1998年度夏期国際シンポジウム開催される

第一セッションのようす
去る7月22日から24日にかけて、文部省COE国際研究集会経費の援助を受けて、スラブ研究センター夏期 国際シンポジウム「地域:スラブ・ユーラシア世界を映す鏡」が開催された。外国人研究者としては、センターに滞在中の6名(クリャムキン、シシキン、ポス トニコフ、ラトランド、ヤング、ヤナシェク-イワニチコヴァー)以外に、シンポジウム経費で招請された4名(キエヴォ・モヒリャ・アカデミー大学からナタ リヤ・ヤコヴェンコ、ミシガン大学からマイケル・ケネディ、西欧同盟戦略研究所からステファン・スピーゲレア、国際人文政治研究所からセルゲイ・ルイジェ ンコフ)、日本滞在中の外国人研究者としてアレクセイ・ポノマレンコ(ロシア連邦統計国家委員会)とスティーヴン・ローズフィールド(ノースカロライナ 大)が報告した。特筆すべきは、中央アジア諸国からの参加者が活躍したことである。その報告は、Central Asia in Transition(センター研究報告シリーズNo. 61、1998)として既に出版されている。日本からの参加者は95名(うち報告者5名)で、重点領域研究期間中の国際シンポジウムに比べれば規模的にや や劣るものの、通常の国際シンポジウムとしては盛況であったと評価できよう。 組織責任者としては憚られる言い方だが、この国際シンポジウムは、スラブ圏の地域学(リージョノロジー)に関してはスラブ研究センターが世界的な研究拠点 になりつつあることを示した。9月下旬にフロリダ州ボカラトンで開催されたAAASS(米国スラブ研究促進学会)年次大会においても、アメリカやロシア本 国のそれと比肩するものとして日本のロシア・リージョノロジーがしばしば言及された(「これに関しては日本はドイツを追い越したね」などと直裁に言ってく る人もいた)。たしかに、リージョノロジーは膨大な予算・時間・労力を投入することを要求する研究分野であり、何よりもこれら条件面で日本のスラブ研究は 冷戦終了後の欧米よりも遙かに有利な位置にあるのだから、それも当然である。もともと日本のスラブ研究は、学際的であること、イデオロギーの呪縛が少ない こと(ボカラトンでは、あるアメリカの若手研究者が、サマーラ州の方がウリヤノフスク州よりも「より民主的」であるということを8つほどの指標を使って 「証明」したが、若い研究者が貴重なフィールドワークの時間をこのような将来性のない方向のために費やしているのはもったいないことである)などから、 リージョノロジーが発展しやすい土壌を有していた。そのことが、日本のスラブ研究者が語学障壁を克服しつつあること、インターネットのおかげで日本でおこ なわれていることが直ちに世界化すること等と相まって、我々の国際的な責任をより重くする方向で作用したと言えよう。大切なことは、日本のスラブ研究が、 欧米、ロシア、NIS諸国でおこなわれている最先端の研究に交流と飛躍の場を与えるような役割を果たし続けることである。 もちろん日本のスラブ・リージョノロジーにも順風満帆とは言えない事情もある。最も深刻なのは、ロシアの政治と歴史に関して、若手でこの分野に挑戦する人 がほとんど皆無であることである。地理的には、東京や関西の同僚にもっと奮闘して欲しい。アメリカの研究者については逆で、クレムリンやアホートヌィ・ リャトでおこなわれていることにもっと関心を払った方がよいと思う。たとえばボカラトンで、大統領府や連邦協議会(上院)に関する報告が1本もないのに、 ウドムルチヤ共和国に関する報告が4本もあるというのは、どう考えても正常ではない。このような「リージョノロジー中毒」は、ポスト・ソヴェト学全般に とってのみならずリージョノロジー自体にとっても有害であろう。 シンポジウムの内容については、北海道新聞8月24日号に掲載の拙稿をご参照のこと。シンポジウムの報告集は、今年度中に英語論文集として出版される予定 である。[松里]

研 究 の 最 前 線

◆ 1998年度冬期研究報告会の開催は1月28〜29日に ◆

恒例の冬期研究報告会が1999年1月28日(木)・29日(金)センターで開催されることになりました。 現在のところ以下のようなパネルが予定されています。

1999年1月28日(木)
第1-1セッション 「民族文化」にとっての「ソ連時代」再考

報告者:
東田範子(東大・院)「ソビエト体制下におけるカザフ音楽文化の変容」
渡邊日日(東大・院)「社会主義民族文化の形成とその効果:政治人類学的アプローチ」
第1-2セッション 「ロシアの地域経済」
第2セッション 現代ロシアの社会と政治

