新センター長から

センターは今年 4 月付けで研究部門を改組しました。 改組の詳細については改組を準備した村上前センター長の記事がありますので、そちらをご参照ください。 要点だけを述べますと、従来、専門分野別に編成されていた 5 部門 (地域文化、生産環境、社会体制、国際関係、民族環境) が地域割りの 4 部門 (ロシア、中央ユーラシア、シベリア極東、東欧) および地域比較部門 (外国人客員教授で構成) の新たな 5 部門体制になったということです。 旧 5 部門体制は 1990 年の全国共同利用施設化およびその後の拡充によって形成され、1995-97 年度の重点領域研究遂行などを通して、変動するスラブ地域の研究に大きな成果をあげました。 しかし同時に、センターは地域研究の組織として体系的に学際的研究をめざす必要があること、また近年特に要請されている多面的・総合的分析という課題に応えるため、今回大幅な改組に踏み切りました。 また部門改組に際して専任研究員の増員はかないませんでしたが、客員教授枠が 3 名分新たに認められました。 昨今の厳しい国家予算見直しの流れを考えますと、これはおおきな成果でありました。

もっともセンターを取り巻く制度的環境そのものが大きく変わりつつあります。 第一に、1995 年に立ち上がった Center of Excellence (卓越した研究拠点、略して COE) 制度が廃止されました。 センターは COE 制度により基礎設備費 (具体的にはソ連党国家文書目録の購入)、国際シンポジウム開催経費、外国人客員研究員招聘経費 (短期滞在型 3 名)、若手研究者雇用経費 (非常勤研究員 2~3 名)、研究推進員雇用経費 (センター・ホームページの運用)、そして在外研究経費など、センターが全国共同利用施設ないし国際的発信基地として幅広く、かつ世界的水準で活動するために不可欠な財政的支援を受けてきました。 今後は新たな文教予算枠を念頭に置きながら、新 5 部門体制を最大限に生かすセンターの将来計画を構築することが課題です。 もっとも、間近には国立大学法人化が迫っており、これがセンターの運営にどう影響を与えるのか、いまだ明確な見取り図が見えてきません。 さらに重点化された北海道大学文学研究科の協力講座として始まった大学院教育は 3 年目に入ったばかりですが、学内では大学院教育の再編成をめぐる議論が高まっています。 そして数年後に目を向けると、センターの世代交代が待ち受けていることに気づかされます。 どれもこれも長期的な観点に立った取り組みを必要としている重要課題ばかりです。

このような大きな転機にセンター長を拝命するめぐりあわせとなってしまいましたが、正直に申し上げて、何からどう手をつけて良いのか、五里霧中というのが今の実感です。 もっともセンター専任研究員の半数近くはセンター長経験者であり、頼もしい援軍と言えましょう。 しかし何をさておいても、皆様方のセンターに対するご支援なしには今の難局を乗り切ることはできません。 これまでにもましてご指導をお願い申し上げる次第です。 [家田]

研究の最前線

◆  スラブ研究センターの部門改組  ◆

センターは 2002 年度から研究部の部門構成をこれまでの個別学問分野 (ディシプリン) から地域別の部門構成に変更いたします。 概算要求によって、新たに客員教授Ⅱ種 (国立大学等教官) 3 名が認められました。 この部門改組は、ソ連崩壊によってセンターの研究対象であるスラブ世界で大きな体制変動が生じ、旧ソ連・東欧諸国を構成する 27ヵ国の国家間・地域間格差が顕著になったために従来の研究部門では十分に対応できなくなっていること、また、地域の差に注目する比較研究が国際的な研究動向になっていることを考慮したものです。 改組によって、地域の個別研究水準をさらに高度化し、問題解決型のプロジェクト研究を基盤として総合的・統合的に研究することが期待されます。 なかでも、中央アジアおよびシベリア・極東地域の研究を重視しています。 新しい研究部門と 2002 年度に配置される教官は以下の通りです。 [村上]

