ノガイ大系の主な作品のあらすじ
坂井 弘紀


  @「エディゲ 」(カラカルパク版)
  A「ウラクとママイ」(カザン=タタール版)
  B「カラサイとカズ」(カザフ版)
  C「カラサイとカズ=バトゥル」(バシュコルト版)




@「エディゲ 」(カラカルパク版)

 クブルという場所にババ=トゥクリ=アジズという人が住んでいた。ペリ(妖精)たちは毎年ここにある泉に沐浴に来ていた。ババ=トゥクリ=アジズは、彼等の衣服を盗んで、誰かひとりが彼に嫁げば、衣服は返すといった。天女たちはこれに同意して、一人が彼の元に嫁いだ。
 しかし、ババ=トゥクリ=アジズはなかなか約束を守らなかった。天女はババに「私のおなかには6ヶ月のあなたの子供がいます。この子をいつかどこかの木の根本で見つけて下さい」といって飛んでいった。

 この子供をトゥマン=ホジャという人の下女が見つけた。そして子供の名前をトクタミシュ=ハンにつけてもらいにいくと、「奇跡の子供はハンのもとにいるべきだ」とその子をハンが奪いとってしまい、その名をエディゲとつけた。エディゲは成長し、ハンの馬を世話する仕事をしていたが、トクタミシュの妻たちと仲違いしたため、大臣たちの言葉を聞かずに、サテミル(ティムール)のくにへ逃げていく。サテミルはエディゲを快く迎え入れた。エディゲは敵と戦い、アクビレクという娘を妻にする。

 一方、トクタミシュのくににいるエディゲの妻からはヌラディンという息子がうまれた。トクタミシュは大臣の言葉に従い、ヌラディンを殺す計画を立てる。そしてヌラディンにかなたにいるソッパスル=スプラというジュラウを連れてこさせるという苦難を与えた。
だが、ヌラディンは無事にスプラをハンの宮殿に連れてくる。そのため、ヌラディンを恐れたトクタミシュは、宴の場で彼を殺そうとする。しかし、ヌラディンはアングスンとトゥングスンというエディゲの友人の助けによって殺されずにすんだ。

 彼は、サテミルの国へ父エディゲを頼って逃げる。サテミルはエディゲとヌラディンとを会わせ、彼らにトクタミシュと戦うよう頼んだ。そして、ヌラディンはトクタミシュを殺した。

 その後、エディゲとヌラディンは仲違いしてしまう。呪いにより、ヌラディンの鞭の繩が切れて、エディゲの右目に当たってしまった。自分を恥じたヌラディンは父のところに行くことができず、やがて別の土地へ行くが、ケンジェバイという大臣がエディゲとヌラディンとを仲直りせる。そして、体の一部が足りなければ、ハンにはなれないという伝説にしたがって、エディゲは玉座をヌラディンに譲ったのであった。

Edige (Maqsetov Q. Qaraqalpaq xalqynyng korkem auyzeki doretpeleri. Nokis. 1996.)




A「ウラクとママイ」(カザン=タタール版)

 昔、ウラクとママイという兄弟がいた。彼らにはカロレクという母がいた。
 ママイには子供がなかった。ウラクには二人の子供がいた。一人は8歳で、もう一人は7歳であった。

 当時、10のノガイはウラクの支配下にあった。ある日、ウラクが死んだ。彼が死んだことを聞いて、カルマクのハンが使いをよこした。「ママイはもう老いた。ウラクの子供はまだ若い。それ故、人々を私に従わせ、税を払え。もしもこれに従わねば、ママイよ、アラタウに戦いに来い」と言った。

 ママイは10のノガイを召集した。
 「どうすべきか。税を払うべきか、それとも戦うべきか」。
 ノガイの民たちは言った。
 「われらは戦いません。戦えば、みな滅んでしまいしょう。」
 そして、民は税を払うことに同意し、戦いには行かなかった。だが、ママイは使いの鼻と耳を切り取り、ハンのもとへ追い返した。
 「ここから去って、ハンに伝えろ。わしは貢ぎを贈らん。アラタウへ戦いに来いと」。

