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2015.11.26

ボーダースタディーズ福岡シンポジウム「領土という「呪い」を考える」(11/23)参加記

ボーダースタディーズ福岡シンポジウム「領土という「呪い」を考える」(11/23)参加記

 11月23日(月祝)、九州大学箱崎キャンパス国際ホールにて、ボーダースタディーズ福岡シンポジウム「領土という「呪い」を考える」が開催されました。九州大学アジア太平洋未来研究センター(CAFS)と北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター境界研究ユニット(UBRJ)が主催し、本年度の我が国でのボーダースタディーズのメインイベントとなる行事でした。これまでのUBRJ主催行事の中でもっとも「地理学的」な方向性が強く出た会議だったと思います。

 シンポジウムは3部構成で、冒頭で九大関係者のご挨拶をいただいた後、政治地理学の国際的権威であるジョン・アグニュー(カリフォルニア大学ロスアンゼルス校)による基調講演が行われました。講演のタイトルは「グローバル化の時代の地政学」。グローバル化というと、ボーダーを越えた流動性やネットワーク性に焦点が当てられがちだが、現実には国家間のヒエラルキーは克服されず、グローバル化されている地域とそうでない地域の差異があるなど、空間的視点から世界を捉える地政学の役割は未だに大きい。その上で、アグニュー氏は、グローバル化そのものの地政学、開発の地政学(geopolitics of development)、(グローバル化と時として逆行する)規制の地政学(geopolitics of regulation)という三つの視点からクリアーカットに今日の世界の地政学的状況について論じました。これに対し、コメンテーターの山﨑孝史(大阪市立大学)は、経済のグローバル化がそれに対応できない「失敗国家(failed states)」を生み出してしまっている今日の世界の中で、経済的な分極化がテロリズムの脅威などにも結び付いていることに鑑みれば、グローバル化した世界の中での平和の地政学(geopolitics of peace)を構築する必要があるのではないかと応答しました。

 第二セッション「主権への挑戦:対立する領域を超えて」では、岩下明裕(北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター/UBRJユニットリーダー)がまず登壇し、根室(北方領土)と沖縄(米軍基地)を取り上げ、政府が主権を有していると主張していても現地の住民が入れない(つまり、実効支配をしていない)地域の問題について論じました。主権そのものを潰したりすることは無理である以上、重要なことは境界の現場に住む人々に対していかに良い方向性を示すことができるのか、これは実務との協働の下でのボーダースタディーズの一つの大きな役割であり、国境観光振興もその一つの要素だと紹介がなされました。次いで、シム・サンジン(京畿大学校、韓国)による、1998年から2008年まで機能していた北朝鮮での金剛山観光プロジェクトに関する報告が行われました。現代と総裁と金正日が1989年に協定を結んでから動きだし、10年の時を経てようやく実現したプロジェクト。北朝鮮の境界地域の経済的弱者を観光という手段で救済する、南北に分断された親族の面談機会を提供する、南北朝鮮の市民の融和を図るなどの意図があったとのことです。国境観光が平和に資することを実態として示している報告でした。

 第三セッション「ボーダーをアートする」では、美学的な対象としてのボーダーについてや既存のボーダーをを批判的に検討する手段としてのアートやアーティストの役割について、アンヌ-ローヌ・アミルハト-スザリ(グルノーブル・アルプス大学、仏)と、シリア出身のアーティストであるアブダッラー・オマリーによる報告が行われました。当初参加予定だった、イラン出身でニューヨーク在住のキュレーターであるマフサ・マーゲンターラー-シャムサイー女史は都合で来日できず、彼女のビデオ映像が上映されました。各報告では、アーティストは単にボーダーを通過するだけでなく、ボーダーそのものにもメタファー以上の美学的価値を見出し、ボーダーでの実態を批判的に描写する主体であると同時に、アートそのものにボーダーや文化を越え普遍的な価値があるという点が強調されました。これに対し、コメンテーターのシンシア・ボーゲル(九州大学)は、消費物であるアートの市場や流通という側面からアートとボーダーの関係をどう捉えるのかという指摘がなされました。

 シンポジウムでは、基調講演の司会をポール・リチャードソン(マンチェスター大学、英)、第二セッションの司会を池直美(北海道大学)が、同コメンテーターをジェイ・ジェイ・ジャン(香港大学)、第三セッションの司会をテッド・ボイル(CAFS)が務め、総括報告にはユッシ・レーン(東フィンランド大学/ABS事務局長)が登壇しました。彼らは全員、グローバルCOEプログラム「境界研究の拠点形成」時代の境界研究サマースクールの参加者であり、懇親会も含めて同窓会のような和気藹々とした雰囲気だったのがとても印象的でした。

 最後に、午前中の打ち合わせからシンポ本体、夜の懇親会まで、準備とロジに奮闘していただいた、CAFSの皆様に感謝申し上げます。

(文責: 地田 徹朗)

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