1) ロシア部門
・田畑伸一郎 ・松里公孝 ・望月哲男 ・山村理人 ・横手慎二 (客員)
2) シベリア極東部門
・井上紘一 ・岩下明裕 ・原暉之 ・村上隆
3) 中央ユーラシア部門
・宇山智彦 ・北川誠一 (客員) ・小松久男 (客員) ・中井和夫 (客員) ・西山克典 (客員) ・根村亮 (客員)
4) 東欧部門
・家田修 ・林忠行
5) 地域比較部門 (客員)
・ブルダコフ、ウラジーミル P. ・カラギョゾフ、パナヨト D. ・ペイン、サラ C.

◆  2001 年度冬期シンポジウム開催される  ◆

 
基調報告の様子
コロチェニャ氏から CIS 10 年記念出版物を寄贈されて

1 月 30 日~2 月 2 日の 4 日間にわたって、センター恒例の冬期国際シンポジウムが開催されました。 今回のシンポジウムは、1991 年 12 月末にソ連が崩壊してから丁度 10 年が経過したことを意識して、「ソ連崩壊後の 10 年」をテーマとしました。 この数年、センター冬期シンポジウムの「国際シンポジウム化」がなし崩し的に進んでいましたが、今回は、「間接経費」による「国際会議等招へい経費」の補助を受けたこともあって、当初から国際シンポジウムとして組織されました。

初日 (1 月 30 日) には、CIS (独立国家共同体) の初代執行事務局長 (1992~1998 年) を務めたコロチェニャ氏に CIS の 10 年間の活動総括をお願いしました。 氏は、CIS 発足直後の各国首脳会議でのエリツィン・ロシア大統領 (当時) らのエピソードを交えて、興味深い話を披露してくれました。 この日は、国際政治学者の鈴木佑司氏 (法政大学) にも、アジアから見た冷戦終結後の 10 年を語っていただきました。

2 日目 (1 月 31 日) からのセッションでは、ベラルーシ・ウクライナ・リトアニアなど「新東欧地域」の社会・政治状況、地方レベルでの社会・政治状況、CIS を含む国際関係、ロシア経済に対する新たな接近法など、センターならではのユニークかつ学際的な報告が数多くなされました。 4 日間のトータルでは、合計 12 のセッションで 23 の報告がなされ、うち、13 報告が英語、7 報告がロシア語、3 報告 (2 月 2 日の科研費研究会) が日本語でおこなわれました。 外国人報告者は、ロシア、ウクライナ、ベラルーシ、アルメニア、ウズベキスタンを含む 8ヵ国から計 13 人となりました。 報告の多くは、テーマごとに、『スラブ研究センター研究報告シリーズ』などに掲載されます。 [田畑]

◆  2002 年度夏期国際シンポジウム  ◆
「スラブ・ユーラシアにおける国民史の構築と脱構築」 (予告)

7 月 10 日 (水) から 12 日 (金) にかけて本年度の夏期国際シンポジウムが開催されます。 今回のシンポジウムでは、「スラブ・ユーラシアにおける国民史の構築と脱構築 (Construction and Deconstruction of National Histories in Slavic Eurasia)」というタイトルのもとで、スラブ・ユーラシアにおける国民/民族意識形成をめぐる問題と、ポスト共産時代における「国民史」叙述をめぐる諸問題を取りあげます。 今回は、政治史、社会史という分野だけでなく、文学史や美術史などの分野からも専門家を招いて多角的に「国民史」をめぐる議論をおこないたいと考えています。多くの皆様の参加を期待しております。