 そしてママイは自分の馬に乗って、戦いに向かった。戦場には、500人ものカルマク兵が来ていた。彼らはママイを取り囲んだ。ママイは彼らと戦い、500人のカルマク兵のうち250人を倒した。残りは逃げ去った。そして、カルマクのハンのもとに帰り着いた。

 彼らが逃げると、ママイは下馬し、鞍を置き、弓をつるし、横になって、眠った。長いこと、眠っていた。カルマク人たちが近くに迫っていることに気がつかなかった。カルマクたちはさらに500人の兵でやってきた。まず、ママイの馬を盗んだ。脇腹の弓も盗まれた。ママイだけが知らずにいた。
 そして、ママイはカルマクの声に目覚めた。目覚めてみると、カルマクが取り囲んでいた。戦うにも、武器がなかった。石で戦おうとしたがそれも空しく終わった。彼らはママイを捕まえて、首に縄を結びつけた。長柄(かじ棒)に結び付けられてしまった。そして、ある村につれていかれた。村の入り口は石で閉ざされていた。

 ちょうどそのころ、ママイの母カロレクは夢を見た。夢ではママイの両目が、無くなっていた。ウラクの息子の一人を呼んで、こう言った。
 「ああ、嫌な夢を見た。おまえの父さんの両目が無くなっていた。父さんはカルマクの捕虜になっているに違いない。どうすればいいの?おまえはまだ若すぎるし」と。
 だが息子は、「私は行きます!」と言った。そこで老婆は、「行きなさい。おまえに駿馬がある。サンドゥク(長持ち)に鎧があるから、身につけなさい。それから鞍があるからそれを馬につけなさい。」と言った。

 馬に鞍をつけ、敵に向かっていった。アラタウに行くと、そこに一人のカルマク人が歩いていた。それは以前斬りつけられたカルマクであった。この勇士に挨拶をした。
 「私の馬はどこだ。言え。言わねば、おまえを殺すぞ。探し出して、つれて来い」と。
 カルマクは、「おまえの馬を置いていけ」と言った。
 勇士は村の傍に来た。村の入り口の石を投げた。長い縄をそこに投げ入れて、ママイを外に出した。外に出すと、件のカルマク人に、「羊をわれらの家に連れ去れ」と言った。

 彼はカルマクの町へ行った。カルマクの町についた。誰かが来るのをカルマク=ハンが見てみると、それは見知ったウラクの息子であった。ハンはそこから逃げ出した。
 ウラクの息子は、町に入った。カルマク=ハンの娘は、彼の前に来て、彼に食事を与えた。食事を終えると、ウラクの息子はハンのあとを追いかけた。彼が来るのを見て、覚悟を決めたカルマク=ハンは馬の向きを変えた。

 ハンは「一騎打ちの順番を決めよう」と言った。
 勇士はハンに攻撃権を与えた。カルマク=ハンは矢を射た。矢は勇士の、9層の鎧の7層に達した。勇士は言った。「次は俺の番だ」と。
 勇士の番になった。勇士はカルマク=ハンに矢を射た。矢はカルマクを射ぬき、ハンを倒した。勇士は、ハンの馬に乗って、ハンの娘のもとに行った。娘は自分の父が死んだことを知った。そのため、「あなたの妻になります」と言った。

 再度食事を与えた。食事を取っていると、再び500人のカルマクがやってきた。娘は出ていけず、泣いた。「彼らはあなたを殺すわ」と言って。
 彼は、その言葉にも関わらず、馬に乗ってカルマクたちと戦い始めた。勇士は、この500人のカルマク人を倒した。そして、カルマクの国を自分の手中に収めた。多くの家畜と金銀をてに入れた。多くの民を従えて、帰宅した。帰郷すると、10のノガイの人々もやってきて、迎え入れた。祝宴が行われた。そしてこの勇士を町にハンとして戴いた。彼は誠実なハンであった。その生活はたいへんすばらしいものとなった。

Urak belan Mamai (Tatar xalyk ijaty : dastannar. Kazan. 1984.)




