スラブ研究センターニュース 季刊 2008 年夏号 No.114 index

研究の最前線


2008 年度夏期国際シンポジウム開かれる

2008 年6 月25 日~ 27 日、スラブ研究センター は夏期国際シンポジウム「北東アジアの冷戦:新 しい資料と観点」を主催し、北海道大学札幌キャ ンパスにおいて各セッションをおこないました。 G8 北海道洞爺湖サミット期間中に予想された交 通の混雑とセキュリティ上の混乱を避けるために、 会議は通常よりも早めに開催されました。またセ ンターでは、全面的な改修工事が2009 年4 月まで 続く予定で、センターの建物はすでに準備に入っ ていたことから、北海道大学学術交流会館とファ カルティハウス「エンレイソウ」が当該イベント の開催場所となりました。

講演をするハン氏
講演をするハン氏

この国際会議は、日本学術振興会から主要な助 成を受け、さらに北海道大学サステイナビリティ・ ウィーク、東亜日報ホワジョン平和基金(ソウル)、 ハーバード大学ロシア・ユーラシア研究デイヴィ ス・センター(マサチューセッツ)から補助的な 助成を受けました。そして、冷戦史研究分野における最高峰の学者が、日本、ロシア、アメリカ、 韓国、中国、EU、オーストラリアから招聘されました。国際的な冷戦史研究のためのプロジェ クトやセンターのリーダーたちとともに、冷戦史研究に関する主要な二冊の雑誌の編集者も 参加しました。

シンポジウムは、6 月25 日、韓国の著名な外交官ハン・スンジュ大使による基調講演によっ て開幕しました。ハン大使は、1993 ~ 1994 年外務大臣を務め、さらに2003 ~ 2005 年駐米韓国大使を務めた人物です。 それに加えて大使は、高麗大学の元学 長、現在はアジア政策研究機構の議長と しての経験から、外交関係についての学 術的な専門家の見解をよく理解されて います。ハン大使の講演は、朝鮮半島 の冷戦の過去と現在を結びつけること で、今回の国際会議の中心となる論点― 北東アジアの冷戦は本当に終わったの か?―をただちに提起しました。ハン大 使はまた、南北朝鮮を「冷戦最後のフロ ンティア」「過ぎ去ろうとしない局地化された冷戦」と特徴づけつつ、経験をもとに語りました。 その際、1991 年、1992 年にモスクワと北京がそれぞれソウルを承認したことによって、北東 アジアに質的に異なる状況がつくりだされたことが指摘されました。まさにこの状況によっ て、1993 年から1994 年の朝鮮半島における最初の核危機の脅威が、一時は不可避に見えた 軍事行動なしに無害化したのです。質疑応答の時間は活気に満ちたもので、その場にいた学 者はハン大使の答えの思慮深さと率直さの双方に深く感銘を受けました。東京大学名誉教授 の和田春樹氏が、ロシア大統領ボリス・エリツィンから韓国大統領金泳三への贈り物として 渡された朝鮮戦争の資料に関する質問をしたのですが、実はハン大使自身がその贈り物を届 けるため、その資料をモスクワからソウルへ持ち帰ったということが判明したのです。

セッション4 のようす
セッション4 のようす

短いコーヒー・ブレイクの後、国際冷戦史を創造する運動の三人のリーダーたちが非常に 有益な報告をおこないました。それらの報告はいずれも、包括的な冷戦史の世界構造を理解 するためには、北東アジアを研究することが重要であることを強調するものでした。ジェー ムス・ハーシュバーグ氏は、ワシントンDC のウッドロー・ウィルソン国際研究センターで 国際冷戦史プロジェクトを立ち上げたリーダーですが、彼は、アメリカ合衆国の外交史を国 際冷戦史へと変えていくことについて説明をしました。法政大学の下斗米伸夫氏は、現在ま でになされた日本の冷戦史研究のさまざまな成功と失敗について、パワー・ポイントを使用 した魅力的な報告をおこないました。ロンドン大学LSE 校のオッド・アルネ・ウェスタッド 氏は、1990 年代初頭にロシア文書館が開放された頃のめまぐるしい日々から教訓を引き出し、 他の資料、とくに北京の資料を機密扱いから外していくのに、これまでの資料をどう利用で きるのかについて論じました。同じロンドン大学LSE校のセルゲイ・ラドチェンコ氏、カリフォ ルニア大学サンタ・バーバラ校の長谷川毅氏、ハーバード大学のグジェゴシ・エカート氏は、 報告者たちの経験的な結論や演繹的な結論の間に存在するように思われる多様な矛盾をただ ちに指摘しました。活発な議論は、ちょうど58 年前の1950 年6 月25 日に始まった朝鮮戦争 の悲劇を偲ぶために、ホワジョン平和基金が主催した特別な夕食会の間も続き、国際会議は、 極めてよいスタートを切りました。