使用言語は原則として英語を予定しています。現段階でのプログラムは次のとおりです。

7 月 10 日
特別講演
V.P. ブルダコフ (ロシア) 「新独立スラブ諸国におけるロシア・ソビエト史の『国民化』の試み」
A. カペレル (オーストリア) 「ポスト・ソビエト歴史学におけるロシア帝国とその諸民族」
7 月 11~12 日
セッション 1  ロシア帝国の近代化とナショナリズム
M. ドルビロフ (ロシア) 「ロシアにおける 1961 年農奴解放と帝国官僚制のナショナリズム」
宇山智彦 (北大) 「カザフ人の『想像の共同体』形成におけるロシア植民地行政の役割: ステップ地方新聞 (1888-1902 年)」
セッション 2  イスラームと国家
A. フランク (米国) 「カザフ・ステップにおけるイスラームの変容とロシア統治: 1742-1917 年」
北川誠一 (東北大) 「南コーカサス・ムスリム組織の国家機関化について」
セッション 3  中・東欧の近代と国民意識
V. パウノフスキ (ブルガリア) 「ブルガリアの対バルカン諸国政策と少数民族: 1878-1912 年」
篠原琢 (東京外語大) 「市民社会の基礎としての地方自治体: 19 世紀チェコにおける地方政治と国民文化形成」
セッション 4  ポスト社会主義時代の「国民史叙述」
H. アブラムソン (米国) 「居心地のよい孤立の終焉: ポスト・ソビエト時代のユダヤ史の叙述」
V. シュニレルマン (ロシア) 「構築された本源主義: ソヴィエト期およびポスト・ソビエト期カフカスのテュルク人、そのアイデンティティと祖先」
長與進 (早稲田大) 「スロヴァキア史学のアポリア: 独立スロヴァキア国 (1939-1945) という『厄介』」
セッション 5  文化と国民史 (1)
T. グランツ (チェコ) 「方法・メッセージ・操作: (ロシアとチェコにおける) 歴史叙述批評」
貝澤哉 (早稲田大) 「19 世紀後半におけるロシア文学史の国民化: A.N. プイピンのロシア国民文学研究」
セッション 6  文化と国民史 (2)
M. バルトロヴァー (チェコ) 「根元の追求: 中欧諸国の歴史学における中世美術」
P.D. カラギョゾフ (ブルガリア) 「スラブ・ナショナリズムの概観」

なお、最終的なプログラムの確定は 5 月初旬を予定しています。 その内容はセンターのホームページでお知らせします。 なお、シンポジウムに関する問い合わせ等は林まで。 [林]

◆  公  開  講  座  ◆
《米国同時多発テロ後のユーラシア: 国際関係とイスラーム》

今年の公開講座は、世界を震撼させた昨年の米国同時多発テロに関連する話題を取り上げます。 一時は国際テロ組織やアフガニスタン、イスラームに関するニュース解説を連日流していた日本のマスコミは、事件から半年余りが経ちすっかり関心を失ってしまったように見えます。 しかしそのような現在こそ、事件の意味を冷静に考えられる時だと言えるでしょう。 この講座は、マスコミではあまり注目されなかった、ロシアと中央アジアへのテロ・反テロ戦争の影響を中心に、中東や南アジアなどさまざまな地域を横断して国際情勢を論じます。 旧ソ連とイスラーム圏双方の第一線の研究者を集めた、センターにしか組織できない贅沢な講座であると自負しています。

開講日程は下記の通りで、時間は各回午後 6 時 30 分から午後 8 時 30 分までです。 申込は 4 月 30 日までセンター事務掛で受け付けています。 [宇山]

第 1 回  5 月 13 日 (月)  テロリズムの権力政治  中村研一 (北大法学研究科)
第 2 回  5 月 16 日 (木)  「テロとの戦い」は中央アジアに何をもたらしたか  岡奈津子 (アジア経済研究所)
第 3 回  5 月 20 日 (月)  「イスラーム原理主義」と「聖戦」の論理  飯塚正人 (東京外大)
第 4 回  5 月 23 日 (木)  ロシアにとっての同時多発テロ  中村裕 (秋田大)
第 5 回  5 月 27 日 (月)  「ならず者」から「悪の枢軸」へ: イランの視角から  森本一夫 (北大文学研究科)
第 6 回  5 月 30 日 (木)  反テロ同盟と中ロ関係  岩下明裕 (センター)
第 7 回  6 月 3 日 (月)  ターリバーン後のアフガニスタンとパキスタン  山根聡 (大阪外大)

