スラブ研究センターニュース 季刊 2013年冬号No.132 index
2012 年11 月4 日の13 ~ 18 時、北海道大学人文・社会科学総合教育研究棟で、2012 年度 内陸アジア史学会大会が開かれました。同学会の大会が北海道で開かれるのは初めてでした。 当日の北大キャンパスは、美しい紅葉に覆われながらも、あいにくの嵐でしたが、非会員も 含め60 名ほどの参加がありました。以下、長縄宣博氏による参加記をお読みください。
大会は、荒川正晴先生(大阪大学)による「前近代中央アジアの国家と交易」と題する公
開講演で幕を開けました。その内容は、6 世紀末頃のトルファンのオアシス国家を事例に、
突厥などの遊牧国家との活発な使節団の往来がキャラヴァン交易の基盤であったとし、そし
てそれによってオアシス国家の農業やその他の産業も規定されてきたことを解説するもので
した。荒川先生は2010 年に名古屋大学出版会から『ユーラシアの交通・交易と唐帝国』とい
う大著を出しておられますが、そこで言い切れなかったことを今回の講演で話したのだと何
度も強調しておられたのが印象的でした。
続いておこなわれた研究発表は、北大に関係の深い3 人の方によっておこなわれました。
最初の報告は、長峰博之氏(北嶺中・高等学校)による「カーディル・アリー・ベグとその
史書について:ジョチ・ウルス『内部史料』の史料的可能性とその歴史認識」でした。この
史書は、15 世紀半ばにモスクワに服属したチンギス家の政権であるカシモフ・ハン国のハン
に仕えていた人物が1602 年に著したものです。長峰氏は、川口琢司先生と共同でこの史書の
校訂テクストと訳註を作成中とのことで、報告内容も、思い込みが先行していた研究史上の
問題点を洗い出しながら、史料を虚心坦懐に読み解くものでした。会場からは、元遊牧民に
よる史書を「内部史料」とどこまで言えるのか、また、その執筆動機は何だったのかを確認
する質問がありました。
二番目の報告は、高本康子氏(センター)による「大陸における対『喇嘛教』活動:満洲
国興安北省を中心に」でした。治安当局の日本人が「ラマ教徒」の教団を整備し、かつ資格
試験を実施していたという件は、ロシア帝国のムスリム宗務管理局の制度を彷彿とさせ、個
人的にも大変興味を覚えました。また、現地モンゴル人と日本人が肩入れするブリヤートと
の確執という論点も、日本の対ソ連外交における、越境するミクロなアクターの重要性を考
える上で、示唆に富んでいました。
最後の報告者は、文学研究科スラブ社会文化論専修から2009 年に博士論文を提出した秋山徹氏
(日本学術振興会特別研究員)でした。「ロシア統治下におけるクルグズ首領層の権威:
遊牧世界とイスラーム世界のあいだで」と題した報告は、ロシア語の行政文書を丹念に読み
直し、数少ないテュルク語の記録も参照しながら、クルグズ社会に内在する政治権力のあり
方やその変容を説明しようとする大変意欲的なものでした。
時間の制約もあり、質疑応答は事実確認に関わるものが主でしたが、想像力を掻き立てる
濃密な議論は、懇親会とその後まで続いていたようでした。
2013年6月1-2日 | 比較経済体制学会2013年度全国大会 於新潟大学 |
8月2-4日 | スラブ研究センター夏期国際シンポジウム |
8月9-10日 | 第5回スラブ・ユーラシア研究東アジアコンファレンス 於大阪経済法科大学 |
10月5-6日 | 2013 年度ロシア・東欧学会研究大会 於津田塾大学(JSSEES との合同大会となる予定) |
10月23-5日 | ヘルシンキ大学アレクサンテリ研究所コンファレンス“Russia and the World”ペーパー応募締切:5月15日 |
2015年8月3-8日 | ICCEES 第9回大会 於幕張 |