報告者:
I.M. クリャムキン(社会学分析研究所/ロシア)
「第三千年紀を前にしたロシアの権力:ポスト・ソビエト期のロシアの政治システム − 発生、進化、そして転換への展望」(ロシア語) A.M. ミグラニヤン(ロシア連邦大統領評議会)「未定」
第3セッション

報告者:
A.V. ポストニコフ(ロシア科学アカデミーロシア科学技術史研究所)
「政策と地理学:パミールをめぐる“大ゲーム”の歴史」(英語)

討論者:
松本佐保(明海大)
第4セッション

報告者:
V.I. シシキン(ロシア科学アカデミーシベリア支部歴史研究所)
「西シベリアのヴァンデー:1921年の農民反乱」(ロシア語)

討論者:
原暉之(北大)
懇親会 於札幌アスペンホテル
1月29日(金)
第5-1セッション 持続可能な経済開発と環境保全:サハリン州の事例

報告者:
伊藤美和(法政大)「政治とエコロジー」
片山博文(横浜国立大)「環境問題」
第5-2セッション ロシア農民研究の新展開

報告者:
阪本秀昭(天理大)「未定」
第6-1セッション ヴォルガ中流域民族共和国の多角的研究

報告者:
関啓子(一橋大)「タタルスタンとバシコルトスタンにおける教育政策とエリート形成」
松里公孝(北大)「ウドムルチヤにおける憲法危機(1995-1997)」
第7-1セッション ロシア文化論の現代的展開

報告者:
久保久子(北大)「文学的メタファーとしての身体」
第7-2セッション

報告者:


以上のようにプログラムはまだ確定作業中ですが、報告会の日程変更はございませんので、参加希望者はゆとりをもってホテルの予約や早割航空券を各自でお求 め下さい。[皆川]

◆ 日本ロシア・東欧研究連絡協議会(JCREES)発足 ◆

佐々木りつ子(旭川大)「ロシアの大統領制:CISの大統領制との比較分析」
金成浩(北大)「チェコスロバキア侵攻(1968)におけるソ連の政策決定過程」
本年7月24日、日本ロシア・東欧研究連絡協議会(The Japan Council of Russian and East European Studies, 略称JCREES)が設立されました。 この連絡協議会は、日本でロシア・東欧地域の研究をおこなう学会や研究会が、相互間ならびに海外の関連学会等との間の連絡網を統合し、内外の情報連絡をよ り円滑かつ迅速に進めることを目的としています。創設総会では、ロシア・東欧学会、ロシア文学会、日本スラブ・東欧学会、ロシア史研究会、日本国際政治学 会ロシア・東欧分科会の5団体が正式に参加を表明し、当初の会員団体となりました。そのほかに、通信会員団体としての加盟も可能です。 代表幹事には川端香男里(ロシア・東欧学会)、副代表幹事に藤本和貴夫(日本スラブ・東欧学会)、会計監事に宇多文雄(ロシア文学会)の3氏がそれぞれ選 任されました。 事務局はスラブ研究センター内におき、センター長が事務局長を務めることになりました。したがって、センターの住所がJCREESのパーマネント・アドレ スです。また維持の便宜上、電子メール・アドレスもセンターと共用にさせていただきます。 センターのホームページ・ウェブサイトに開設されたJCREESのホームページには、連絡協議会発足のお知らせや規約等がすでに掲載されています。今後、 海外の関連学術団体、あるいは会員団体・通信会員団体から事務局へ寄せられる情報、通信連絡等は、ここに順次掲示します。この連絡網を通じて広報すること が適当と思われる情報がありましたら、下記の事務局宛にお送りください(なるべくtext file形式のE-mailでお願いします)。入会その他のお問い合わせも事務局が申し受けます。[井上]

060-0809札幌市北区北9条西7丁目 北海道大学スラブ研究センター気付JCREES事務局
Fax.: 011-706-4952 E-mail: src@slav.hokudai.ac.jp http://src-h.slav.hokudai.ac.jp

◆ 1998年度のCOE非常勤研究員 ◆

本年度のCOE非常勤研究員の追加が認められ、9月から次の方が採用されました。[大須賀] 上田理恵子(うえだ・りえこ) 一橋大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学 西洋法制史専攻

◆ 中央アジア・セミナーの開催 ◆

センターは、文部省新プログラム方式による「イスラーム地域研究」プロジェクト研究班1との共催で、 中央アジアセミナー“Reconsidering International Relations in Central Asia”を、10月31日(土)に開催します。

会場:スラブ研究センター大会議室(423号室)

プログラム:

Session 1: International Relations in Eastern Turkistan (10:00-12:00)
  • 菅原純(青山学院大)“‘Musafirs’in Yarkand: Reconsidering International Relation-ships in Disturbance Period (1858-1878)”
  • 川島真(北大法学部)「1910-20年代新疆外交と中華民国北京政府」

