スラブ研究センターニュース 季刊 2004 年秋号 No.99

人事の動き

前田弘毅氏の赴任

Maeda

前田弘毅氏

  センターは8月1日付で、前田弘毅(まえだ・ひろたけ)氏を専任研究員(期限付き専任講師)として迎えました。前田氏は1971年生まれ。1995年に東 京大学文学部東洋史学科を卒業し、同大学大学院人文社会研究科に進まれました。1970年代生まれという点でも、東洋史畑の出身という点でも、センター専 任としては初めてになります。1999年から2001年にグルジア科学アカデミー東洋学研究所に留学するなど現地経験が豊富で、現地の政治指導者周辺を含 め幅広い人脈をお持ちです。2003年に大学院博士課程を単位取得退学後は、日本学術振興会特別研究員PD(東洋文庫)を務めると共に、上智大学でペルシ ア語非常勤講師として教鞭をとられていました。専門はサファヴィー朝期のイラン史とコーカサス研究で、多数の言語にわたる史料を駆使されており、主な論文 に「サファヴィー朝の『ゴラーム』:『グルジア系』の場合」などがあります。グルジアの現代政治に関しても業績があり、その他コーカサス諸地域について幅 広い関心を示されています。近年発展しつつあるコーカサス研究の旗手の一人だと言ってよいでしょう。趣味はジャズなどの音楽や映画鑑賞とのこと。センター での所属は地域比較部門ですが、センターを中央ユーラシア研究、特にコーカサス研究の拠点としてさらに発展させる役割が期待されています。

[宇山]


学界短信

日本ロシア文学会定例総会・研究発表会開かれる

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総会・研究発表 会のようす

  10月1日(金)~3日(日)、稚内北星学園大学において、2004年度(第54回)日本ロシア文学会定例総会・研究発表会がおこなわれた。 チェーホフ没後100周年を記念したプレシンポジウムでは、多和田葉子(朗読)、高瀬アキ(ピアノ)によるコンサート「ピアノのかもめ 声のピアノ」、お よびパネルディスカッション「時空を超えて今チェーホフを語る」(パネリスト:山口昌男、多和田葉子、今福龍太、川端香男里、沼野充義)がおこなわれた。 また発表会初日のパネルディスカッションでは、チェーホフのサハリン旅行および作品『サハリン島』のもつ多様な意味が論じられた(パネリスト:インガ・ツ ペンコヴァ、アレクサンドル・チュダコーフ、黒川創、中本信幸、井桁貞義)。
  研究発表は4会場に分かれ、30の個別報告(プログラムによる)とワークショップ「近現代ロシアの文化的ナショナリズム」がおこなわれた。定例総会では、 新たに設けられた日本ロシア文学会賞が加藤栄一、斉藤毅の両氏に授与されることが発表された。
  次回総会・研究発表会は2005年10月7日(金)~9日(日)、早稲田大学でおこなわれる。
  なお、ロシア文学会は今年度新しいホームページを開設、活動と関連情報を意欲的に掲示・紹介しているので、ぜひ次のサイトを参照されたい。

[望月]


