北大総合博物館「国境観光」特別展示

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北大総合博物館「国境観光」特別展示

北海道大学総合博物館にて「国境観光」特別展示を開催

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 北海道大学GCOEプログラム「境界研究の拠点成」は平成25(2013)年度をもって5年間の事業を終了しましたが、その一部をUBRJ(北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター 境界ユニット)が引き継ぎ展開していま
 GCOEでは、研究成果の社会還元を目的とし、DVDの制作や海道大学総合博物館での展示及び市民セミナーを行ってまいりました。今回、耐震改修工事のため来年度の休館が決まった博物館にて、2014年8月12日より2015年3月末までの期間、昨年度よりUBRJが重点的に研究・実務連携に取り組んでいる「国境観光」の特別展示を行うこととなりました。これは、UBRJが中心となり展開している日本学術振興会 実社会対応プログラム「国境観光:地域を創るボーダースタディーズ」(研究代表者:岩下明裕)の研究成果還元の一環でもあります。今日の日本ではまだあまり馴染みがないかもしれませんが、世界では様々な形で国境観光が展開されており、様々な側面からの注目を集めています。
 今回の特別展示は3つの内容から構成されています。動線の順に、一つ目は、国外の興味深い事例として、パレスチナ自治区バッティール村の観光について取り上げています。二つ目は、我が国の最も安定した海の境域に位置する長崎県の離島、対馬について取り上げました。最後に、1905年から1945年まで日本の北辺だった樺太の国境観光の歴史について紐解きました

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ヘブロン.jpg パレスチナ自治区については、昨今ガザ地区の空爆が激化し、世界的な関心を集めています。本展示で扱うヨルダン川西岸地区は比較的情勢が安定していますが、そこでは、第一次中東戦争の停戦ラインを跨ぐ形で、まさにパレスチナ人社会の実情を知ってもらうために国境観光が組織されています。展示は、2014年6月、ローマ時代から続く灌漑システムによる段々畑の景観が世界遺産に登録された、ヨルダン川西岸のベツレヘム県バッティール村をフィールドに研究を進めている高松郷子・北海道大学観光高等研究センター研究員が現地から持ち帰った資料と情報をもとに構成しています。村は、イスラエルがテロ対策を理由に建設を続ける分離壁から伝統的な灌漑農業を守るため、外国人向けの観光ツアーに取り組んでいます。展示を通じて、パレスチナ問題を少しでも身近に感じ、国境観光のもつ「力」を感じ取ってて頂ければ幸いです。

対馬パネル.jpg 対馬での国境観光については、岩下明裕・UBRJリーダー花松泰倫・九大持続可能な社会のための決断科学センター講師を中心に実施している調査に基づき、今年刊行されたブックレット『国境の島・対馬の観光を創る』(北海道大学出版会刊)の内容を中心としたパネル展示及びDVDの上映を行っています。対馬は、2012年、世界のボーダースタディーズ(境界研究)の研究者が一堂に会するBRITの開催中継地(BRITは境界地域の二カ国を移動しながら開催される)となりました。私たちは、隣国との境界が全て画定し、最も安定した境界地域である対馬を、八重山--台湾、稚内--サハリンといった日本のその他の境界地域の観光モデルにしようと奮闘しています。対馬には、すでに韓国からは多くの観光客がやって来ていますが、そこに日本人観光客を同様に取り込む必要があります。また、対馬沖は日露戦争の激戦地で、漂着したロシア人水兵を上対馬・殿崎の住民が手厚くもてなしたという美談があり、このことから殿崎には日露友好の記念碑が建立されています。そこで、釜山に数多く住むロシア人を観光客として誘致するポテンシャルもあります。このように、対馬での国境観光が一方通行でなくなった時、対馬が真のユーラシアに向けた「ゲートウェイ」となり得ることでしょう。展示ブースではブックレットをお手にとってご覧になることもできます。また、NPO法人国境地域研究センターが作成した最新DVD「国境を行く 対馬―古代からの架け橋」も絶賛発売中です。

 
樺太.jpg樺太絵葉書.jpg 最後に、番外編として取り上げるのは樺太です。宇佐見祥子・北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター研究支援推進員がコンテンツを含め作成を担当しました。日露戦争に勝利した日本は、1905年のポーツマス条約で北緯50度以南の南樺太を領有しました。当時は、陸上に日本とロシアの境界線があったのです。この北辺の陸の国境は多くの作家・詩人のあこがれの地でもありました。大正〜昭和初期の旅行記などから、当時、境界線を目の当たりにした人々が何を感じ、考えたのか、パネルで紹介しています。また、稚内市教育委員会所蔵の絵葉書コレクションを展示しています。ぜひお手に取ってご覧ください。

 ユーラシアを駆け抜けた国際政治学者・秋野豊は言いました。「(国境)地域を砦にしてはならない。そこに住む人たちは死ぬからだ。ゲートウェイこそ生きる道。」国境観光が、この国境のゲートウェイ化に大いに資することが、本展示での国内外の事例からご理解いただけることと確信しております。ぜひ足をお運びください。

                                                            (文責:地田 徹朗