学会印象記(1996年)








日本国際政治学会春季研究大会(1996年5月)

5月18日・19日に立命館大学で春季研究大会が開催された。スラブ地域研究に関連する報告としては、共通論題「地球環境と国際政治」で、百瀬宏氏(津田塾大)が、旧ソ連地域周辺における下位地域協力、とくに環内海地域協力を事例として取り上げながら「地域協力の対象としての環境問題」というタイトルで報告をおこなった。また、ロシア・東欧分科会では、末沢恵美氏(東海大)が「ソ連崩壊後のロシア−ウクライナ関係」、矢田部順二氏(北大スラブ研究センターCOE非常勤研究員)が「『追放』ズデーテン・ドイツ人補償問題をめぐるチェコ−ドイツ関係の現状」という報告をおこなった。



比較経済体制学会第36回全国大会

今年度の大会が5月30日〜6月1日に立命館大学で開催された。共通論題は「国有企業改革の現状と課題」で、山村理人(北大スラブ研究センター)「旧国有企業の現状と課題:ロシアおよび東欧のケース」、木崎翠(横浜国立大)「中国:市場化へ向かう経済と企業」、家本博一(南山大)「国有企業改革の現状と課題:ポーランド」、玉村博巳(立命館大)「先進国民営化の特徴:フランスを中心に」、堀坂浩太郎(上智大)「新興工業国ブラジルにおける国有企業の民営化」の報告があった。このほかに、自由論題として、村上隆(北大スラブ研究センター)「ロシアの石油・ガス産業の私有化過程」、高橋昭雄(東大)「ミャンマーの農業・農村の現在」の報告があり、数量経済研究会での報告として、雲和広(京大・院)「ソ連・ロシアにおける人口移動とその構造」、尾近裕幸(和歌山大)“On the Debate between 'Gradualism' and 'Big-Bang': A Consideration from Hayekian Perspective”があった。本学会は、社会主義経済学会から名称が変わって3年を経過したが、今年の大会では現・旧社会主義圏以外の経済に関する報告が増え、今後の学会の研究方向が次第に明確になりつつあるという印象を強く受けた。



ロシア・東欧学会に出席して(望月哲男)

10月5日・6日の両日新潟大学において、ロシア・東欧学会第25回大会がおこなわれた。
5日は自由課題による3分科会10報告、インターネット特別分科会、特別講演「環日本海経済圏の展望」(信國眞載環日本海経済研究所研究所長)および総会がおこなわれた。

6日は共通論題「ロシア・東欧における『共産党の復権』」をめぐって、政治・外交、社会・経済、文化・思想に関する3セッション6報告がおこなわれた。共通論題に関する議論は、現代的状況の1ファクターとしての共産党の分析・評価にとどまらず、広く体制・政策・人的要素・行動様式等の連続性・非連続性をめぐるものに発展していった。また新しい試みであるインターネット分科会では、センターのものを含む各種ホームページの紹介、ロシア・東欧資料へのアプローチの仕方などを含め、新しい研究ツールの特徴が具体的に紹介された。各報告のテーマのまとまりという点では未だ工夫の余地があると感じられたが、フロアを含めた質疑討論は概ね活発であり、諸分野の専門家が集う地域研究の場として、有意義な大会であった。なお大会では新しい会則が決定された。




1996年の研究会・シンポウジウムの記録



東京大学国際シンポジウム
「ロシアはどこへ行く?−歴史・文化・社会−」
(1996年9月13-14日)


9月13・14日の両日、東京大学山上会館において、東大ロシア東欧研究連絡委員会の主催に よる標記のシンポジウムがおこなわれた。ソ連解体から5年後のロシアが目指す方向を、歴史・ 政治・社会・民族・文化・文学といった諸観点から分析しようという試み。出席者の顔ぶれは 多彩で、ペテルブルグ大学の歴史学者ルスラン・スクルィンニコフ、ロシア史研究所のエヴゲー ニー・アニシモフ(センター外国人研究員)、モスクワの社会学研究所長イーゴリ・クリャムキ ン、経済学者で国会議員のヴィクトル・シェイニス、作家ファジリ・イスカンデル、ロシア文 化学研究所長キリル・ラズローゴフ、アメリカで活動している評論家アレクサンドル・ゲニス、 ミハイル・エプシテイン(論文参加)など、9人の外国人参加者による報告がなされた(パリ 在住の作家シニャフスキーが病気のため出席できなかったのは残念であった)。日本側からは東 大の和田春樹教授、蓮實重彦教授、堤清二セゾン・コーポレーション会長などをはじめ13人が 報告・討論をおこなった。日露の同時通訳を導入したこともあって聴衆の数も多く、200人ほ ども入る会場は常に熱気に充ちていた。

シンポジウムの壮大なテーマは、もちろん2日間の議論で検討し尽くせるものではないが、 「ロシアの行方」「世界へのロシアの貢献」といった主催者側からの問いかけに対して、単なる 現状分析によるのではなく、歴史を振り返りつつ真剣に答えようとしていたロシア人参加者た ちの態度が印象に残った。人文科学と社会科学、あるいは歴史・政治・文学といった諸学の間 に共通の言語を見出す試みとしても、学ぶところの多い貴重な催しであった。沼野充義氏ら企 画委員の壮図と努力に感謝と敬意を表したい。

シンポジウムの内容に関しては、宇山研究員の印象記をご覧いただきたい。[望月]