立てで、 これにコメンテータとしてエリオットスクールのIERES(欧州ロシアユーラシア研究所)よ り Marlene Laruelle 氏、アジア研究所であるSigur Center よりDeepa Ollapally 氏、そし てGW ビジネススクールよりJiawen Yang 氏が参加した。プログラム詳細についてはGWU が立派なフライアーを作成しているのでそちらをご参照いただきたい:(http://www.gwu. edu/~ieresgwu/assets/docs/11.21.11_Panel.pdf)。GWU でもロシア・中国・インドを含む 大国比較プロジェクトを行っていることを今回初めて知ったのだが、ユーラシア地域大国を 対象とした比較研究への関心が高いことがセミナーに出席してくださった聴衆のリアクショ ンからもうかがうことができた。学生や研究者をはじめ、ジャーナリストやシンクタンク、 NGO 関係者が出席し、セミナー直後に軽くレセプションがあり、意見交換の時間が設けら れた。

GWU とのジョイントセミナー
このたびの「ユーラシア地域大国の比較研究」とGWU とのジョイントセミナーは、スラ 研の松里先生や田畑先生のご尽力のもと実現したのであるが、その実現プロセスを一部なり とも垣間見ながら強く再認識したことがある。こうした企画の実現には、研究能力はもとよ り、グローバルな発信力・交流力・コーディネーション力を身につけることがホントに重要 だな…と。つまり、今回のようなコラボ企画を成功させるためには、相手とのコンスタント な交流が必要だし、ネットワークをつくるためには自分の研究を常に発信していないと相手 に認知されない。企画を実現するためにはコーディネーション力がないとだめ。また、そう いった企画によって研究の発信の機会を設けることができ、そういう研究会を通して新しい 交流も生まれるが、築いたネットワークはメンテナンスしないといけない。こうして書くと、 当たり前のように聞こえるかもしれないが、言うは易く行うは難しで、自らの至らなさを反 省しつつ、帰国の途に就いた。 以上のように、久しぶりに訪れたワシントンでの滞在はなにかと有意義なものとなった。 おまけ的にではあるが、GWU セミナー参加の数時間前に、カーネギー財団でロシアに関す るセミナーが催されたので立ち寄ってきた。シンクタンクや国務省スタッフからの実務的な 質問が目立ち、ワシントンDC ならではの雰囲気に触れることができた。さらに個人的には、 2 年間ほどDC で過ごした修士課程時代のことを思い出しながら、初心に帰ることもできた 気がする。
 

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