サハリン北東部大陸棚の石油・ガス開発と環境W

Copyright (C) 1999 by Slavic Research Center,Hokkaido University.
All rights reserved.


第4回研究会

1.日 時:平成12年1月21日(金) 16:00〜18:00
2.場 所:スラブ研究センター420会議室
3.テーマ:海洋汚染に関するノルウェーのロシアとの協力および油流出防止対策
報告者:皆川修吾(スラブ研究センター)
北川弘光(大学院工学研究科)
吉田東海雄(北海道指導漁業協同組合連合会)
村上 隆(スラブ研究センター)

皆川: 今日は4人の報告ということですので、30分で終わらせていただきます。私のペーパーが北海道大学スラブ研究センターのホームページでご覧になれますので、そのごく一部が報告の内容になるかと思います。ノルウェーでの資料調査は、もう一年以上前に行われ、それ以降、昨年の暮れに村上先生、それから吉田さんが現地に行かれましたし、北川先生はノルウェーとの共同プロジェクトを通じて深く関わっていますので、後ほど彼らにも補足していただきたいたと思います。

 まず一般論から入りますけれども、危機管理システムという名前でこのペーパーを書いたわけですが、危機管理システムを見るとその国の管理能力、従いまして限界も分かるということです。ノルウェーだけでなくて、イギリス、アメリカ、カナダ、フランス等のこれまでの管理システム形成過程を勉強してみますと、ほとんどの国で、今すばらしいと言われているこれら国々の危機管理システムができる背景には大変な油流出事故があったのです。どれを見ても、大事故が起きてからのことなのです。それまでは法体制も未整備であったということです。その次に重要なことは、費用対効果の問題です。実際にこの管理システムには大きな予算を必要とします。財源がなければ駄目ということです。特に財政難の折りに、世論がバックアップしてくれるかどうかということです。ですから、ただ単に理想論を言っているだけでは駄目なのです。例えば原油を生産している国ですと、それで財源が潤うため、危機管理システム構築には国家的な投資が必要であるというコンセンサスが国民の間で得られると思いますが、ただ石油を輸入しているだけの国では非常に難しいということが言えると思います。しかしそのコンセンサスの得方次第で、政治家やマスコミもそうなのですが、いろいろな方向に行くことが考えられます。大事なことは環境保全の文化がその国にあるかどうかということですが、これも流出事故があってはじめて環境保全文化が人工的に作られているわけでして、最初からそのような文化を持っている国は非常に少なかったということです。大小の事故を重ねているうちに国民は環境保全に対する文化を自ずと養うということが分かりました。危機管理システムについて説明する前に、以上のような背景があることをちょっと記憶にとどめていただきたいと思います。

 次に管理対策についてですが、通常、油流出事故があり、また環境保全の文化的背景があって初めて、法規範が整備されるということです。その法律を根拠にして、流出事故の防止対策と事故が実際に起きた時の対策を作るわけで、そのための組織作りが始まるわけです。そこにはきちんとした目的、役割などが明記されているわけです。そしてその組織の運営に関する権利義務が法を根拠にして作成されております。重要なことは、事故が起きた時の意志決定プロセスおよび指揮系統です。指揮権がどこにあるか。これは責任がどこにあるかということにも関係いたしますけれども、いくら指揮権があっても権利義務が明記されていないと困るということです。それからフィードバックシステムが整理されているかどうかも重要です。これがないと事故があっても事故の教訓がフィードバックされないわけです。

 今日の本題のノルウェーとロシアとの事故が起きた時の協定についてですけれども、ノルウェーとロシアとの協定は二つありまして、一つはすでに協定が結ばれているバレンツ海での事故発生に対する共同防除活動に関する協定、もう一つはノルウェーの危機管理システム全てをロシアに導入する協定です。3国が関係していまして、それらはノルウェー、ロシアおよびアメリカです。ゴア副大統領の発案で、ゴア・チェルノムイルジン委員会がありまして、そこに当初案が出されました。それが煮詰まって、95年以降、世界銀行の後押しによる財政的な支援の下で、ノルウェーのシステム移転ということで、フィージビリティスタディズが98年に終わり、その報告書が昨年出ました。現在、本協定に移るところにさしかかっているわけです。ですから、二つの協力体制がロシアとノルウェーの間であるということです。実際に事故が起きたときを想定した協定には、実は両方の利害関係がうまくかみ合っております。ある意味では、ロシアとノルウェーの両国関係は日本によく似ています。と言いますのは、ノルウェーとロシア間には大陸棚での国境線が確定されておりません。未解決です。国境線をお互いに主張しているところでは、紳士協定によって開発作業を両国ともストップしています。ロシア・ネネツの沖合でノルウェーの国営石油開発会社、スタットオイルが現在探鉱作業を実施しております。ここで産出した石油を船でノルウェーの製油所に運ぶ計画です。ここでは海流がバレンツ海からロシア側に流れております。万が一、油流出事故が起きた場合は、ロシアの方に油が流れます。したがって、両国の利害関係が一致しており、このような背景からノルウェーとロシア間で協定が結ばれたということです。

 ではノルウェーのすぐれた点をこれから申し上げます。ノルウェーの危機管理システムは、二つの法律の下でできているのですが、まず、危機管理法という法律が80年代に制定されました。1977年にエコフィスクで大きな油流出事故があり、それ以後ノルウェーでは法体系が成立されました。ですから、歴史は余り古くありません。ノルウェーには石油監督局というのがありますが、これを監督しているのは石油エネルギー省と地方自治開発省の二省です。この局は何をするかといいますと、ライセンシーを決める時に安全操業のこと等について審査いたしまして、防災計画をオペレーターに作ってもらうのですが、それの審査だとか、安全に関する審査を徹底的にオペレーターに対して行います。石油エネルギー省でやることは、ライセンスのオペレーターを決めたり、安全操業に対する規則などを決めます。ですのでオペレーターを指定するプロセスにおいて、石油エネルギー省は非常な権限があるわけです。石油監督局ですが、これはオペレーターを決めるまでの過程だけでなく、石油を産出した後も監督業務をずっと続けます。もちろん防災計画に違反したオペレーターが現れるわけですが、その時は石油監督局は訴訟手続きも起こすことができます。しかし今まで一例も訴訟を起こして、石油生産差し止めを食ったオペレーターは一社もございません。そうなる以前に全て行政措置と言いますか、オペレーターとの間で解決しているということです。それともう一つは、偉大な権限があった背景には石油生産のために国営石油産業、スタットオイルが設立されていたということです。それでかなり重点的に、オペレーターとしての運営認可をこの石油監督局が行ったということです。そういう関係で当初は必ずしも自由競争ではなかったのです。このような背景があって、当初、官僚主導で開発が動き出したのは事実です。しかし今は、スタットオイルも単なる国営企業になっています。ライセンシーになるプロセスにおいて、他の民間開発会社は何のハンディキャップもないということです。これは公正な審査の下に行なわれるという事で、第三者による監督もそのプロセスには入っています。


次へ