サハリン北東部大陸棚の石油・ガス開発と環境V

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大陸棚開発関連の危機管理体制の比較研究: ロシア、ノルウェー、日本

皆川 修吾(北海道大学スラブ研究センター)


汚染事故管理体制

 1981年3月13日制定の汚染管理法が油汚染除去活動に対し法的根拠を提供し、環境省が所管省に定められている(2/2/8, p.77)。同法では、油汚染の原因となりうる活動を営む者、または汚染の発生源となる可能性のある事業者は油汚染に対する緊急防災計画を立て、しかも防 災体制を敷く義務を負っている。このように、同法はオペレーター及びその他の産業活動を営む者に対し、汚染防除責任を負わせている。
 国と地方自治体は、油汚染に関する義務が私企業によってカバーされていない時にのみ、緊急活動の義務を負う。また国は、私企業、政府及び地方自治体を国 の防除システムに組み入れ調整する義務を負っている。
 環境省の下部組織にSFTがあり、後者は環境関連事項についての実質的な監督・監視・環境評価、そして他機関に環境保全につき助言し、関連規則の立案及 び改訂作業などを行っている。SFTは250名のスタッフで構成されている(1998年11月現在, 2/1/1)。
 SFTの下部機構に油汚染管理部(Oil Pollution Control Department)があり、本部はオスロから近距離の南部沿岸地ホルテンに置かれている。ここでは、政府、地方自治体、民間の緊急対策計画を国家の緊 急対策に組み入れる調整と監督を行い、実作業における監督、監視、環境評価を行い、事故対策及び事故の検証、原因究明を行っている。また、実際に防災・防 除活動の訓練・対策センターが付属している。近年ノルウェー沿岸海域で起こった船舶事故での油流出防除活動は当油汚染管理部にある対策司令室が指揮をと り、実績を着々と積み上げてきている。同管理部はまた、沿岸海域における防除のために設計された相当規模の資機材を保管する15カ所のSFT管轄の基地を 実際に管理している。これに加え、沿岸地域に51の油汚染相互緊急防災区域が設定されており(ノルウェーの自治体の数は400以上)、これら区域には、区 域内の通常の活動から発生する小規模な油汚染回収のために設計された資機材が保管されており、要員の配置とともに地方自治体により管理されている (2/1/2; 2/2/12; 2/2/15)。これら51の区域を34に整理統合する案が現在検討されている(2/1/1/; 2/1/2)。
 当管理部では資機材の技術開発と実験検査を行っており、油流出の航空監視も行っている。また、1991年より衛星監視実験を重ね、1994年から実用段 階に入り、数年後にはより精度の高い衛星監視システムが導入される模様である。衛星監視装置では、航空監視ではできなかった石油層から海底に自然流出して いる状態を察知できるが、航空監視の代替として使用できる段階にはまだ至っていない(2/2/13)。
 同管理部の重要な機能として、政府、地方自治体、民間機関で汚染防除に関与する要員の訓練がある。当訓練センターには、経験豊かな教官がいるが、特に油 流出防除作業指揮訓練のためのシミュレーターがある。流出時の気象、海象、原油量、原油の質がビデオ画面にシミュレーションされており、リアルタイムで現 場を実体験できる仕組みになっている。ここでのシミュレーターによる実習訓練は意志決定の手順に従い、現状分析とそれに対する資機材種類と人員配置規模の 判断力を養い、実際の流出油防除活動に備えることを目的としている(2/1/2, 2/2/12)。
 ノルウェーのオフショア・オペレーターは事故防止・流出油回収の厳しい責任が課せられているが、自身で汚染防止資機材を備えたり、または海洋汚染対策専 門会社と流出時の作業委託契約を結んでいない。1978年4月1日、オペレーター合同の油汚染緊急防災組織、NOFO (Norwegian Clean Seas Association for Operating Companies) を設置し、その本部を石油基地スタヴァンゲルに置いている。現在、ノルウェー領海のオフショア・オペレターすべてがNOFO メンバーである。汚染対策設備基準が厳しいので、コストの点で今後オペレター自身で独自の組織を持つことは考えられない。 NOFOの運営組織は、総会、理事会、管理組織の3つからなり、総会はすべてのオペレターの代表者で構成されている。総会での各オペレーターの代表者の数 は活動状況の大小に関連している(2/2/15)。
 NOFOは現在下記の要件を満たしている。
-資機材の購入
-資機材の保守管理
-訓練
-新しい資機材と防除法の開発
-船舶作業員、緊急要員、現場指揮官の動員
-資機材及び船舶の運用
-緊急防除問題に関する助言の提供
 NOFOはノルウェー沿岸地域5カ所に油汚染緊急防除資機材保管基地を持っている。また、24時間体制で警戒している警報センターがスタヴァンゲルにあ り、最新の監視装置を備えた気球・航空機・ヘリコプターなどを所有している。油回収船が2時間以内に資機材を準備し積載できるようにするため、すべての揚 荷装置、準資機材及び船に資機材を設置するための固定装置は規格化され、同様に屋内の資機材格納に関しても規格化されている。油汚染が発生した場合、現場 の責任者は汚染の拡がりを査定し、緊急センターに連絡する。小規模の汚染の場合はNOFOはオペレーターの施設に備えられている小規模な防除資機材で処理 し、大規模の場合は(動員できる範囲内の)必要数の油汚染回収ユニットを動員する。汚染者であるオペレーターは動員された作業員の運用を行うが、NOFO が有する訓練された現場指揮官の指示を受ける。そして、汚染者であるオペレーターが回収作業に要したすべての費用負担をする(2/2/15)。
 ノルウェーにおける緊急事故管理体制が官民による立体的に組織化された二重構造になっていることが分かる。

