序   文

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 領域研究報告輯本号は平成9年7月16日北海道大学スラブ研究センターで開催された中国・スラブ領域研究合同シンポジウムの報告集である。 中国・スラブ・ユーラシア地域における昨今の変動は類例を見ない画期的な歴史事象である。大変動の諸相と推移を観察できる歴史的にも稀な時期に居合わせた中国・スラブ関連研究者が「変動」自体を研究テーマとしてほぼ同時期に取り上げたのは当然と言わなければならない。そして、今これら地域は、多元社会化、市民社会化、法治国家化、市場経済化という難題に直面し、しかも、地域社会の分裂、再編、統合といった動きの渦中にある。他方、これら地域についての共通の研究課題として、地域固有の価値体系とはなにか、共存(国家・社会・民族)の条件とは、そして何のための体制変換なのかなどがあげられる。

旧ソ連邦諸国では共産党や社会主義制度はなくなったがイデオロギーや意識として存続していることも考えられるのに対し、中国では共産党や社会主義制度が存続しているにもかかわらずイデオロギーや意識面では逆の事態が起きているようにも思われる。この仮説を検証すること自体大変興味深い研究であるが、まず本シンポジウムでは経済改革につき中露比較をし、次いで体制変容期の政治社会にスポットライトを当て、社会意識、体制側の社会コントロール、そして国民の国家意識などについて討議した。 本報告集に載せた論文は合同シンポジウムの前に提出されたペーパーに報告者及び発言者各々が若干手を加えたものであるが、山村理人氏と伊東孝之氏のペーパーはシンポジウム後本報告集のために新たに書き下ろした論文である。フロアーからの質疑応答の部分は、中国領域研究事務局の平野聡氏がその要旨として編集されたものをほぼそのまま使わせていただいた。佐藤経明氏の冒頭発言要旨は後日佐藤氏自身が書き寄せられたものを編者の判断で報告集に載せた。

今回のシンポジウムに中国領域研究者多数が参加され、学究的に極めて意義ある領域研究間の交流ができ、また合同シンポジウム報告集として公刊できたのもひとえに中国領域研究代表の毛里和子氏(横浜市立大学教授)のご尽力の賜であり、ここに毛里氏に深く謝意を表す。

文部省科学研究費重点領域研究

「スラブ・ユーラシアの変動」総括班

領域代表  皆川修吾