1997年点検評価報告書
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百瀬宏
I・T・ベレント
ノダリ・A・シモニア
エヴゲーニイ・アニーシ モフ
スティーヴン・コトキン
セルゲイ・A・アルチュ ウノフ

エヴゲーニイ・アニーシモフ 報告


 私は1996年7月、ロシアで政治情勢が緊迫していた時に札幌に来た。そしてほとんどすぐに私は、スラブ研究センターの環境の好ましい影響を感じた。私 は静かな緑のキャンパス、居心地良い研究室におり、使い慣れたコンピューターの前に座り、親切で感じの良い同僚たちに囲まれているのだった。ほとんどすぐ に私は、学問的な仕事にとって必要不可欠な条件である精神的安らぎという、自分の国で失っていたものを得た。来日前の計画通り、私は9ヵ月の間に本を書き 上げ、その校閲まで済んだので、実質上そのまま印刷できるものを持ち帰ることになる。これは、いくつかの事情のおかげで可能になったことであった。
 第一に、スラブ研究センターは、研究に必要なあらゆる条件が学者に与えられる、本格的な研究所の雰囲気に満ちている。新型のコンピューター、すばらしい 図書館、インターネットと電子メールを通じての国際通信といった重要な条件から、こまごましたものまでが揃っている。センターが学術文献その他を必要なだ けコピーさせてくれることも重要である。これらすべての背後には、学者の仕事のための好適な条件の見事な組織化という長年をかけた営みだけでなく、学者の 仕事の特質への理解と敬意が存在するのだ。そこで私は、新任のすばらしいセンター長である林教授から、事務職員全員に至るまでの、私と私の必要とするもの に行き届いた配慮をしてくださったすべての関係者の皆さんに感謝したい。特に松田氏は、私のコンピューターの円滑な作動を保障し、コンピューターの専門で ない私には解決不可能に思える問題が起きた時には、たびたび、大変な忍耐と親切さをもって、私を助けに来てくれた。私は以前、米国の最も大きな研究セン ターのいくつかで仕事をする機会があったが、ここ札幌におけるような好適な仕事の条件はどこにもなかったということを指摘したい。このセンターでは、すべ てが細部に至るまで熟慮されており、すべてが学問と学者へのサーヴィスという目的に従っている。センターの事務関係者は非常に整然と働いており、学者の仕 事の便のために彼らが払っている甚大な努力は部外者には見えないかもしれないが、センターで働くすべての者には、これらの努力ははっきりと感じられるので ある。
 第二に、よその土地から来た外国人である私は、ほとんどすぐに、私にとってなじみのある研究共同体の雰囲気、つまり研究に携わる者とそれを理解する者の 組織の雰囲気を感じた。ここで見たものによって、私は、スラブ研究センターはロシア国外における数少ないロシア・東欧研究の国際的大センターの一つである と確信するに至った。共産主義の破産とソ連邦の崩壊の後、多くの国で政府機関のロシア研究への関心が著しく低下し、そのための予算が大幅に削られたという ことを記しておかねばならない。私はこれは全く近視眼的な政策であると思う。ロシアの諸問題に関する専門的で学問的な知識(これは言うまでもなく資金を必 要とする)は、文化一般の観点からだけでなく、実用的観点からも重要である。なぜなら、ロシアに関する知識はロシアの将来をよりよく予測し、ロシアと結び 付いている平和維持と世界的安全保障の問題をより明確に理解するのに役立つからだ。私は、スラブ研究センターはロシア研究の問題への上述のような軽薄なア プローチを避けたのだと思う。ここには、本物の学問に常に特徴的であるユニークな集合的知性を体現する、文系諸学のさまざまな分野の学者の堅固な共同体が 形成されてきたのだ。重要なのは、ここではロシア・東欧の諸問題の研究の伝統が維持されているということである。学問において伝統と継続性の維持は、恐ら く何よりも重要な、かけがえのないことなのだ。スラブ研究センターは、他のロシア研究機関との緊密な関係を維持し、ロシアその他の国から多くの学者を招い ている。センターで行われる報告で私の聞いたものは、その専門性と、ロシア・東欧の経済、政治、歴史、文化の諸問題に関する深い知識とで注意を惹いた。こ れは、センターの指導者たちに、自分の分野で最も権威のある学者を見出し、招く能力があるということを物語っている。私が二度出席したシンポジウムは、世 界の学者共同体に巨大な学問的効用をもたらすと同時に、札幌を世界のスラブ研究の著名な中心地としている。ロシアのさまざまな問題に関する雑誌や論集の発 行も、同じ効果を持っている。
 第三に、スラブ研究センターは、外国人の学者と仕事をする上で非常に豊かな経験を持っている。外国人研究者は、住み慣れぬ異国に来て、日本での生活の最 初の数カ月は強く不便さを感じるものである。しかもスラブ研究センターにはさまざまな国の人が、自民族の生活様式の特徴を引きずりながらやって来、時には 日本での習慣に合わない行動や、自分の国の習慣にさえ合わない行動をする。スラブ研究センターの研究者と事務職員は、このような場合に避けられない問題を 解決し衝突を和らげるよう、できる限りのことを行っていると私は思う。札幌滞在の最初の日から私は、故郷を離れた外国人の問題に対する親切と深い理解のあ る雰囲気を感じた。センターの全職員には、研究活動と日本での生活の双方におけるあらゆる問題について即座に援助をする用意があった。私達はすぐに親切な 人々に囲まれ、家に招待され、家族と知り合い、本物の日本式客もてなしと外国人への寛容を見せてもらった。これがいかに容易でないかを私は理解している。 毎年来る新しい外国人研究者のそれぞれと共通の言葉を見つけ、その人の仕事と生活のために、単にまあまあというのでない、すばらしい条件を作り出すという ことが、ここでは実行されているのだ。
 第四に、スラブ研究センターで私を担当したのが宇山助教授であったのは私にとって幸運であったと思う。札幌に着いた最初の時から、彼は私にこの上ない手 助けをしてくれた。ロシア語を非常に良く知り、ロシア語を自由に書ける若い彼は、本当に才能があり、極めて勤勉で規律正しく、学者として大変有望であると 思う。最近スラブ研究センターで働き始めた彼が、旧ソ連の文化と政治の諸問題を研究する学者の新しい世代をここで代表していることは疑いない。学問的テー マでの彼との会話は、私に大きな満足をもたらしてくれた。宇山さんはその他の面でも私にあらゆる援助をしてくれた。私と妻の東京・京都・奈良訪問は、彼が 計画してくれたおかげで、非常に準備のよい、実り多いものとなった。
第五に、スラブ研究センターのすばらしい図書室のことを書かないわけにはいかない。この類のない蔵書は長年をかけて形成され、今やどのようなテーマでも学 者の仕事を可能にしている。図書館の本はさらに膨大な量のマイクロフィルムで補われているし、必要な場合には世界のあらゆる図書館に本を注文することもで きる。図書室では本や雑誌、新聞の整理のための莫大で手のかかる作業が行われている。購入された図書は、おびただしい量のために若干整理が遅れているもの の、兎内氏ほかの図書室員の努力は、限りない賞賛に値する。センターでの仕事の期間の間、私は図書室員の注意深さと気配りのおかげで、非常にさまざまの援 助を受け、ほとんど何も困ることがなかった。図書室についてもセンター全体についても、私は最高によい思い出を長く抱き続けるであろう。

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