スラブ研究センターニュース 季刊1997年 春号


S LAVIC

R ESEARCH

C ENTER NEWS No. 69 April 1997


エッセイ:
林忠行	チェコ・スロヴァキア選挙見物雑感
 −1990〜1996年−
S.アルチュウノフ	北海道再訪
 

研 究 の 最 前 線

◆ 1997年度夏期国際シンポジウムの開催 

本年7月16日(水)〜19日(土)の4日間、センター主催の国際シンポジウムが開催されます。今回は「共存のモデルを求めて:スラブ・ユーラシアの変動に見る民族の諸相」というテーマのもとに、民族に関わる諸問題を多角的に検討して、さまざまな共存モデルを模索することを目的としています。これに加えて、「体制変容下のスラブと中国」というテーマで、スラブ・中国両領域研究者の合同セミナー等も企画中です。プログラムは次号のセンターニュースに掲載します。
なお、外国からの参加予定者(センター外国人研究員は除く)は次のとおりです。[井上]

アンヴァル・ガリエフ (カザフスタン科学アカデミー・東洋学研究所)
ボリス・P・シシュロ (フランス国立学術研究センター)
ジョフリー・ジュークス (オーストラリア中東・中央アジア研究センター)
ヴァヂム・A・トウラエフ (ロシア科学アカデミー・極東諸民族歴史・考古学・民族学研究所)


◆ 199年度冬期研究報告会おこなわれる 

1月30日から2月1日にかけて、センター恒例の冬期研究報告会がおこなわれました。今回の総合テーマは「スラブ地域の変動−その社会・文化的諸相−」。8つのセッションにわたって総計33の報告がおこなわれました。また最終日には重点領域研究に関係した催しがおこなわれました。
変動する社会を文化的視角から捉えるのは難しい業ですが、諸領域の報告者の方々が、現状分析そのものだけでなく現象の背後にある意識や行動様式の側面にも注意を向けて下さったおかげで、実り多い成果を得られたと感じております。とりわけ今回はロシアの法や契約意識の問題、教育改革の理念と現状といった、従来の研究報告会になかった論題が盛り込まれたこともあって、これまで交流の乏しかった研究領域の方々のお話しをうかがうことができました。
報告者・討論者をはじめ今回の催しにご協力下さった総計100名以上に上る参加者の方々に、深く御礼申し上げます。
なお会の成果は重点領域研究報告輯の一環として発行される他、スラブ研究センターのホームページにも掲載される予定で、目下編集作業をおこなっております。[望月]


◆ 公 開 講 座 

《ロシア文化の新しい世界》

スラブ研究センターの公開講座は、今年で12回目を迎えます。今回は、「ロシア文化の新しい世界」と題して実施することになりました。 トルストイやドストエフスキイの小説、チャイコフスキイの音楽など、ロシアの19世紀の文学・芸術は、日本でもよく知られています。しかしロシア文化には、一般市民に知られていない側面がまだまだたくさんあります。ソ連崩壊後の社会の激変の中で生まれてきた新たな潮流もあれば、最近見直されている過去の文化もあります。 今回の講座では、文学、芸術学、民俗学、人類学、アジア研究といった学際的な視点から、ロシア文化を考えることにしました。センター外からも4人の先生をお招きしています。受講者の方々に、ロシアの最先端の文学・芸術や、宗教や民衆の中に見て取れる深層のロシア文化、隣接地域から見たロシア文化の像に触れていただければ幸いです。 開講日程は下記の通りで、時間は各回午後6時30分から午後8時30分までです。会場は北大文系講堂2階8番教室です。受講料は6,400円で、18歳以上の方であればどなたでも受講できます。申込はセンター事務掛で受け付けています。多数の皆様のご参加をお待ちしております。[宇山]

第1回5月12日(月)ロシア文化は「ポストモダン」か?  望月哲男(センター)

第2回5月15日(木)現代ロシア美術 鈴木正美(芝浦工大)

第3回5月19日(月)中央アジアから見たロシア文化 宇山智彦(センター)

第4回5月22日(木)ロシア正教会はどこへ向かうか 廣岡正久(京都産業大)

第5回5月26日(月)シベリア少数民族とロシア文化 井上紘一(センター)

第6回5月29日(木)民衆文化・民族文化から見たロシア 坂内徳明(一橋大)

第7回6月 2日(月)ロシア映画の現在 井桁貞義(早稲田大)