 ノルウェーの汚染管理法では第一の責任が汚染者にある。政府が汚染者の回収作業に満足しない場合、または汚染者がオペレーターでなく(つまりNOFOメ ンバーでない)他の汚染者(船舶会社や領海外のオペレーター)の場合、政府(つまりSFTの油汚染管理部)が官民の緊急防災システムを可及的に管理運営 し、回収作業全体を指揮することになる。
1 その場合、油汚染管理局はNOFOに回収作業の支援を要請する権利がある。 NOFOは第三者が汚染者である回収作業に支援した場合、汚染者に費用を請求する権利があり、その権利は国が保証している。つまり、汚染者は回収作業コス トと環境被害や資産損失のコストを負うことになっている。ノルウェーでは、現在約3千人の人員が油回収の状況に応じ非常勤として動員できる態勢にある。使 用可能な資機材の合計は、民間と公共の油防除機関をあわせると60カイリ (約111km)の大小オイルフェンス、300の油回収装置及び数艘の油回収船がある。油汚染の生態系への破壊を可能な限り軽減させるために、海岸に漂着 する前に海上で回収作業を完結させる事が回収作業コストの点からも望ましい。海上の油を1トン回収するのに、3千から4千ドルかかるが、海岸線からの回収 は、地形により7千から4万ドルかかる。油汚染を起こした場合のこれらコスト負担が、汚染に対する十分な措置を講じるようにオペレーターに対し心理的にも 抑制作用がある。油井からの年間油流出量は原油出荷高が上昇するにつれて増えており、今後出荷高が下降線をたどったとしても、複雑な地形を持つバレンツ海 大陸棚でハイテク技術を利用しての試掘が増えれば、油流出量は増えると予測されている。1995年度の総油流出量が1,519トンであり、284の流出回 数が記録されている。このうち産出している掘削井は109カ所、試掘井が36カ所であった。一回の流出で1トン以上流出したのは、このうちの5%にも満た ない(2/2/14; 2/2/15)。これほどの流出回数を記録しているにもかかわらず、環境汚染被害が記録されていないのは、ノルウェーの緊急防災体制が機能していることを 物語っている。ノルウェーは年一回、国を挙げて、近隣諸国の参加を得て、油流出防災大演習を行っている。また、最近改正された汚染管理法では、SFTは汚 染除去活動に際し海軍と沿岸警備隊とのより密接な協力体制が敷けるようになった(2/2/8, p.78)。
 国の油汚染緊急防除計画には次の点が指針となっている(2/2/14)。

  1. 油は汚染源において可能な限り機械的な資機材を使用して回収されなければならない
  2. 環境が脆弱または経済的に重要な地域には、最重点の油防除体制が敷かれなければな らない。油汚染の蓋然性は絶えず高く見積もらなければならない。
  3. 生態系に影響を与える油処理剤は、汚染状況が機械的な資機材の能力を超えるときの み使用されなければならない。
  4. 油流出から48時間以内に回収できる防除体制を敷くようにする。気象条件にもよる が拡散すると、回収不能となるので、早ければ早いほど良い。
 政府が油回収の指揮権をとった場合の指揮系統および判断手順は図(別添2-12-2参照)のようになる。

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1 Article 46 of the Pollution Control Act states that the State may on its own initiative take command of the action to combat accident whenever considered necessary.


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