書評・紹介など

岩下明裕『中・ロ国境4000キロ』角川選書

●ロシア東欧経済速報 【ロシア東欧貿易会】 2003年3月15日 (下記参照)
●北海道新聞 2002年3月23日付 書評欄
●ERINA REPORT(環日本海経済研究所) 第51号(2003年4月) 90頁
●西日本新聞 2003年5月11日付 書評欄
●「大いなる係争地」 朝日新聞 2003年6月9日付 夕刊 「窓」
●中ロ国境地帯の現地踏査ルポ (『世界週報』 2003年6月10日号 66頁) (下記参照)
●恋するアジア 第40号 (2003年6月 アジアライフ社 季刊) 33頁 (下記参照)
●熊本日日新聞 2003年6月22日付 書評欄 (下記参照)
●南日本新聞 2003年7月13日付 書評欄 (下記参照)
●秋野豊ユーラシア基金「ユーラシア・ウオッチ」
2003年3月17日号
2003年11月16日号
●『ユーラシア研究』第29号(2003年11月25日) 図書紹介(堀江則雄)
●共同通信社 2003年12月28日配信(東奥日報)

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ロシア東欧経済速報 【ロシア東欧貿易会】 2003年3月15日 (No.1255)

新刊案内 岩下明裕『中・ロ国境4000キロ』 (角川選書)

冷戦終結後、約10年にわたって中国・ロシア国境を現地調査してきた若手国際政治学者の実践的国境ルポ。 日本の21世紀を考える上で避けては通れない北東アジア情勢の未来像を展望する。 図們江からウスリー河、アムール河を経て、内モンゴルに至る中露国境地帯の地理・経済をめぐる、ここ10年の詳細なデータを網羅。 とくに地元紙から拾った中露国境各税関の貿易データと国境河川に関する詳細な地図およびロジティクス情報は、ロシア極東・中国・朝鮮半島を跨ぐビジネス関係者に必須。北東アジアを旅する際の必読書としてもお薦めしたい。
四六判、264頁で、本体1,700円(税別)。お求めは一般の書店で。
詳しくは→


中ロ国境地帯の現地踏査ルポ ( 『世界週報』 2003年6月10日号 66頁)

新刊案内 岩下明裕『中・ロ国境4000キロ』(角川選書)

ロシアと中国の両大国はユーラシア大陸東部で4000キロの国境を接する。 17世紀以降、この国境周辺で、一時は日本も関与する複雑な領土争奪の戦いが繰り広げられた。 国境の移動があった。 中ソ関係最悪の時期、死者を出す武力衝突が国境の島で起きた。

当時、モスクワ特派員だった評者は、中国大使館前での官製反中国デモを取材したことを思い出す。 こうした国境地帯は今どうなっているのか。 本書は、「平和のための『知の担ぎ屋』」を自称する新進気鋭の学者がジャーナリストの感覚で長年現地踏査を重ねて集めた貴重な最新情報の集大成である。 著者はそれをアカデミック・ルポと呼ぶ。

国際政治において中ロ(ソ)関係の大部分を規定したもの、それは国境問題であった。 本書は国境画定のための「交渉の経緯とその全貌を分析しようとした挑戦的な試み」だが、それは成功している。 この約10年間の変貌を自ら見聞した国境地帯の描写は、現地をよく知らない多くの読者にとって興味深いに違いない。

新たに教えられることは多いのだが、1969年春の流血事件の舞台となったウスリー河に浮かぶダマンスキー島(珍宝島)をその後、実効支配してきたのは、軍事力では圧倒的優位だったはずのソ連(ロシア)ではなく、中国であった事実はあまり知られていないのではないか。 中国による実効支配をロシア側は黙認してきた。 「ダマンスキーの記憶」が、「中ロ双方の中央政府およびロシア地方行政府の間で、係争地をめぐって妥協を促す要因となった」との指摘は面白い。 この要因が、暗礁に乗り上げていた中ロ国境画定交渉作業を促進させ、軍事衝突の可能性を少しでも軽減するために96年と97年にそれぞれ、国境地域の信頼醸成と兵力削減措置の導入を実現させた。国境の安定と平和を維持する上での心理的効果は大きかった。 実効支配の重みは、ロシアとの間に北方領土返還問題を抱える日本にとって教訓となるだろう。 また、97年末に国境画定終了が宣言された後も、東部国境の三つの島の帰属が未解決であることも言及されている。

ウラジオストクやハバロフスクなど極東ロシアでは、「中国脅威論」がひところかまびすしかった。 中国人移民の増加と中国の領土野心への警戒心があおられた。 これが意図的な政治運動であったことを本書は明確にしている。 同じ国境地域でも、中ロがアルグン河島嶼の帰属問題を解決した後に、期限付きにせよ、幾つかの島の共同利用(メンケセリ方式)を進めたチタ州・内モンゴル国境地帯のロシア人の間には、中国人に対する恐れの感情がほとんどないという。 ここは中ロ間の地方レベルでのパートナーシップ作りのモデルであり、21世紀における中ロ経済交流・協力の羅針盤となり得るようだ。 相互不信こそが、国境地帯での中ロ・パートナーシップの形成を長らく阻害してきた最大の要因であったという著者の主張は恐らく正しい。(中澤孝之)



恋するアジア 第40号(2003年6月 アジアライフ社 季刊) 33頁

『中・ロ国境4000キロ』(岩下明裕著)