◆ 1997年度の外国人研究員 

1997年度の外国人研究員としてモルデチャイ・アルトシューラー(イスラエル、ヘブライ大学現代ユダヤ人研究所)、ボリス・N・ミロノフ(ロシア科学アカデミー・ロシア史研究所)、ヴォロディムル・A・ポトウルニツキー(ウクライナ科学アカデミー・史料学研究所)の3氏が6月初め以降センターに滞在される予定で、目下受入れの準備が進められています。滞在の日程は、アルトシューラー氏が1998年2月末までの9ヵ月、またミロノフ、ポトウルニツキーの両氏は同じく3月末までの10ヵ月を予定しています。
なお、COEに関わる外国人研究員としては、アルフレト・F・マイェヴィチ(ポーランド、アダム・ミツキェヴィチ大学極東研究学部)、ヴィルモシュ・アーゴシュトン(ハンガリー、フリーランス・ジャーナリスト)、オレグ・T・ボゴモロフ(ロシア科学アカデミー・国際経済政治研究所)の3氏がセンターに滞在される予定で、やはり受入れの準備が進行中です。滞在日程は、マイェヴィチ、アーゴシュトンの両氏が6月から4ヵ月、ボゴモロフ氏は10月初めから5ヵ月の予定です。 上記6名の方々はセンターでの研究活動、センター主催の研究会、シンポジウムへの参加のほか、国内各地への研修旅行も計画されています。これらの方々との研究交流に関心のある方は、センターまで御連絡ください。[井上]

◆ 1998年度外国人研究員公募締め切る 

この3月末で1998年度の外国人研究員の公募を締め切りました。現在、整理段階にあるために暫定的な数字しかわかりませんが、応募件数は76件にも達しています。このうち、書類不備のものは15件でした。おおよその分野別の内訳をみますと、歴史が14件と一番多く、次いで文学・哲学12件、政治9件、民族9件、経済6件、東欧6件となっております。過去のセンター外国人研究員であった研究者による紹介、国際シンポジウムでの参加、インターネットでのホームページなどによって情報を得られたために、多くの応募者があったものと推測されます。[村上]

◆ 1997年度鈴川基金奨励研究員の募集締め切る 

本年度の鈴川基金奨励研究員の応募は4月30日で締め切られます。選考結果はニュース次号に発表されます。 なお、1996年度冬に鈴川基金奨励研究員として滞在を予定していた方のうち、渡邊日日氏は予定通り来札し資料収集や研究報告をおこなわれましたが、崔在東氏は都合により辞退されました。[宇山]

◆ 1997年度COE非常勤研究員について 

COE非常勤研究員については、本年度も3名の受入枠を申請しましたが、残念ながら2名に減員となりました。応募者の中から大須賀史和氏と武田昭文氏が採用となり、両氏は4月1日に赴任しました。これまでと同様に、共同研究の補助業務を担当しながら、それぞれの研究をセンターでおこなうことになります。なお、昨年度に非常勤研究員として勤務していただいた藤田智子氏は札幌大学非常勤講師、矢田部順二氏は広島修道大学専任講師、松戸清裕氏は北海学園大学専任講師として、教育研究活動を継続します。この3名の在任中の貢献に、心より感謝申し上げます。
大須賀史和(おおすか ふみかず)東京外国語大学大学院地域文化研究科博士課程修了 ロシア思想史専攻 武田 昭文(たけだ あきふみ)早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了 ロシア文学専攻[林] 