◆  3 年目を迎えた大学院教育  ◆

スラブ研究センターが大学院教育に参加してから 2 年が経過しました。 2000 年度の大学院重点化にともなう本学大学院文学研究科の改組によって、センター研究部スタッフで構成されるスラブ社会文化論講座 (協力講座) が同研究科に設置され、歴史地域文化学専攻スラブ社会文化論専修という教育コースで大学院学生を受け入れることになりました。 初年度は旧制度で入試がおこなわれたため専修独自の学生募集はおこなえず、また次年度は修士課程での受験者がほとんどいなかったことなどもあり、学生はごく限られた数にとどまっていましたが、この 4 月から始まる 2002 年度にはあらたに修士課程 9 名、博士課程 2 名の学生を受け入れ、専修全体としては修士課程 11 名、博士課程 6 名の大学院生がセンターに所属する教官の下で学ぶことになりました。

本格的な大学院教育の開始とともに、センターの研究部スタッフの生活もかなりそれまでとは異なるものになりました。 それ以前は共通教育や学部の授業を担当することはあってもセンター研究員の仕事全体から見ると教育が占める割合はごくわずかでした。 しかし、現在は全員が大学院の授業を開講し、毎週月曜日午後に開催される教官会議でもかなりの時間が教育に関わる議論についやされるようになったのです。 それまで典型的な「閑職」であった教務委員は研究科の講座主任を兼任するようになり、カリキュラムの作成、研究科での様々な会議への出席などに追われることになりました。また、発足当初に指導教官として学生を受け入れた教官は、学生ともども手探りでこの2年間を過ごしてきたといえます。 しかし、センターでの大学院教育の方向や方法についてもしだいに形が整いつつありますし、センターにおける大学院教育の存在も学内外で認知され、受験生も着実に増える傾向にある。

センターと併存するスラブ社会文化論専修での教育にはいくつかの利点があります。 まずなによりもスラブ・ユーラシア地域 (旧ソ連・東欧地域) を研究対象とし、しかも様々なディシプリンを背景に持つ 11 名の教官の存在です。 学生は、その専攻にもよりますが、複数の教官から専門地域やディシプリンに関する指導を受けることが出来ます。 センターがこれまで蓄積してきた図書資料を常時利用できるということも他では得がたい利点といえます。 さらに、各種の客員研究員制度や夏と冬の国際シンポジウムなどで、数多くの内外の一級の研究者がセンターを訪れることになります。 これらの研究者たちの仕事に直接触れる機会も、学生たちには貴重なものといえるでしょう。

スラブ研究センターが持つ学際性を教育でも生かそうという趣旨で「スラブ社会文化論総合特別演習」という授業が設けられ、センターのスタッフを指導教官とする学生は原則としてこの授業への参加が義務づけられています。 この授業では学生がそれぞれの専攻テーマで研究発表をおこない、それをめぐって学生と担当の複数の教官が討論をおこないます。 学生の専攻は多岐にわたるので、発表の内容はロシア文学から北方領土問題まできわめて多様であります。 ディシプリンを越えた場での発表や討論の技法を学びつつ、学生は「地域研究とは何か」という問題をおのずと考えることになります。 決して容易なことではありませんが、このような方向をさらに発展させつつ、大学院教育をさらに充実したものにして行きたいと願っています。 (なお、大学院入試に関する情報はセンターホームページを参照して下さい。また、大学院教育に関するお問い合わせは新教務委員の望月まで。) [林]

◆  2003 年度外国人研究員 (長期) 公募締め切る  ◆

3 月 31 日に 2003 年度の長期外国人研究員の応募が締め切られました。 応募総数は 59 件で昨年に比べ大幅に増えました。 地域別・国別のうちわけをみると、ロシアが 22 件と全体の 4 割弱を占めており、中・東欧諸国 (バルト諸国を含む) が 12 件、中央アジア諸国が 9 件、コーカサス諸国が 6 件と続いています。 分野別でみると、歴史が 24 件と最も多く、政治・国際関係が 14 件、文学・文化・言語が 10 件、経済・地理が 5 件、民族関係が 5 件と続いています。 審査は、2ヵ月以上にわたって慎重におこなわれ、7 月までに候補者 3 名が決定される予定です。