Session 2: International Relations in Modern and Contemporary Central Asia (13:30-18:00)
  • Stephane Dudoignon(日本学術振興会)“Interregional Relations inside Central Asia under Stalin. The Case of Tatar and Uzbek”
  • Rafis Abazov(国連大)“Post-Soviet Co-operation and Security Issues in Central Asia”
  • 岩崎一郎(一橋大)“Russo-Central Asian Economic Relations in Transition Period and Its Pass-Dependency”
Discussion: 16:00-18:00 Reception: 19:00-21:00(場所未定)

お問い合わせは、東京大学大学院人文社会系研究科の小松久男教授(komatsu@l.u-tokyo. ac.jp)か、センター・宇山(uyama@slav.hokudai.ac.jp)まで。[宇山]

◆ 国際学術研究「大陸棚の開発と環境」に関する現地調査 ◆

会議風景
文部省国際学術研究「サハリン大陸棚石油・天然ガスの『開発と環境』に関する学際的研究」をテーマとする調 査チーム(研究代表者・村上隆スラブ研究センター教授)は、本年8月24日から31日までユジノ・サハリンスク市を訪問し、サハリン州国家環境委員会との 間で「大陸棚の開発と環境」をテーマに全体会議、分科会を開催し、共同研究の可能性を検討しました。この国際学術研究の特徴は、北海道大学を中心とする研 究者が自然科学、社会科学および人文科学の立場から開発に伴う持続的な経済成長と環境保護問題を研究することにあります。米国モントレー大学赤羽教授、シ チェルヴァコーヴァ助教授の他、日本側からは北海道大学の大学院工学科佐伯(浩)教授、北川教授、低温科学研究所若土教授、大学院地球環境研究科山村教 授、水産学部中尾教授、経済学部吉田教授、法学部畠山教授、スラブ研究センター井上教授、村上教授、札幌国際大学荒井助教授、横浜国立大学片山非常勤講師 の13名が参加しました。サハリン州側からは州政府大陸棚資源開発局、州国家環境委員会、極東水文・気象研究所、太平洋漁業・海洋学研究所、サハリン漁 業・海洋学研究所、サハリン教育大学(9月1日からサハリン総合大学に改組)、サハリン博物館、NGOなどからの専門家約15名が出席しました。 サハリン側とのこの種の専門家会議は始めてのことであり、日本側からの参加者の10名はサハリン初訪問でしたので、意見交換や現地視察を通じて実情が十分 把握できたと思います。当初ユジノ・サハリンスクから北のノグリキまでは鉄道、さらにオハまではヘリコプター、そしてオハから定期飛行機便でユジノ・サハ リンスクに戻る計画でした。しかし、悪天候のために中止せざるを得ませんでした。その後ハプニング続き。到着早々から停電でローソクの一夜を過ごして危機 的なサハリン州経済状況を垣間見る結果になりましたし、ロシアを襲った金融危機に軍資金を持つ私の不安が走りました。サハリン州行政府との共同研究の進め 方を巡って旧知の局長とはもめるし、会議開催をめぐってサハリン州国家環境委員会の組織力のなさには泣かされました。毎度のことながらロシア国内で研究活 動を進めようとすると、予期し得ないような困難が待ちかまえています。ロシアに関しては忍耐と継続が力でしょうか。[村上]

◆ ロイ・メドヴェージェフ氏の研究会と講演ひらかれる ◆

10月7日と8日の両日、ロシアの歴史家ロイ・メドヴェージェフ氏を迎えての催しが、センターでおこ なわれました。 7日は「今日の目から見たロシア革命」と題されたセミナー(ロシア語、参加者数40名弱)。現代のアルヒーフ事情、革命史への関心の推移、革命期の定義に 関する諸説、革命派諸勢力の性格づけ、ボリシェヴィキの政策の特徴、現代の政治状況との類推といった諸点からの報告をうけて、討論がおこなわれました。 8日は「歴史家のみた現代ロシア」をテーマとした講演(ロシア語・日本語、参加者約80名)。講演者は、現代ロシアの出来事を全体的に把握し意味づけるこ とは不可能という前提にたちながら、政界や経済界の動向、市民生活の諸側面を紹介し、同時に20世紀ロシアがたどった曲折に満ちた道程を概観しました。聴 講者からは、ロシアの現状に関する具体的質問や、メドヴェージェフ氏自身の理念や展望についての質問をはじめとして、現代ロシアをいかに捉えるべきかに関 する多くの意見や感想が述べられました。
7日のセミナーでのメドヴェージェフ氏
2日間の催しは、混迷するロシア社会の状況を描き出すとともに、メドヴェージェフ氏の社会観および彼が代表の一人をつとめる労働者社会党の中道左派的理念 (急進主義への批判、混合型社会への志向など)をうかがわせてくれるものでした。しかし反面で、歴史家としての同氏の方法論や史観、また20世紀ロシア史 論やロシア社会論の領域における現代の学問的レベルでの成果といった話題が、議論の対象にならなかったのは残念です。 なお同氏の来日は「ロイ・メドヴェージェフ氏を歓迎する会」の招きによるもので、7日のセミナーはセンター主催、8日の講演は北海道スラブ研究会と「ロ イ・メドヴェージェフ氏を札幌に招く会」の共催に、北海道の9学会等が協賛するという形でおこなわれました。[望月]