ロシア・東欧学会およびサテライト・プログラム開かれる

10月9~10日に、北大人文・社会科学総合教育棟を会場にロシア・東欧学会の第33回大会が開催された。また、大会前日の10月8日には、サテライトプ ログラムとしてロシア・東欧学会、スラブ研究センター、北海道スラブ研究会の共催で二つの特別シンポジウムも開催された。
特別シンポジウムの「日露戦争と民族」というパネルでは、エヴァ・パワシ=ルトコフスカ(ワルシャワ大学)、セルチューク・エセンベル(ボガジチ大学)、 稲葉千晴氏(名城大学)が報告をおこない、「ヴォルガ地方広域イスラム政治:未完の政治化、それとも遅れてきた政治化?」というパネルではナイル・ムハ リャーモフ(カザニ・エネルギー大学)、ルシャン・ガリャーモフ(パシコルトスタン農業大学)がそれぞれ報告をおこない、それをめぐる充実した討論がおこ なわれた。
この大会の1週間前に稚内でロシア文学会の大会が、2週間後に同じ北大でロシア史研究会の大会が開かれるという巡り合わせと、折から台風が接近するという ことで、出席者が少ないのではと心配されたが、約100名ほどの参加があり、16の自由論題報告、二つの共通論題のパネル(「新時代のロシア・東欧」およ び「ロシア・東欧と米国のユニラテラリズム」ともに多くの参加者のもとで、活発な討論がおこなわれた。次年度の大会は、西南学院大学で開催されることが決 定されたが、その日程は未定。日程は決まり次第、ホームページで発表予定。
[林]



学会カレンダー

2004年

11月27日
比較経 済体制学会第3回秋期研究報告会 於中央大学駿河台記念会館
12月4–7日
米国ス ラブ研究促進学会(AAASS)年次大会 於ボストン
12月8–11日
スラブ 研究センター冬期国際シンポジウム(記事参照)
2005年

7月7–9日
スラブ 研究センター夏期国際シンポジウム
7月25–30日
ICCEES (国際中・東欧研究協議会)第7回世界会議 於ベルリン
詳しい情報は http://www.rusin.fi/iccees/
10月7–9日
2005 年度日本ロシア文学会定例総会・研究発表会 於早稲田大学

センターのホームページ(裏表紙参照)にはこの他にも多くの海外情報が掲載されています。

[大須賀]



図書室だより

附属図書館との統合実施

 センターニュース97号(2004.5)でお知らせした附属図書館との統合は、2004年7月1日より実施されました。
[兎内]

最近の購入資料より

 昨年から本年にかけてスラブ研究センター図書室が購入したマイクロ資料より、数点を紹介いたします。
  ひとつめは、"дело"(事 業)という、ペテルブルクで1866年から1888年にかけて刊行された月刊誌です。この雑誌は、ドミートリー・ピーサレフ (1840-1868)、セルゲイ・ステプニャーク=クラフチンスキー(1851-1895)、ワシーリー・ベルヴィ=フレロフスキー(1829- 1918)、ピョートル・ラヴロフ(1823-1900)など多くのナロードニキ系の論者が寄稿する、影響力のある雑誌でした。なお、この資料は、東京外 国語大学附属図書館が1988年度大型コレクションとして収集した「ロシアナロードニキ研究史料集成」にも含まれていて、同館でも利用することが出来るも のです。
  2番目に挙げるのは"Сын отчества"(祖国の子)と題する、1812年からペテルブルクで刊行された雑誌です。ニコライ・グレチ(1787-1867)を編 集者として出発 したこの雑誌は、内外の政治情勢をはじめとして、歴史・地理に関する論文も多く掲載され、さらにはロシア語による文学・評論の発表の場としても重要なもの でした。今回は、その創刊から1837年までの分についてマイクロフィッシュ版を購入しました。
  3番目に挙げるのは、同じくペテルブルク出版されたウクライナ知識人の雑誌"Основа"(基礎)で す。ワシル・ビロゼルスキー(1825-1899) を編集者とし1861年に創刊された本誌は、わずか2年足らずで廃刊に追い込まれましたが、パンテレイモン・クリシ(1819-1897)、ミコラ・コス トマーロフ(1817-1885)などが参画し、文学、言語、教育、歴史を論じて、ウクライナ民族運動の画期となったものです。
  最後に紹介するのは、1848年のドイツ三月革命期に開催されたフランクフルト国民議会の議事録Stenografische Bericht über die Verhandlungen der deutschen Constituirenden National-versammlung zu Frankfurt am Main.です。全部で78シートに収められたこの史料は、民族運動の揺籃期にあった中欧における政治運動の基本的な記録と言えましょう。

[兎内]


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