なお、今年度の長期滞在外国人研究員はニュース 86 号でもお伝えしましたが以下の 3 氏です。

ブルダコフ (Buldakov, Vladimir P.)
(ロシア科学アカデミーロシア史研究所 / モスクワ、ロシア)
研究テーマ: ロシアにおける社会危機と集団心理: 1904-1921 年と 1985-2000 年の比較研究
滞在期間: 2002 年 6 月 1 日~ 2003 年 3 月 31 日
カラギョゾフ (Karagyozov, Panayet D.)
(カレル大学スラブ言語・文学部 / チェコ)
研究テーマ: モダニズムとポストモダニズム及び個人主義と集団主義の狭間から見た 20 世紀スラブ文学
滞在期間: 2002 年 6 月 1 日~ 2003 年 3 月 1 日
ペイン (Paine, Sarah C.)
(アメリカ海軍大学戦略・政治学部 / アメリカ合衆国)
研究テーマ: 運命的ジレンマ: 1932-1945 年における中国をめぐる日ソ間の勢力争い
滞在期間: 2002 年 7 月 1 日~ 2003 年 3 月 31 日

この 3 氏については、現在受け入れの最終準備がおこなわれています。 [山村]

◆  オホーツク・紋別市で公開講座  ◆

文部科学省海外学術調査「オホーツク海の流出油防除対策の総合的研究」 (研究代表者: 村上隆) による公開講座を、2002 年 2 月 26 日に紋別市で開催いたしました。 この公開講座は、第 17 回北方圏国際シンポジウムの一環として地元の要望に応えて開催されたものです。 参加者は 70 名。 センターの村上が司会し、オムニバス方式で以下の課題をそれぞれのパネリストが報告いたしました。 紋別市は防災基地センターとして名乗りを挙げており、サハリン大陸棚の石油開発にともなって、輸送タンカーあるいは開発現場で万一原油が流出したらオホーツクの海が汚染され、ホタテをはじめとする水産物や観光への多大な被害が想定されており、このような公開講座は市民の関心の的でもあります。 センターとしても市民とのインタラクションを強めることが重要であり、一科研プロジェクトではありますが、センターの主催ということで実施しました。 [村上]

◆  専任研究員セミナー  ◆

今年に入ってから開催された専任研究員セミナーは以下の通りです。

2 月 5 日 山村理人 「移行期における農業構造変動と『持続的』発展の可能性: 北カザフスタン穀物地帯における事例分析」
討論者: 柴崎嘉之 (釧路公立大)
2 月 12 日 村上隆 「ネップ期における利権: 石油利権を中心として」
討論者: 木村雅則 (松本歯科大)
2 月 28 日 林忠行 「スロヴァキアの議会政治と政党システム: 1990~2002 年」
討論者: 仙石学 (西南学院大)
3 月 5 日 原暉之 「アタマン・セミョーノフと『セミョーノフシチナ』再考」
討論者: 中見立夫 (東京外国語大)
3 月 22 日 坂井弘紀 「19 世紀のカザフ詩人ムラト=モンケウルの作品とその特徴」
討論者: 宇山智彦 (センター)
3 月 26 日 畠山禎 「近代ロシアにおける労働者保護規定とジェンダー」
討論者: 松里公孝 (センター)
3 月 26 日 岩下明裕 「中露河川国境の挑戦: ウスリーとアムール」
討論者: 石井明 (東京大)
3 月 27 日 塚崎今日子 「ルサールカ: 俗信、儀礼、文学」
討論者: 望月哲男 (センター)
3 月 27 日 望月哲男 「社会主義リアリズムの現在」
討論者: 亀山郁夫 (東京外国語大)

