スラブ研究センターニュース 季刊 2007年秋号 No.111 index

研究の最前線


21 世紀COE プログラム  「スラブ・ユーラシア学の構築」 総括シンポジウムの東京開催

2003 年度に採択され今年度で終了する標記の研究教育拠点形成プロジェクトの最後を締め くくる総括シンポジウムが、2008 年1月24 ~ 26 日の3日間にわたって東京で開催されます。

今回の総括シンポジウムではまず初日に「スラブ・ユーラシア学の幕開け」と題して、5 年間にわたっておこなった研究の成果を広く世に問うパネルが企画されました。第一パネル では、地域はどのように形成されるのかという地域研究の基本的な問題に関して、報告者と 討論者の範囲がスラブ・ユーラシア以外の地域に広げられ、地域を超えた議論がなされます。 第二パネルはスラブ・ユーラシアを帝国空間として捉える試みであり、センターの帝国論者 と気鋭の帝国論者との間で激しい議論の切り結びがおこなわれるものと期待されます。第三 パネルでは心象地理的、言語文化論的なスラブ・ユーラシア像を描き出すことが目指されます。 「文」学はスラブ・ユーラシア学の重要な柱であり、「文」はこの地域の地域像を形成するう えで決定的とも言える役割を果たしています。

「スラブ・ユーラシア学の構築」プログラムでは「中域圏」という柔軟な地域設定を分析の 出発に据えて、地域研究の進展を図ってきましたが、以上の三つのパネルはそうした研究の 結実ないし発展した成果を体現するものです。

今回のシンポジウムの開催時期に合わせて三巻本のシリーズ『講座スラブ・ユーラシア学』 の刊行が始まります。シンポジウム当日には講座を出版する講談社が第一巻の展示即売ブー スを設置する予定です。講座の概要については本センターニュースの記事をご覧ください。

シンポジウム2日目は「スラブ・ユーラシア学の次世代」です。ここではセンターに在籍 している若手研究者が自主企画として組織したパネルが三つ続きます。第一パネルは「学知」 をキーワードにして組織されました。ロシア・ソ連における知のあり方が俎上に上げられます。 第二パネルは跨境と隣接世界を切り口として、スラブ・ユーラシアの東の果てから西の果て にまで視野が広げられます。第三パネルは宗教がテーマです。これは社会主義体制の崩壊に よって新しく注目されるようになった研究領域です。イスラーム、ユダヤ、古儀式派という 視角からどのようなスラブ・ロシア像がみえてくるのか、興味が持たれるところです。

若手研究者の問題意識は柔軟です。かつての社会主義期におけるソ連東欧研究とは隔世の 感すらあります。こうした新しい研究動向を摂取していくこともスラブ・ユーラシア学の幕 開けの重要な一幕です。

3日目は特別企画です。すなわちセンターが21 世紀COE プログラム枠として北大の全学 定員運用で採用した前田弘毅講師が中心となって組織されました。コーカサスという境界地域 に注目することで、スラブ・ユーラシアを南あるいはペルシア/中東から見るという新しい論 点がこの企画によって打ち出されます。この企画がイスラーム地域研究との共同開催であると いうところにも、「スラブ・ユーラシア学の構築」が目指した他地域との研究連携という考え 方がよく発揮されています。その意味で、総括シンポジウムに相応しい企画です。ただし開催 場所は初日、2日目と異なり、東京大学本郷キャンパスに移りますのでご注意ください。

以上、3日間にわたって多彩なプログラムが用意されています。またセンターは現在、21 世紀COE プログラムの後継プロジェクトとして、スラブ・ユーラシアと隣接世界との境界領 域に焦点を当てた研究課題を準備中ですが、今回の総括シンポジウムはこれまでの総括であ ると同時に、今後への布石という意味も併せ持っています。東アジア、中東などの研究者と の協力体制の強化はその一環でもあります。

ところで、スラブ研究センターが東京でこうした大掛かりなシンポジウムを開催するのは 今回が初めてです。20 年近くにわたってセンターが蓄積してきたシンポ開催のノウハウが今 回は通用しません。初日・2日の会場となる神田学士会館には北大専用の事務室が地下にあ るので、これを活用する予定ですが、そこにコピー機をレンタルで持ち込もうと会館に問い 合わせたところ、「消費電力の容量制限にひっかかるので不可」との答えが返ってきてしまい ました。ぎりぎりで報告原稿を持ち込まれたらどう対応しようか、などというロジ問題が目 の前をちらつきます。報告者の方々、くれぐれも原稿締め切り期限をお忘れなく。

ともあれ1月末という入試時期が迫る中、皆様お忙しいとは思いますが、是非ともご参加 くださいますよう、ご案内とお願いを申し上げます。

[家田]

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