◆ 客員教授の募集について ◆

センターでは、専任研究員と共に、日本の公私立大学を本務校とする3人の客員教授が研究活動をおこ なっています。この制度の一層の活用をはかるため、1998年度から客員教授の候補者を広く公募しています。選考は、センターで実施していただく研究プロ ジェクト(期間1年)の内容を考慮しておこなわれます。特に、センターの所蔵する資料を活用した研究プロジェクトの提案が歓迎されます。
 応募資格:人文・社会科学の諸分野におけるスラブ地域の研究者で、国立大学以外の日本の大学(公私立大学)の教授および助教授、ま たはそれに相当する能力を有すると認められる者。1999年4月1日現在、63歳未満。
 勤務内容および条件:1999年度に17日間程度(休日を除く)センターに滞在し、センターの施設・資料を利用して研究をおこな う。そのための滞在費、旅費が非常勤講師手当、交通費として支給される。
 募集人数:3名
応募希望者は、1998年12月末日までに、研究プロジェクト名とその概要(A4版1枚、様式自由)、履歴書、研究業績一覧をセンター事務掛宛に郵送して 下さい。応募書類は返却しません。決定は1999年2月下旬までにおこない、審査結果を応募者に通知します。また、この件についての問い合わせは事務掛宛 (Tel.011-706-3156)でお願いします。[宇山]

◆ COE外国人研究員の公募締め切る ◆

1999年度にセンターに短期(3〜5ヵ月間)滞在するCOE外国人研究員の公募が9月30日に締め 切られました。来年度滞在者から初めての公募にしたわけですが、50名近くの応募がありました。センターでは12月頃までに応募書類の審査をおこない、候 補者を選びますが、最終的には文部省が人数、期間等を決定しますので、結果をお知らせできるのは来年3月になる見込みです。[田畑]

◆ 本年度の鈴川基金奨励研究員 ◆
本年度の鈴川研究員は、6名のうち森永貴子(一橋大・院)、河本和子(東大・院)、上野理恵(早大・院)、半谷史郎(東大・院)、畠山禎(名大・ 院)の5名がセンター主催の夏期国際シンポジウム期間にあわせてセンターに滞在し、資料収集し、セミナーでそれぞれの研究テーマを報告しました。ほとんど の鈴川研究員が、もっと長い間センターに滞在したいという希望を述べています。[村上]

◆ リュブリアナ大学のリズマン教授が滞在 ◆

スロヴェニアのリュブリアナ大学哲学部の教授で東欧社会学を専攻しているルドルフ・リズマン氏が、7 月12日から8月1日まで日本学術振興会の短期海外研究者招へい事業で来日され、センターに滞在しました。来日の目的はセンターで研究資料を収集するこ と、そして夏の国際シンポジウム等に参加して内外の研究者と学術交流をおこなうことでした。 氏は社会主義時代から欧米の学会と緊密な関係を作っており、人権や市民社会と体制転換との関連に注目してきました。来年リュブリアナで氏が組織者となっ て、国際政治学会(IPSA)の国際会議が人権や民主化に関しておこなわれるそうです。関心のある方は是非とも御参加くださいと、日本の同僚たちに伝言を 残してゆきました。 ちなみに氏への連絡はE-mail: rudi.rizman@uni-lj.si、Fax.: 386-61-1259-337、大学住所:Philosophical Faculty, Univ. of Ljubljana, Askerceva 2, 1000 Ljubljana, Sloveniaです。[家田]