セミナーは事前に提出されたペーパーに基づいておこなわれ、準備不足とみられるペーパーには容赦ない批判が浴びせられます。 年度末駆け込みの報告が多かったため、上記日程が示しますように、3 月 26~27 日はセミナーというよりもむしろ、小シンポジウムの観を呈しました (もちろんこれは、望ましいことではありません)。 上記ペーパーのうち、村上と望月両専任の労作は、両氏にとって全く新しいテーマに挑戦するものでした。 また、2 年間勤務された COE 非常勤研究員の方々がこのたびセンターを去られましたが、それぞれが個性的なペーパーを置き土産にしていかれたことは、頼もしく感じられました。

前号でお知らせした専任セミナーのペーパーのうち、家田ペーパーは 2001 年夏期国際シンポジウム報告集に、宇山ペーパーは Acta Slavica Iaponica、望月 (前年度分)・松里ペーパーは、『スラヴ研究』の最新号に掲載されています。 [松里]

◆  研究会活動  ◆

ニュース 88 号以降の北海道スラブ研究会およびセンター研究会の活動は以下の通りです。 [大須賀]

1 月 24 日  仙石学 (西南学院大) 「EU 拡大とポーランドの変化? 外部要因と内部要因の連関」 (センター研究会)
2 月 27 日  S. ナディロフ (カザフスタン教育科学省地理学研究所) 「中央アジア諸国国境に跨る河川の水・エネルギー資源共同利用の諸原則と地理紛争学 (露語使用)」 (センター研究会)
3 月 12 日  岩下明裕 (センター) 「初めての中央アジアとその周辺」 (センター昼食懇談会)
3 月 20 日  L. アブラハミアン (アルメニア科学アカデミー考古学・民族学研究所 / センター外国人研究員) "People in the Square: National Movement in Armenia in Anthro-pological Perspective" (センター研究会)
3 月 22 日  P. パヴリネク (ネブラスカ大 / 米国 / センター外国人研究員) "Restructuring the Automobile Industry in East-Central Europe and the CIS" (センター研究会)

人事の動き

◆  本年度の非常勤研究員  ◆

センターでは卓越した研究拠点 (COE) 制度の廃止にともない、一般枠 (研究所等) としての公募に基づいて募集をおこないました。 応募者のなかから慎重な審査をおこなった結果、次の方が本年度の非常勤研究員に採用されました。

毛利公美 (もうり・くみ)
東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学  亡命ロシア文学・現代ロシア文学

毛利さんにはセンターの共同研究にかかわる補助業務を担当しながら、ご自身の研究を進めていただくことになります。

なお、昨年度に非常勤研究員として勤務された坂井弘紀氏は千葉大学非常勤講師、塚崎今日子氏は札幌大学非常勤講師として赴任され、畠山禎氏はロシア教育学アカデミー研究生(小渕フェローシップ) として留学されています。 [編集部]

◆  客員教授  ◆

センターでは今年度からの部門改組に際して、客員教授枠が 3 名分新たに認められました。 応募者のなかから慎重な審査をおこなった結果、次の 6 名の方々に客員教授をお願いすることになりました。 [編集部]

客員教員Ⅰ種 (公私立の大学・研究機関等に所属する研究者)

西山克典 (静岡県立大学・国際関係学部)
研究プロジェクト 「ロシアの「東方」支配」
根村亮 (新潟工科大学物質生物システム工学科)
研究プロジェクト 「20 世紀初頭における自由主義者のウォッカ問題に関する言説の研究」
横手慎二 (慶應義塾大学・法学部)
研究プロジェクト 「戦後ソ連の対日政策: 捕虜と民主化政策を中心に」

客員教員Ⅱ種 (国立の大学・研究機関等に所属する研究者)

北川誠一 (東北大学大学院国際文化研究科)
研究プロジェクト 「現代南カフカース政治研究: 政党・選挙・中央と地方関係」
小松久男 (東京大学大学院人文社会系研究科)
研究プロジェクト 「フェルガナ地方におけるイスラームと政治: イスラーム復興の歴史的研究」
中井和夫 (東京大学大学院総合文化研究科)
研究プロジェクト 「ウクライナ政治思想の研究」