国境。目には見えないこの境目を、これまで私は感傷的にとらえることが多かった。 しかし、だ。本書を読んで、国と国との線引きには、なんと重ーく深ーい問題が山積みされているのか」と、ロマンティックな思いも陰に潜んだ。 前々世紀から引きずる中国人のロシア人に対する不満や、ロシア人を脅かす中国人の流入など、領土問題には住民のメンタルな面も絡んでくる。

それにしても、四千キロを越える国境とは、なんと気の遠くなる規模であろうか。 本書は「知の担ぎ屋」を自認する国際政治学者が、冷戦終結後の中国・ロシア国境を調査・記録し、国境〉問題を学術的に分析した一冊である。

国境河川に浮かぶ多数の島や中洲、未だ帰属が明確でない土地、民間貿易の進化ぶり、など、ひとつの枠では括れない個々の問題が丹念に検証されていくたび、読者は、国境が「線」でなく「点」の連なりなのだと実感するだろう。<杉本>



熊本日日新聞 2003年6月22日付 書評欄

「中・ロ国境4000キロ」岩下明裕著

「国家」や「国境」の意味問う

国境地帯というのはきわめてスリリングである。 一本の線をはさんで向かい合った人間の集団が敵対し、嫌悪と排外的感情つまりはナショナリズムを生み出す場所となることもあれば、交流と相互の融和によって豊かな関係を作り出し、「線引き」にこだわることのばかばかしさを教えてくれる場所ともなる。

著者は、このような「国境」の実相を伝えるべく、中露国境地帯をなんと四千キロも踏査し、その実相を通して冷戦終結後の中露関係をあぶりだしている。 現場を歩く「蟻の眼」によってこそ生きた国際関係も見えてくるというのが著者のモットーのようである。

たしかに、冷戦終結後、全世界に及んだグローバリゼーションの波は、ヒトやモノ、カネの縦横無尽の動きを促し、 私たちの意識を強く規定してきた「国境」を揺るがすようになった。 その結果、従来当然のように信じられてきた「国家」や「国民」などという既成のアカデミズムの言葉は再検討を余儀なくされるようになった。私たちは視点をもう一度、人々の生活世界に置き、そこから考え直すことが必要となったのである。

著者とともに国境地帯を歩いていけば、「線引き」にこだわる古い政治と「線引き」自体を相対化する新しい政治との「相反するベクトルのせめぎ合い」をまざまざと見ることによって、「国家」や「国境」の意味を考えさせられるであろう。 そして国境地帯が今後どのような展開を見せるのかという問題は、もはやひとり中露関係のみならず、私たち自身の問題として受け取るに値するということにも気がついてくる。

ただ、アカデミズムとルポルタージュとの融合を目指した本書の記述の中には、いささか学術的に過ぎたり、仔細にわたりすぎたりして、読み進むのに少々忍耐を強いられるところがあるのが惜しまれる。

評・伊藤洋典 (熊本大学法学部教授)


南日本新聞 2003 年 7 月 13 日付 書評欄

「中・ロ国境4000キロ」岩下明裕著

本書は、中国とロシアの 4000 キロに及ぶ国境地帯について、若手国際政治学者による踏査を踏まえて書かれた「アカデミック・ルポルタージュ」である。

ウスリー河、アムール河、アルグン河という三つの河川を挟んだ中ロの国境地帯。 4000 キロという気の遠くなるような距離を有するこの地域について、当地の新聞や雑誌、研究文献を精査するとともに、現地調査を踏まえて書かれた本書を読むと、まずその情報量の多さに圧倒される。

この本の前半部分では、主として中ロ両国政府及び関係する地方政府における国境問題をめぐる思惑や種々の駆け引きが検証されている。 しかし、専門研究者以外の人々にとって興味深いのは、国境地帯を生きる人々についての描写を中心とする本書の後半部分であろう。 殺到する中国人「担ぎ屋」とロシア官憲の攻防や中国人商人によるロシア人下請け業者の組織化など、国境地帯ならではの様々な人の動きを垣間見ることができる。 冷戦終結後の中ロ双方の政治変動 (ソ連邦の解体と中国の改革・開放政策の進展) や両国の国境交渉は否が応でも現地に暮らす人々の生活を大きく左右している。

同時に、4000 キロにわたる国境地域周辺に暮らす人々の民族構成は実に多様で複雑である。 たとえば、中国黒龍江省の黒河 (ヘイホー) には、18 の民族が住んでいるという。 民族間の軋轢や思惑の違いを抱えながらも、時にはしたたかに国境地帯を生き抜く人々の息づかいも本書から伝わってくる。

中ロ国境と言っても、縁遠い場所とイメージする人も多いだろう。 しかし、中ロ国境の一部は、わずか半世紀前、日本が傀儡国家として建設した「満州国」の版図とも重なる地域である。 また、周囲を海で囲まれた日本に暮らす私たちは、国境という問題についてリアルに考える機会がほとんどない。 ところが、昨今の「不審船事件」や北朝鮮における拉致問題をきっかけに、にわかに国境への関心が高まり、過剰なナショナリズムを生み出しつつある。 そのような状況のなかで、少し頭を冷やして「国境」の問題を考えてみるうえでも、本書は大いに参考になるだろう。

(鹿児島大学教員・平井一臣)