◆ 専任研究員セミナー ◆

開催日: 6月29日  報告者: 皆川修吾  報告題名: 「移行期における人脈政治:中央と沿海州との関係において」 討論者: ピーター・ラトランド(ウェスレイヤン大学) 通常、専任研究員セミナーの共通言語は日本語ですが、外国人研究員の知見を当セミナーで活用する意味も含め、当報告テーマに近い研究をされているラトラン ド氏に討論者をお願いしたため、英語でおこなわれました。他の外国人研究員も参加したため、国際シンポに似たセミナーとなり、また中身の濃いセミナーとな りました。専任研究員セミナーもこのような形でレベルアップする試みが今後もされるでしょう。 報告日: 7月3日  報告者:兎内勇津流 報告題名: 「ロシアの文書館の現状」 討論者: 原暉之 ソ連邦解体以降、ロシアでは文書館の改組や新設があり、大きな変革がありました。参加者から更なる分析の必要性があるという批判がありましたが、情報公開 の流れを含めた文書館の最近の状況についての興味深い報告内容でした。[皆川]

人 事 の 動 き

◆ 山下祥子さんの赴任 ◆

センターに久しぶりに若い女性がスタッフとして加わりました。9月から助手として赴任された山下祥子(やま した・さちこ)さんです。以下、自己紹介文です。「1968年釧路市生まれ。道立釧路湖陵高校を経て、東京大学教養学部教養学科ロシア分科を1992年に 卒業。卒業後は某企業に就職し、証券部門で使う情報システムの開発と保守運用、及びプロジェクト管理システムの再構築の仕事に携わりました。約6年半の勤 務の後、札幌に帰郷し、北大で働くことになりました。音楽と運動は駄目ですが、自他ともに芸達者な人間で通っております。追い追い披露いたします。要する に創作活動系が好きです。が、社会人になってからは体育会系もいいものだなぁと思っております。当面は、2000年2月の雪祭りに際して、自作品を出品す ることを目指したいと思います。」 山下さんには当面パソコンネットワーク管理の仕事を担当していただくことになっています。 [大須賀]


学 界 短 信

◆ 「メルボルン国際会議」に参加して ◆

左近 毅(大阪市立大学)

去る7月7〜10日にかけ、メルボルンでAACPCS(共産主義およびポスト共産主義社会研究オーストラリ ア協議会)およびANZSA(オーストラリア・ニュージーランド・スラビスト協議会)主催により、「共産主義ならびにポスト共産主義社会に関する国際会 議」が開かれた。この長い名前の会議は、あたかもそれを反映するかのように、対象国の多さもさることながら、パネルも経済、教育、歴史、政治、国際関係、 法律、文学、文化、地理さらにジェンダーの多岐にわたり、やや焦点がボケた憾いがあった。合計78パネルのうち、日本から参加した報告者はセンターの田 畑、皆川両研究員など10名、ほかに司会が3名、対論者が2名であった。ロシア本国からの参加者が16名であったことを考えると、参加の上でそれほどの遜 色はない。主催団体の上部国際機関はICCEESで、5年ごとに通常の国際会議を計画しているが、今回のものは当初ICCEESの第1回地域学会として位 置づけられたもので、フォード財団の助成を得た中国からの参加者が注目をひいた。 筆者の報告したパネルは「極東ロシア史」の歴史パネルで、ドイツのストルベルグ女史が「極東共和国と日本」のテーマで、ロシアのカーネフスカヤ、テレーホ ヴァ両女史が「極東ロシアとオーストラリア」について報告した。残念ながら、前者は日本の当該研究の水準を大きく下回る内容であった。また、後者はゴヴォ ル(Govor)女史(キャンベラ在住)の博士論文に遠くおよばない単なる紹介に終始した。筆者は、ハルビンで創設されたハルビン学院および北満大学が、 「五族協和」の国策とは別に、日露の融合文化の歴史的展開にたいし独自の貢献を果たした点を明らかにした。今回の会議は、共産主義というイデオロギーを標 榜することで成立してきた国家群を批判する方向で展開されたが、概念把握や方法論において旧東西陣営参加者の間でまだ共通理解に達しない面が看取された。 総じて、この国際会議はアジア・オセアニアを会場として、当該地域の参加を積極的に奨励した点に特徴があり、そのメリット如何は1月に発行される ICCEESの「ニューズレター」で明らかにされるものと期待したい。