学界短信

◆  比較経済体制学会第 42 回大会  ◆

今年度の比較経済体制学会の大会は、6 月 7 日 (金) ~ 8 日 (土) に岡山大学 (津島キャンパス) で開催される。 今年の共通論題は「移行諸国の産業構造転換」とされ、総論、ロシア、東欧・中国の 3 つに分けて報告がなされる。 プログラムは以下の通りであるが、より詳しいプログラムは学会ホームページ参照 (http://src-h.slav.hokudai.ac.jp/comparative/index.html)。 [田畑]

比較経済体制学会第 42 回全国大会プログラム

6 月 7 日 (金)

9:30~12:30: 共通論題「移行諸国の産業構造転換」
Part 1  総論
長岡貞男 (一橋大)・岩崎一郎 (一橋大) 「市場経済移行と産業技術の再編成」
Part 2  ロシアの産業構造転換
久保庭真彰 (一橋大) 「産業空洞化と商業肥大化」; 石川健 (島根大) 「電力・燃料工業と就業構造変化」; 小森吾一 (日本エネルギー経済研) 「石油・ガス産業の構造転換」
14:30~17:30:
Part 3  東欧・中国の産業構造転換
和田正武 (帝京大) 「ポーランドの産業構造」; 池本修一 (日本大) 「チェコの産業構造」; 厳善平 (桃山学院大) 「中国経済の成長と構造転換」; 吉井昌彦 (神戸大) 「ルーマニアの産業構造と比較優位」

6 月 8 日(土)

9:30~12:00: 共通論題全体討論
13:30~15:30:
第一分科会 「中国の産業と労働」
伊藤正一 (関西学院大) 「中国の労働市場」; 李捷生 (大阪市立大) 「中国における蓄積様式の転換と労使関係」
第二分科会 「アジア諸国の経済移行」
トラン・ヴァン・トウ (早稲田大) 「ベトナムの経済移行」; 栗林純夫 (東京国際大) 「モンゴルの経済移行」; 金秀日 (京都大・院) 「右肩上がり経済としての社会主義システム: 東アジアの若者が社会主義論を学ぶ一つの意味」

◆  学会カレンダー  ◆

2002 年 6 月 3-6 日 国際シンポジウム "Проблемы и школы в русском литературоведении XX века" 於 Sofia University St. Kliment Ohridski / ブルガリア 問い合わせは: russlit@slav.uni-sofia.bg
6 月 5-8 日 コンファレンス "The Baltic States in the Era of Globalization" 於ジョンズ・ホプキンズ大学 / ボルチモア 問い合わせは: Steven Young (young@umbc.edu)
6 月 7-8 日 比較経済体制学会第 42 回全国大会 於岡山大学 問い合わせは: 田口雅弘(taguchi@cc.okayama-u.ac.jp) (記事参照)
7 月 10-13 日 スラブ研究センター 2002 年度夏期国際シンポジウム(記事参照)
7 月 シンポジウム "Hierarchy and Power in the History of Civilizations" 於サンクトペテルブルク 主催: The Institute of Oriental Studies, RAS 他 問い合わせは:Dr. Serguei A. Frantsouzoff (invost@mail.convey.ru)
8 月 15-21 日 “13th International Congress of Slavicists” 於リュブリャナ / スロヴェニア 詳しい情報は: http://www2.arts.gla.ac.uk/Slavonic/13thics.htm
8 月 26-29 日 第 5 回国際ウクライナ学会 於フェディコヴィチ 名称チェルニフツィ大学 (チェルニフツィ市 / ウクライナ) 問い合わせは: Ukraine, 01001 Kyiv-1, vul.M.Hrushevs'koho, kimn.214, O.I. Petrovs'kyi Tel.&Fax. (380-44) 229-76-50
10 月下旬頃 2002 年度 (第 52 回) 日本ロシア文学会総会および研究発表会 於上智大学
11 月 21-24 日 AAASS (米国スラブ研究促進学会) 第 34 回全国大会 於ペンシルヴァニア州ピッツバーグ 詳しい情報は: http://www.fas.harvard.edu/~aaass/
2003 年 1 月 29-31 日 スラブ研究センター 2002 年度冬期シンポジウム
2005 年 7 月 25-30 日 ICCEES (中東欧研究国際評議会) 第 7 回世界会議 於ベルリン 詳しい情報は: http://www.rusin.fi/iccees/