◆ 北東アジア天然ガス・オプションに関するワークショップ開催 

英国の著名な王立国際問題研究所は、札幌で1997年3月17〜18日の2日間、メNatural Gas Options in North East Asiaモと題するInternational Workshopを開催し、センターがそのホスト役をつとめました。当センターの村上専任研究員が昨年、COE在外研究員として王立国際問題研究所で研究生活をしている間の成果として実現したものです。ワークショップには英国、ロシア、韓国、中国、米国、日本など50名の政府、研究所、団体、企業の専門家が参加しました。生田日本エネルギー経済研究所理事長がメイン・チェアマンをつとめられ、北海道大学からは丹保総長が開会の挨拶をしました。各国政府からは通産省の林石油部長、外務省佐藤国際エネルギー課長をはじめ、ロシア、中国、米国および韓国の政府代表が、北東アジアのエネルギー問題について議論に参加いたしました。今回のワークショップの意義は、サハリン大陸棚の石油・天然ガス開発が本格化し、イルクーツク州からモンゴル経由で北京、天津までのパイプライン、さらにはサハ共和国に繋がる天然ガス・パイプライン構想がホットな話題になっているという環境のなかで、北東アジアの中心都市のひとつ札幌で国際会議(英語使用)が初めて開かれたことにあります。シェル、BP、テキサコ、モービル、エクソンなどの世界の石油メジャーもこぞって参加しました。
21世紀に入ってアジアの天然ガス需要がどうなるのか、サハリン大陸棚、イルクーツク州およびサハ共和国の天然ガスが十分供給力をもつのか、パイプライン長距離輸送が採算に乗るのか、などといった問題を24人の報告者、討論者が議論し、フロアーからも活発な質問や意見が出されました。OHPを使った石油メジャーの報告は、概して洗練されたものであり、この場で何を主張するかが極めて明瞭に打ち出されていたように思います。今回のワークショップはまことに時宜を得た企画ですが、本来ならば地域に貢献する北海道大学あるいはわがセンターや日本政府、北海道庁などが産学共同の地域貢献型研究としてイニシアチブをとるべき性格のもののように思われます。[村上]

村上 隆
murakami@slav.hokudai.ac.jp
電話011-706-3788
Fax 011-709-9283


◆ 専任研究員セミナー 

研究員が日頃の研究成果を報告する専任研究員セミナーは、当センターの最も重要な活動のひとつです。近年、専任研究員が増え非常勤研究員の報告も加わりましたから、それぞれの日程調整が難しく、1996年度は後半に報告が集中しました。1997年に入ってからは2人の専任研究員と3人の非常勤研究員(COE関連)が下記の内容で報告しました。

・村上隆
日時:1997年1月20日 10:00〜12:00
テーマ:ハバロフスク地方および沿海地方における機械工業企業の動態分析
コメンテーター:荒井信雄(静修女子大学助教授)

・矢田部順二
日時:1997年2月28日 10:00〜11:30
テーマ:「チェコ=ドイツ和解宣言」に関する若干の考察
コメンテーター:家田修(センター教授)

・松戸清裕
日時:1997年2月28日 11:30〜13:00
テーマ:60年代ソ連の農業管理体制 生産管理局と生産管理局党委員会
コメンテーター:皆川修吾(センター教授)

・宇山智彦
日時:1997年3月11日 10:00〜12:00
テーマ:カザフ知識人と1916年反乱
コメンテーター:西山克典(札幌市立高等専門学校教員)

・藤田智子
日時:1997年3月24日 10:00〜11:30
テーマ:シェールギンのスカース
コメンテーター:望月哲男(センター教授)

村上研究員の報告は、文部省科学研究国際学術(研究代表者山村当センター教授)に基づく、ハバロフスクの現地調査を踏まえて、ハバロフスク地方および沿海地方の機械工業の動態を分析したものです。宇山研究員は、当センター就任初の専任研究員セミナーでの報告で、カザフ知識人の姿を、これまで日本のどの研究者も避けてきた新聞「カザフ」を綿密に分析して、報告しました。今年も、COE非常勤研究員にも報告していただきました。さまざまな雑務に追われるなかで、若い研究者がきちんと準備して報告する、それも余り素性のわからない?当センター専任研究員の前で報告するのは大変苦痛なものと察します。しかし、若手研究者の研究水準は高く、このような報告の機会があるからこそ、一層研究活動に意欲を燃やすことになるのだろうと思います。[村上]


◆ 研究会活動 

ニュース68号以降の北海道スラブ研究会とセンター特別研究会の活動は以下の通りです。[山村]

3月10日 S. V. チェシュコ(ロシア科学アカデミー民族学研究所)
メOn the Theory of Ethnos(a preliminary version)モ(特別研究会)

3月14日 保田孝一(岡山大学名誉教授)「ゴロウニンと高田屋嘉兵衛−新発見資料をめぐって」(北海道スラブ研究会)

3月19日 L. ファルチャン(スロヴァキア科学アカデミー社会学研究所)
メSteps to the EU Integration and Interregional Differences of Slovakiaモ(特別研究会)
Z. シュチャストニー(スロヴァキア科学アカデミー社会学研究所)
メEU enlargement from the view point of Slovakian Agricultureモ(特別研究会)

3月26日 B. A. イスラーモフ(北東アジア研究センター/東北大)メAbout Economic Reform in Uzbekistanモ(特別研究会)

4月10日 J. P. スキャンラン(オハイオ州立大)メRussian Philosophy and Its Role in Russian National Renewalモ(特別研究会)



Next