◆ AAASS年次大会 ◆

AAASS(米国スラブ研究促進学会)の第30回大会が9月24〜27日にフロリダ州のボカラトンで 開催された。今年はAAASSの設立50周年ということで、例年よりも盛会になると予想されていたが、猛烈なハリケーン「ジョージ」の接近により、参加予 定者の3分の2近くがキャンセルするという異常事態となってしまった。しかし、幸いにも、ハリケーンの進路がそれたため、高級リゾートのビーチでフロリダ の陽光を浴びることのできなかったのはわずか1日だけであった。 そういうわけで、予定されていたパネルのキャンセルが相次ぎ、内容的には非常に物足りない大会となってしまった。日本からの参加者も、筆者の知るかぎり、 センターの松里、田畑のほか、米国滞在中の岡奈津子氏(アジア経済研究所)だけであった。筆者が関わっているロシア経済の領域でも、キャンセルされたパネ ルや報告が多く、世界銀行の研究者2名による統計関係の報告がおこなわれたくらいであった。しかし、このところの大会を思い起こしてみると、経済関係の報 告が少ないのは今回が必ずしも例外ではない。ロシア・東欧の体制転換直後の時期には、体制移行の在り方をめぐって、単純化すれば、ショック療法か漸進主義 かをめぐって、経済学者が議論するパネルがいくつもあったが、この種の議論がおこなわれなくなって以降(議論に決着が付けられたためではなく、議論が不毛 になってしまったためであるが)、経済学者の登壇、とくに米国の経済学者の登壇は極端に少なくなってしまったように思われる。残されたのは、米国の地理学 者あるいは統計学者によるパネルと、英国、日本など、外国の経済学者によるパネルであった。もっとも、我々日本人のパネルも経済学というよりは、統計学の パネルに属していたかもしれないが。すなわち、経済学と地域研究との離縁が進み、地域経済研究が地理学(統計学は地理学の双生児であろう)に収斂していく という傾向がここでも見られるのである。 筆者自身は、今回はロシアの地域に関わる報告を準備していたため、キャンセルによって報告者が少なくなってしまった三つのパネルの合体によって急遽出来上 がった、広い意味での地域に関わるパネルで報告することとなった。そのために、地域に関心を有する雑多な(?)聴衆が集まり、最終日におこなわれた割りに は、賑やかなパネルとなった。ロシアの地域研究絡みのパネルが多くなったことは、AAASSの近年の大会の大きな特徴の一つである。地域研究としてのロシ ア研究は、ロシアの地域研究という方向に進みつつあるというのが筆者の印象である。そこには、歴史学者、政治学者、社会学者、地理学者、統計学者、経済学 者が流れ込んでいるわけで、これほど多くのパネルで、同僚の松里さんと鉢合わせすることになったのは初めてであった。[田畑]

◆ ロシア・東欧学会第27回大会開催される ◆

ロシア・東欧学会第27回大会が、9月26日(土)〜27日(日)、慶応義塾大学の湘南藤沢キャンパ スで開催された。良く整備された広大なキャンパスは、なるほど世間の評判を得ただけのことはあると参加者共々感心させられた。交通手段がバスだけというの も東京圏にありながら近くて遠く、千葉から3時間もかかったと嘆く会員の言葉が状況を端的に物語っていた。さて、今大会では共通論題「ロシア・東欧の体制 移行とその外的環境」をテーマにNATO・EUとロシア・東欧との関係やロシアの外的環境が議論された。2日目の分科会ではマルチメディアとロシア・東欧 研究、国境問題、現代ロシアの社会・経済構造、地域における移行と発展の諸問題、ポスト共産主義の新たな動向というテーマが設定され、合計13人が報告し た。 2日目午後には「ロシア市場経済移行の戦略と日ロ経済協力の課題」と題して、主催校の鵜野氏(総合政策部長)の司会の下に、外務省東郷条約局長をはじめサ ルキソフ氏(法政大)、西村厚氏(慶応大)、高田氏(日本輸出入銀行)、小川氏(敬愛大)がパネリストとなって日ロ関係を討議した。当センター専任研究員 の参加者は村上だけであったが、全体的にみても参加者が少ないという印象をもった。なお、総会で川端学会代表理事から日本ロシア・東欧研究連絡協議会事務 局を当センター内に置くという報告があった。[村上]

◆ 学会カレンダー ◆
1998年10月31日 中央アジアセミナー(記事参照)
1999年1月28〜29日 スラブ研究センター1998年度冬期研究報告会
7月22〜23日 スラブ研究センター1999年度夏期国際シンポジウム
11月18〜21日
2000年7月29日〜8月3日 ICCEES(中・東欧研究世界学会)第6回大会(於タンペレ)

図書室だより

◆ マイクロ資料のデータ入力 ◆

この春より、センターCOE非常勤研究員諸氏の協力を得て、センターの収集したマイクロ資料の書誌 データの学術情報センター総合目録システへの入力を始めました。 現在、ここ2〜3年の間に収集した、元が図書や逐次刊行物である資料を対象に、入力作業を進めております。当然のことながら入力データは北大の図書館シス テムにもロードされ、北大附属図書館のオンライン目録でも提供されます。従来も、特に新聞雑誌については重点的に入力してきましたが、これによって遠隔地 からでもより網羅的に検索ができるようになります。 なお、現在センター内にあるマイクロ資料の仮カード目録の編成も継続し、並行して提供します。[兎内]