センターのホームページ (裏表紙参照) の学会カレンダーにはこの他にも多くの海外情報が掲載されています。 [大須賀]

図書室だより

◆  革命前ロシアの県報知 (続)  ◆

スラブ研究センター図書室では、米国 Norman Ross 社の製作する革命前ロシアの県報知 Губернские ведомости 一部を、1997 年度および 2000 年度に続いて購入することができた。 今回新たに収蔵されたのは、ミンスク県 (1838-1917 年、122 リール) およびワルシャワ県 (1867-1915 年、38 リール) である。

センター図書室の所蔵する革命前ロシアの県報知は、これ以外は次の 4 県である。

アクモリンスク州 (1871-1919 年、42 リール)、カザン県 (1838-1917 年、71 リール)、キエフ県 (1838-1917 年、136 リール)、およびプリアムーリエ (1894-1917 年、48 リール)。 [兎内]

◆  19 世紀末―20 世紀初頭の中央アジア新聞集成  ◆

上記と同じく、米国 Norman Ross 社の製作するこのマイクロフィルムのセットは、中央アジアを中心に、沿ボルガ地方やカフカースなどで発行された新聞を集めている。 この中には、一部ロシア語のものもあるが、大多数はトルコ系の言語をアラビア文字によって表記したものであり、帝政ロシア末期からソビエト政権初期における、とりわけ非ロシア人地域の事情や知識人のありかたを読み取る上での基本史料と言えるだろう。

センター図書室では、このうち、既収分などを除いた 410 リールを昨年度末に購入した。 なお、このための支払い総額は、361 万円余であり、1 リールあたり 9,000 円以下にとどまった。 これは、まとまった分量を購入するためディスカウントを得られたことによる他、直接輸入することにより代理店手数料が不要であったこと、最近の円安傾向にかかわらず、財務省の定める支出官事務規程により、この 3 月までの校費の外国送金においては、米ドルの換算率が 1 USD = ¥107 と設定されていたこと、商品としてでなく学術研究資料として輸入するため、日本側と積み出し側の両方において消費税を免除されること (通常は日本の通関時に消費税を徴収される) が寄与している。

聞くところでは、このセットは既に国内の 2,3 の図書館においても収蔵され、デジタル化を実施したところもあるようである (例えば小松久男 「イスラーム地域研究の試み: アラビア文字資料のデジタル画像化」 (http://www.l.u-tokyo.ac.jp/ IAS/Japanese/library/online%20library/ komatsu03.html#komatsu3top) を参照)。 しかし、ロシア、旧ソ連の地方出版物の充実に力を入れているセンターとしては、この資料の整備は必至のことであったと考えている。 [兎内]

◆  附属図書館内資料配置の変更  ◆

センター図書室の収集した資料は、参考図書、マイクロ資料等を除いて、附属図書館に管理換えされ、利用者に提供されている。 そうした管理換え済み資料は、大部分が附属図書館の西書庫 2 階にまとまって配置されてきた。 しかし、附属図書館において 2001 年度にこの場所に電動集密書架が設置されることになり、センターから管理換えされた資料は、2002 年 1 月をもって東書庫 1 階の集密書架に移動したことをお知らせしたい。

なお、新規の電動書架設置工事は、すでに完了しているが、センターから管理換えされた資料は、当分新しい所在にとどまることとなりそうである。[兎内]


スラブ研究センターニュース No.89 目次