B「カラサイとカズ」(カザフ版)

 勇士ママイとオラクはムサの息子であった。ババ=トゥクティ=シャシュティ=アジズが彼らの祖先であった。彼らは、エディゲやヌラディンの時代からくにの守り手であった。エディルとジャユクの二つの川に挟まれた広大な地が彼らの国であった。

 オラクはすぐれた勇士で、この地上で行ったことのない土地はないほどであった。しかし3つの心残りがあった。
 ひとつは、ママイには跡を継ぐ子供がいないため笑うことを忘れてしまったこと、二つめはウラル山でエル=コクシェが育てたクズル馬をカラサイのものにさせられなかったこと、三つめは、キガシュという高い山に行き、そこを服従させることができず、デルベントという町を攻撃できなかったことであった。これらの悔いを残して、オラクは死んだ。

 やがて、成長した彼の息子カラサイとカズがこれらの悔いを果たそうと考えた。カラサイは、まずコクシェのクズル馬を得ようとした。コクシェはカラサイの妹キバトと引き換えなら、馬を与えようといった。しかし年老いたコクシェに嫁ぐことを、キバトは潔しとしない。カズはカラサイに、妹を売ってまで馬に乗るならば、歩いていたほうがましだといい、それに同意したカラサイは歩いて行くことにした。それを見たキバトはコクシェのもとにいき、馬をカラサイにあげるように言った。

 ある日ママイ=ビーは敵と戦っていたが、倒すことができなかった。彼を補う息子がいなかったためである。そのとき、一方からクズル馬に乗ったカラサイがやってきて、敵と槍での一騎打ちの末、敵を打ち破った。
 しかし、カラサイの援助にママイは気づかずにいた。そこでカラサイはママイのもとに行き、自分がママイの息子として、助だちしたことを告げる。これを知って、生涯、笑ったことのなかったママイはカラサイの顔を見て笑ったのであった。カラサイはママイの息子代わりになったのである。

 こうしてカラサイは父の残した後悔のうち二つを果たした。カラサイは残ったひとつの遺志をどう果たそうと考えた。そのころキガシュ山にはクズルバスという強敵がいて、そこに行くものはみな殺された。クルムの若いハン、アディルは軍隊を召集し、クズルバスと戦うためにキガシュ山に向かおうとしていた。4万の兵力でも破れないほど敵は強かった。そこでカラサイは同行しようとクルムに向かった。アディルのもとに、著名な勇士が数多く集結し、出陣した。
 クズルバスとの戦いは、六日にわたった。その中でカラサイは負傷してしまった。カズは傷ついた兄をクズルバスのくにに残すことはできないと、ともに帰還することとした。一方、アディルは穴に落ちて、身動きが取れずにいた。クズルバスは暗い穴の中のアディルを発見し、穴に入っていった。アディルは脇の刀を振りまわして、応戦したが捕らえられ、両手を結ばれて連行された。これまでノガイのどんな勇士も来たことのない遠い場所に彼はひとり残された。

 クルムに残ったバイビケシュは、アディルが出陣してから何年も経つのに、なかなか戻らないことを案じた。アディルは敵に捕らえられていたのだが、何が起きたのか知る由もなかった。カズは「デルベントのクズルバスを打ち砕いて、友を救い出しに行こう」と言い、カラサイとともに「オラク!」とウラン(鬨の声)をあげ、デルベントへと向かった。しかし、アディルをなかなか探し出せない。するとそこへ彼らの母がピル(守護聖人)となって飛んできて、アディルの居場所を示してくれた。彼は地下牢にいた。