編 集 室 便 り

◆ 『スラヴ研究』 ◆

第46号(1999年3月)への投稿は8月末で締め切られ、現在審査をおこなっています。『スラヴ研 究』が正式にレフェリーズジャーナルになって2年目ですが、昨年を上回る投稿があり、編集一同、忙しさに嬉しい悲鳴をあげています。次々号47号への投稿 希望も受け付けています。関心のある方はご一報下さい。執筆要領と申し込み用紙をお送りします。[松里・大須賀]

◆ ACTA SLAVICA IAPONICA ◆

スラブ研究センター欧文紀要 Acta Slavica Iaponica 第16号が、間もなく刊行されます。内容は以下の通りです。

<Articles>

Volodymyr A. Potulnytskyi "The Image of Ukraine and the Ukrainians in Russian Political Thought (1860-1945)"
Yulia Mikhailova "Images of Enemy and Self: Russian "Popular Prints' of the Russo-Japanese War"
Alfred Majewicz & Tomasz Wicherkiewicz "Minority Rights Abuse in Communist Poland and Inherited Issues"
Caslav Ocic"The Regional Problem and the Break-Up of the State: The Case of Yugoslavia"
Mordechai Altshuler "Евреи СНГ на пороге
Taisiia Sydorchuk "Культурная,образовательная и религиозная деятельность украинской эмиграции в Австрии в межвоенный период"
Boris N. Mironov "Главные социальные организации крестьянства, городского сословия и дворянства"
Jiro Ikegami"Письменная практика на уйльтинском языке- Продолжение"

<Research Note>

Bakhtier Islamov " Социально-экономические аспекты миграционных процессов в неза-висимых государствах Центральной Азии"

<Source Material>

Amir Khisamutdinov "Конец Владивостокской школы японоведения: Протокол доп- роса. Н

引き続き、1999年9月発行予定の第17号への投稿を募集しています。執筆希望者はまず係まで御一報ください。執筆計画提出期限は1999年1月末日、 原稿提出期限は3月末日です。分量は、A4版用紙(1枚に30行程度)25枚(書評の場合は3枚)を標準とします。原稿はあらかじ"めネイティヴ・スピー カーの校閲を受けたものでなければなりません。 Acta Slavica Iaponicaは、世界各地の主要研究機関・図書館・研究者に送られている、レフェリー制の雑誌です。積極的な投稿をお持ちしています。[宇山・大須 賀]

◆ 研究報告シリーズNo.61 ◆

センター研究報告シ リーズNo. 61、Central Asia in Transition が発行されました。これは、7月22日に開かれた同名のセミナー(センター夏期国際シンポジウムのプレ・シンポ)での報告3本に手を加え、さらに関連する 論文1本も収録したものです。筆者はいずれも中央アジア諸国出身の若手研究者で、急速に変わりつつある中央アジアの政治・経済情勢を取り上げています。内 容は以下の通りです。[宇山]

Askar Shomanov "Лоббизм и экономические реформы в Казахстане в постсоветский период"

Najia Badykova "Иран и перспективы экспорта газа из Прикаспийского региона"

Rafis Abazov "Central Asian Republics' Search for a 'Model of Development'"

Kamchybek Omurzakov "The Kyrgyzstan Economy: Latest Developments and Policies"

みせ ら ね あ

◆  原暉之著『ウラジオストク物語』 刊行のお知らせ ◆

雑誌『しゃりばり』(S北海道開発問題研究調査会)に連載されていた原暉之研究員のエッ セイが一冊の本になりました。ほとんど知識の空白地帯とさえいえる ロシア極東との日露関係史に新鮮な光をあてた一冊です。簡潔で平明な文章もたいへん読みやすく、歴史の楽しさ・おもしろさを堪能させてくれます。[編集 部]

