スラブ研究センターニュース 季刊 2013 年冬号No.132 index

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◆BRIT XII(Border Regions in Transition: 移行期の境界地域) ◆
研究大会を主催

福岡での大会のようす
 2012 年11 月13 日から16 日にかけて、北大GCOE「境界研究の拠点形成」主催による BRIT XII 福岡・釜山大会が開かれました。BRIT は冷戦崩壊後の1994 年にドイツ・ポーラン ド大会で結成された境界・国境地域に関わる研究者が集うネットワークで、ヨーロッパを中心に大会が組織され、近年 は北米・南米へと拡大しています。BRIT の特徴は、通常の学会組織と違い、恒常的な事務局をもたない自発 的な研究ネットワークであることです。そのため大会を誘致・主催する組織者がプログラムやスケジュール を自由に組むことになります。ただ、国境に面した2つの(違う国の)都市で開催すること、会議の間に国 境を越える巡検(フィールドトリップ)を入れることが必須とされています。
 日本でこのような巡検をスムーズにできる地域、そして何より隣国とペアの関係でその発展を考えている都市は、 福岡市しか見当たらず、九州大と東西大(釜山)を共催組織に引き込むことで、BRIT XII 福岡・釜山大会が実現しました。
BRIT 参加者一行、フィールド・トリップで対馬に上陸(厳原港)
大会初日、佐伯浩・北海道大学総長による開会の辞に続き、主催者を代表して岩下明裕 (GCOE 拠点リーダー)が、“BRIT XII: Challenges and Perspectives” と題するスピーチをお こない、その中で、ユーラシア・東アジアにおいて境界研究の拠点が不在であり、BRIT 初 の東アジア開催意義が強調されました。福岡国際会議場では福岡市主催による九州大・東西 大の学生による討論会や、姜尚中氏の講演会も開かれました。境界地域研究ネットワーク JAPAN(JIBSN)の組織により、稚内、与那国、竹富、五島など国境自治体の実務者も参加 し、日本の境界研究のプレゼンスを示しました。福岡で2 日間研究大会をおこなった後、参 加者一同はJR 九州か らチャーターしたビー トル号(水中翼船)で 博多港から対馬厳原港 に渡り、「国境の島」 対馬を縦断し、財部能 成・対馬市長の講演を 経て、比田勝港から出 港し、韓国釜山港へ入 国しました。今回の船 による国境越えは多く の境界研究者の関心を 惹いたようです。 釜山では、東西大の真新しいセンタム・キャンパスで大会が続けられました。最終日、張濟國・ 東西大学総長は、昨今の日韓間の対立を念頭に置きつつ、境界間の交流を続け、境界研究を 推し進めることが両国間の政治的対立、さらには東南アジアにおける対立の解決につながる との期待を表明し、4 日間に渡る大会が成功裏に閉幕しました。40 ヵ国200 名を超える参加 者のスケールはBRIT 史上最大となり、アジア/ユーラシア地域の研究者、特に日本、シベリア・ 極東ロシア、中国、シンガポール、タイ、インドの研究者群のプレゼンスは、これまでBRIT を牽引してきた欧米の研究者に多大なインパクトを与えました
[岩下・藤森]

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◆境界地域研究ネットワークJAPAN(JIBSN)一周年記念シンポジウム◆
「日本の国境:課題と機会」

シンポジウムのようす
 2013 年1 月22 日、東京永田町の全国町村会館にてJIBSN 設 立一周年記念シンポジウム「日本の国境:課題と機会」が開催 されました。本シンポジウムは、2010 年度から始まった笹川平 和財団助成プロジェクトの成果報告の場として、北海道大学グ ローバルCOE プログラム「境界研究の拠点形成」及びスラブ 研究センターとの共催によりおこなわれました。昨今、領土問 題をめぐる議論が沸騰していることもあり、事前登録は140 名に及び、当日も100 名程度の参加がありました。なかでも後 援の朝日新聞社の記者を始め、20 名以上がメディア関係者であったことが眼を引きました。 シンポジウムは、JIBSN 代表の外間守吉・与那国町長の挨拶を皮切りに、副代表の岩下がボー ダースタディーズ(境界研究)の分析手法の一つである「分断された空間(「生活圏」)」論を もとに、ベルリン、ベルファスト、エルサレム、モスタル、オキナワ(基地問題)などを比 較する内外のプロジェクトの成果を参照しつつ、現場の視点(「生活圏の再構築」)から、根 室と歯舞、隠岐の島と竹島、八重山・宮古と尖閣諸島の空間的つながりを考える視座を強調 しました。
 次いで財部能成・対馬市長が、不安定な日本の境界地域のなかで最も安定している「福岡・ 対馬・釜山」海域の現況と取り組みについて紹介し、自治体に属する海域という観点から、 日本を取り巻く海の利益を守る切り口をアピールしました。加えて国境離島振興へむけた取 り組みの遅れを批判しつつも、今後の政府方針への期待感を表明しました。 古川浩司・JIBSN 事業部会長(中京大)は、対馬から日本全国の国境地域の活動へと議論 を展開し、境界自治体のコンセプトをもとにJIBSN ネットワークへの関係団体の結集を呼び かけ、近い将来の日本の国境政策づくりへ向けた提言を模索している旨を訴えました。
 これらの問題提起をうけ、若宮啓文氏(元朝日新聞主筆・フリージャーナリスト)は、こ れまで日本が歩んできた歴史を今一度、振り返り、そのマイナスを乗り越えるため、韓国や 中国との関係において、日本から一歩踏み出すことが重要だとする趣旨からコメントをおこ ない、北方領土問題、竹島を中心に解決のためのアイデアを示唆しました。 質疑応答では、松田和久・隠岐の島町長を始め、五島市、小笠原村ら自治体関係者、パネ リスト、参加者の間で激しくも刺激的な応酬が続きましたが、高い位置から抽象的に「領土」 を議論する傾向の強い東京の論壇に向けて、現場からの視点や(中央が無関心な)生存の身 体性を突きつけることを目指したシンポジウムの目標は十分に達成されたと思います。セン セーショナルな事件にのみ眼を奪われることなく、地道に境界地域を考え続けるJIBSN の存 在意義はまさにこれからが正念場を迎えることになるでしょう。 なお本シンポジウムの記録は、JIBSN レポートとして後日、公刊される予定です。議論の 模様もUstream などで一部配信されます。
[岩下]

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◆第8期展示「知られざるクリル・カムチャッカ:◆
ロシアから見た境界のイメージ」開幕

第8期展示のようす
 2013 年1 月25 日~ 5 月26 日迄、 北海道大学総合博物館において、 本GCOE プログラムが監修する博 物館展示「知られざるクリル・カ ムチャッカ:ロシアから見た境界 のイメージ」を開催中です。 北海道から見ると遠い向こうの 世界であったクリル(千島)列島 やカムチャッカ半島は、ソ連やロ シアの人々の目にはどのように 映ったのか。画家が残した膨大な 絵画や、科学者が研究対象とした 鉱物資源、水産・林産資源を通じて、 「近くて遠い」クリル・カムチャッ カの過去・現在・未来を理解し、境界問題を考えることが本展示の目的です。入館料無料、 どなたでもご覧いただけます。
[藤森]

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◆『境界研究』、Eurasia Border Review 発行される◆

 GCOE「境界研究の拠点形成」が編集する査読誌『境界研究』第3 号および英字誌Eurasia Border Review Vol.3, No.2 が2012 年秋に発行されました。いずれもHPからダウンロードして読むことできます。
[岩下・藤森]
   

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