サハリン北東部大陸棚の石油・ガス開発と環境V

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大陸棚開発関連の危機管理体制の比較研究: ロシア、ノルウェー、日本

皆川 修吾(北海道大学スラブ研究センター)


汚染事故管理体制

 国家環境委員会はオペレーターに対し、環境面から、24時間体制で、一定の除去能力を備えた救助艇、パトロール艇が出動できることを条件とし、監督して いる。生産が始まるとプラットフォームには前述したように環境インスペクターが常駐し、現場監督し、ときにはヘリコプターを使用して、プラットフォームの 曳航、設置、撤去まで監視・監督することになっている。サハリン州国家環境委員会の場合は逐次汚染に関する情報を発信しているだけでなく、油流出防除・回 収機資材のデータベース(種類、所有者、係留・貯蔵場所、実用性、使用状態、アクセス可能性など)を作成し管理している。非常事態省にすべての情報が集約 されているが、汚染事故発生後対応する第一の監督機関は運輸省となる。ソ連邦時代、海洋救助・事故防止の機能が海洋船舶省の所管となっていた伝統を引き継 ぎ、現在ロシア連邦運輸省となっている。
 連邦政府は、連邦法「天災・人災非常事態時の領土・国民保護」(俗に非常事態法)を根拠に、関連政府決定として「環境汚染時の情報伝達手続き指示」 (1994/6/14, No.594)、「緊急災害防止と警告に関する国家統合体制規則」(1995/11/5, No.1113)、「緊急災害対策・防止に関する国家統合体制の実施」(1996/8/3, No.924) などの政府決定をしている。これら政府決定は、批准済みのMALPOL(船舶による汚染防止のための条約) 73年、78年それに90年(批准予定)国際条約に準拠して行われている。
 あらゆる種類の災害の非常事態に関し、連邦レベルでも連邦構成主体レベルでも非常事態の災害であった場合、対処にあたって災害の種類別に判断基準が決 まっている。
 海域での海洋汚染対応活動はソ連邦時代の政府決定(1991/1/15, No.48)として海洋船舶省国家海洋汚染防除・救難管理部(Gosmorspassluzhba)が管轄することと定められていたところから、現在でも この機構をロシア連邦運輸省が踏襲している。当部局は連邦運輸省海運局に属している。例えば、北極海航路での油流出緊急防災計画があるが、そこでは常設の 防災作戦本部が当航路沿岸地域4カ所に置かれ、その下部機構に常時油流出除去機能を持ったムルマンスク地方管理局と極東地方管理局(ナホトカ)がある。各 本部が除去活動に関与するのは海域での流出油が100トン以上か、または汚染状況が地方局の対応能力を超えるものとしている。地方管理局が直接対応できる のは、流出油100トン以下で、沿岸地域、そして回収機資材の能力内としている。サハリン管理局「サフバス」も回収機資材を所有しているが、極東地域では 不凍港のナホトカ管理局に相当規模の除去機能を持つ機器・資材が集約され、除去活動のための高度のインフラ整備があるとされている(1/1/5, p.8)。サハリン原油流出除去計画(LRN)のマニュアルによれば、第1段階ではサハリン管理局「サフバス」が中心になり、他の主要関連機関(サハリン 州行政府、州国家環境委員会など)と協調し、サハリン州内にある組織、機資材を使って、また民間の舟艇を集めて活動をコーディネートし、除去作業にあたる としている(1/1/6)。
 汚染地域が機器で回収困難な沿岸地帯や浅瀬の場合、非常事態連邦法を根拠に連邦構成主体は非常事態を宣言する機能を持つ。連邦レベルでは大統領が行う。 連邦構成主体であれば知事が行い、その宣言の後サハリン州の場合副知事を長とする非常事態委員会が構成される。ここでは副知事がコーディネーターになり、 判断基準に基づいてどの機関をどのように動員するかを決める。委員会は必要と思われる機器、人員(専門家、兵員も含む)の動員を関連機関・企業に要請する 権利がある。
 原油流出の位置および規模により管理機構が異なり、情報伝達・意志決定プロセスが若干異なることになるが、原則として、油流出を確認した者は、地方管理 局の下部機構である救難センターか、航空機の場合航空管制室に報告する。報告者は発見場所、時刻、汚染範囲、油種、汚染源(者)、気象・海象状態などがそ の報告内容となる。救難センターおよび航空管制室から地方管理局、州行政府、州国家環境委員会などの監視部に報告される。そこからの伝達プロセスは原油流 出の位置および規模により異なり、従って意志決定プロセスも異なることになる。例えば、地方管理局が除去作業実働隊出動の必要なしと見なしたときは、州国 家環境委員会が除去作業の任にあたる。いずれにしても、意志決定の内容は概ね、図(別添2-2)で示されたようになる(北極海航路での油流出緊急防災計画 参照:1/2/6, p.65)。オホーツク海で大規模な流出を想定して、サハリン州に運輸省海運局直轄の(北極海航路での常設の防災対策本部同様の)汚染対策本部は設置され ていない。
 汚染対策本部の場合、緊急時にその関係機関(地方管理局、州行政府、州国家環境委員会、開発企業など)の代表からなる構成員が召集され、彼らの役割分担 は定められている。設置されていない場合は連邦レベルの国家海洋汚染防除・救難管理部とその下部機構が直接その任にあたることになる。またその場合非常事 態省との関係はどうなるかなど定かでない。運輸省所管の国家海洋汚染防除・救難管理部とその下部機構は将来非常事態省に移管することも考えられる (1/1/6)。
 大陸棚開発「サハリンI」および「サハリンII」のオペレーターは、流出油回収作業を米国・ロシア合弁企業「エコシェリフ」に任せることになっており、 最大規模の流出の場合はシンガポール、英国の回収企業を動員することが企業レベルで決められている(1/1/6)。


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