原暉之『スラジオスト ク物語:ロシアとアジアが交わる街』 三省堂( 1998.9) 2700円
◆  人 物 往 来 ◆

ニュース74号以降のセンター訪問者(道内を除く)は以下の通りです。[井上]
7月3日 T. ケンプ-ウェルチ(Kemph-Welch)氏(イースト・アングリア大/英国)
7月22〜
24日
R. アバーゾフ(Abazov)氏(ラトローブ大/オーストラリア)、N. バディコヴァ (Badykova)氏(国立統計・予測研究所/トルクメニスタン)、E. ガイトコヴァ(Gaidkova)氏、C. ハッセンスタブ(Hassenstab)氏(米国)、B. イスラーモフ(Islamov)氏(一橋大)、M.D. ケネディ(Kennedy)氏(ミシガン大/米国)、モルドガジエフ(Moldogaziev)氏、K. オムルザコフ(Omurzakov)氏(クルグズ共和国国会顧問)、A. ポノマレンコ(Ponomarenko)氏(ロシア連邦統計国家委員会)、S.P. ラメー(Ramet)氏(立命館大)、S. ローズフィールド(Rosefielde)氏(ノースカロライナ大/米国)、S.I. ルイジェンコフ(Ryzhenkov)氏(国際人文政治研究所/ロシア)、J. シェーベルレイン(Schoeberlein)氏(ハーヴァード大/米国)、A. ショマノフ(Shomanov)氏(カザフスタン発展研究所)、S. スピーゲレア(Spiegeleire)氏(西欧同盟戦略研究所)、N.M. ヤコヴェンコ(Yakovenko)氏(キエヴォ-モヒリャ・アカデミー/ウクライナ)、荒田洋氏(国学院大)、五十嵐徳子氏(龍谷大)、池田寿美子氏、 石川晃弘氏(中央大)、石川健氏(島根大)、石田信一氏(筑波大・院)、伊東孝之氏(早大)、岩田賢司氏(広島大)、上垣彰氏(西南学院大)、上野理恵氏 (早大・院)、宇多文雄氏(上智大)、梅澤華子氏(慶大・院)、大須賀史和氏(東京外大)、大津定美氏(神戸大)、帯谷知可氏(民博)、川端香男里氏(中 部大)、河本和子氏(東大・院)、木村崇氏(京大)、木村真氏(東大・院)、久保庭真彰氏(一橋大)、雲和広氏(京大・院)、栗原成郎氏(創価大)、源河 朝典氏(岡山大)、小松久男氏(東大)、小森吾一氏(日本エネルギー経済研究所)、左近毅氏(大阪市大)、佐藤雪野氏(福岡教育大)、佐藤智秋氏(愛媛 大)、下斗米伸夫氏(法政大)、鈴木博信氏(桃山学院大)、鈴木義一氏(東京外大)、仙石学氏(西南学院大)、園田茂人氏(中央大)、高倉浩樹氏(都立 大)、高橋清治氏(東京外大)、田畑理一氏(大阪市大)、土屋好古氏(日大)、徳永昌弘氏(京大・院)、富田武氏(成蹊大)、中井和夫氏(東大)、西村可 明氏(一橋大)、西山克典氏(静岡県大)、沼野充義氏(東大)、袴田茂樹氏(青山学院大)、畠山禎氏(名大・院)、半谷史郎氏(東大・院)、藤本和貴夫氏 (大阪大)、南塚信吾氏(千葉大)、宮本勝浩氏(大阪府大)、森永貴子氏(一橋大・院)、和田春樹氏
7月 27日 左近毅氏(大阪市大)
8月 6日 外川継男氏(上智大)
8月 24日 上垣彰氏(西南学院大)
8月 31日 I.R. サヴェリエフ(Saveliev)氏(サンクトペテルブルグ国立大/ロシア)
10月7日 R. メドヴェージェフ(Medvedev)氏(歴史家/ロシア)、I. ザイツェフ(Zaitsev)氏(「人権」出版/ロシア)、N. マルカロヴァ(Markarova)氏(同)、川辺秀治氏(現代思潮社)

◆ 研究員消息 ◆

田畑伸一郎研究員は、7月5〜12日の間「スラブ研究メルボルン会議に出席、研究成果報告」のため、オーストラリアに出張、また、7月28日〜8月20日 の間「ロシアの資金循環に関する地域統計資料の収集、分析」のためロシア連邦に出張、また、9月22〜29日の間「米国スラブ研究促進学会年次大会出席、 報告」のためアメリカ合衆国へ出張。 皆川修吾研究員は、7月5〜12日の間「スラブ研究メルボルン会議に出席、研究成果報告」のため、オーストラリアに出張。 望月哲男研究員は、7月23日〜8月4日の間「第10回国際ドストエフスキー学会で研究報告、研究打合せ」のためアメリカ合衆国に出張。 村上隆研究員は、8月19日〜31日の間「サハリン北東部大陸棚石油天然ガス開発状況、環境への影響調査」のため、ロシア連邦へ出張。 松里公孝研究員は、8月21日〜9月19日の間「ロシア、ウクライナにおける地方行政の現地調査」のためロシア連邦他に研修旅行、また9月23〜30日の 間「米国スラブ研究促進学会年次大会出席、報告」のためアメリカ合衆国へ出張。 井上紘一研究員は、8月24〜31日の間「サハリン北東部大陸棚石油天然ガス開発状況、環境への影響調査」のため、ロシア連邦へ出張。 宇山智彦研究員は、9月23日〜10月15日の間「マルグラン記念国際会議での報告他」のため、カザフスタン共和国他へ出張。[野村]