 再会を果たした3人は抱き合って喜んだ。アディルを駿馬クズル号に乗せて、ピルたちの助力を得ながら、クズルバスを打ち負かせた。そして3人は無事に帰り着いた。若いアディルを玉座につかせ、ハンに戴かせた。アディルは妹イリヤをカラサイに娶らせた。オラクの二人の息子は、こうしてママイの3つの遺志を果たしたのであった。

Qarasai-Qazy (Qazaqtyng batyrlyq eposy. Almaty. 1992.)




C「カラサイとカズ=バトゥル」(バシュコルト版)

 その昔、ノガイにウラクというバトゥルがいた。その勇敢さや聡明さのためにイスマギル=ミルザは彼を非常に妬んだ。ウラクをどうしても殺そうと思った。
 ウラクをどのように殺すか?また殺してもどうやり過ごせばよいか?

 ウラクは矢でも槍でも殺すことはできないほど強かった。イスマギルは、ウラクは彼のもつ刀でのみ、彼を殺すことができると知った。そこで勇士を雇い。ウラクが寝ているときにその刀を盗ませ、彼のユルタ(天幕)の入り口に結びつけて、外から彼を大声で呼ぶように命じた。雇われた勇士たちは盜んだ刀をユルタの入り口に高く結び付けておいた。そして、「泥棒だ!起きろ」と叫んだ。
 騒がしさに目を覚ましたウラクはユルタから外に出ようと飛び出し、仕掛けられていた自分の刀で傷つき死んでしまった。

 こうして、イスマギル=ミルザは宿敵ウラクを消し去り、ハンとなった。だが、ウラクには二人の幼い息子がいた。上の子はカラサイ、下の子はカズといった。婆やはこの孤児となった子供たちを、非情なイスマギルから殺されぬよう、別々の方角に逃がし、生き延ばせようとした。彼らはたいへんな苦労をしてどうにか成長した。

 あるとき、ノガイとカルマクが敵対するようになった。そうした中、カラサイ兄弟はイスマギルを殺し、本懐を遂げた。 

 やがて、カラサイはカルマクを撃退しようと考えるようになった。しかし、彼には馬も武器もなかった。彼は、婆やに馬と武器を見つけて渡すように頼んだ。婆やはカラサイがまだ幼いと思い、はじめはこれに同意しなかった。馬や武器が見つからず、敵がすでに遠くに行ってしまったと言い逃れた。

 あるとき、ガゼルソルタン(アディル=スルタン)というバトゥルが、ノガイの40人のバトゥルを集めて、カルマクと戦おうとした。しかし、ガゼルソルタンは敗北し、カルマクに囚われ、投獄された。その牢屋は誰も立ち入らない高い山にあった。
 ガゼルソルタンが負けて、彼が囚われたことを聞いて、老婆は、カラサイをスルタンの駿馬に乗せて、敵に立ち向かわせた。カルマクを勇士は粉砕した。ただガゼルスルタンを見つけることはできなった。
 牢屋にいたガゼルスルタンは、一匹の燕の翼に手紙をつけて飛ばせた。そこには「私を探し出して、救えるのはウラクの息子カズだけだ」と書き記してあった。

 カズは探索に出発した。彼はその高い山に行き、洞窟を見つけた。カルマクを兄カラサイとともに倒して、ガゼルソルタンを救出し、たくさんの家畜や戦利品をもって帰郷した。こうして、カラサイとカズは勇士としての名声を周囲に広めたのであった。

 現バシュコルトスタン共和国ウルンボル州ベリャエフ地区のブランス村のそばにカラサイ湖という湖がある。かつてカラサイがこの湖の湖畔で夏営していたために、そう呼ばれるようになったという。

Qarasai menan qazy batyr (Bashqort xalyq ijady 2. Ofo. 1997.)


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