続く二日間の7 つのセッションで、北東アジアの冷戦史に直接関係のある広い範囲の主題 について、22 本の論文に基づく報告がなされました。この各セッションの進行には、合計で 120 人の学者が参加しました。国際会議のプログラムは、すべての報告者、討論者、司会者 を、彼らの所属と共に下記に掲載しましたので、ご覧下さい。北海道が世界的な問題を解決 するためにG8 の指導者たちの会議を開いたのとあわせて、北海道大学スラブ研究センターが、 こうした国際的な諸問題が私たちの地域である北東アジアのコンテクストの中にどのように して存在するに至ったのか、ということを調査する指導的な研究者たちの会議を主催したの は、まったく時宜にかなったことでした。

[ウルフ]

JUNE 25(編集部注:6 月25 日は,会場が狭かったため,一部の専門家のみの参加となりました)
KEYNOTE SPEECH
HAN Sungjoo (Professor Emeritus, Korea Univ.; Former Foreign Minister, Republic of Korea) “The Cold War in the Korean Peninsula”
OPENING SESSION
James HERSHBERG (George Washington Univ.) “Some Moments in the Emergence of ‘Cold War International History’: With an Emphasis on Northeast Asia”
SHIMOTOMAI Nobuo (Hosei Univ.) “Researches and Viewpoints on the Cold War in Japan”
Odd Arne WESTAD (London School of Economics) “The Cold War and the International History of the Twentieth Century”
Chair: David WOLFF (SRC)

JUNE 26
SESSION 1 Leadership in the Cold War
David WOLFF (SRC) “Stalin’s Northeast Asia and the Lost Peace of 1951”
James PERSON (Woodrow Wilson Center) “From Anti-Foreignism to Self-Reliance: The Evolution of North Korea’s Juche Ideology, 1953-1963”
Vladislav ZUBOK (Temple Univ.) “Lost in the Triangle: The Far East and Japan in the Soviet-American Backchannel Talks, 1969-1972”
Discussant: SHIMOTOMAI Nobuo (Hosei Univ.)
Chair: KIMURA Hiroshi (Takushoku Univ.)
SESSION 2 Interdisciplinary Approaches
HA Yongchool (Univ. of Washington at Seattle) and MA Sangyoon (Catholic Univ. of Korea) “Pro-Market, Non-Market or Anti-Market?: The Cold War and South Korean Economic Development”
NAKACHI Mie (Univ. of Chicago) “Socialism, the Cold War Politics of Demography, and Northeast Asia”
Mark EDELE (Univ. of Western Australia) “The Cold War and Soviet Troop Reductions, 1945-1960”
Douglas STIFFLER (Juniata College) “Sino-Soviet Negotiations for the Establishment of the People’s Univ. of China, 1949-50”
Discussant: Odd Arne WESTAD (London School of Economics)
Chair: MOCHIZUKI Tetsuo (SRC)
SESSION 3 End of the Cold War in Northeast Asia?
Sergey RADCHENKO (London School of Economics) “Secret Diplomacy of Soviet-South Korean Normalization”
NIU Jun (Beijing Univ.) “China ‘Bids Farewell’ to the Cold War: Deng Xiaoping and Normalization of Relations between China and the Soviet Union”
Lisbeth TARLOW (Harvard Univ.) “On the Rocks: The Gorbachev Team and Japan”
Discussant: KIM Sungho (Univ. of the Ryukyus)
Chair: HAN Sungjoo
SESSION 4 Soviet-Japanese Relations in the American Prism
YOKOTE Shinji (Keio Univ.) “Soviet Repatriation Policy Pushed Japan into the Cold War”
HASEGAWA Tsuyoshi (Univ. of California at Santa Barbara) “The United States, the Soviet Union and the Sino-Japanese Treaty of Peace and Friendship, 1977-1979”
Discussant: Vladislav ZUBOK
Chair: IWASHITA Akihiro (SRC)

JUNE 27
SESSION 5 Socialist Alliances
SHEN Zhihua (China Eastern Normal Univ.) “The Soviet Air Force Goes Into Action: Relations within the Chinese-Soviet-Korean Alliance in the Early Stages of the Korean War”
WOO Seongji (Kyung Hee Univ.) “Inter-Korean Dialogue in the Early 1970s: Evidence from South Korean Interviews and Documents”
CHEN Jian (Cornell Univ.) “Limits of the ‘Lips and Teeth’ Alliance’: Chinese-North Korean Relations in a Historical Perspective”
Discussant: ISHII Akira (Tokyo Univ., emeritus)
Chair: HA Yongchool
SESSION 6 Comparative Alliances
Mark KRAMER (Harvard Univ.) “The Warsaw Pact and Soviet Policy in Northeast Asia, 1955-1964"
IZUMIKAWA Yasuhiro (Kobe College) “Alliance Commitments, Wedge Strategy, and Dynamic Alliance Interactions in Northeast Asia: A Comparative View”
Grzegorz EKIERT (Harvard Univ.) “Democracy, Party Systems, and Civil Societies in post-Cold War East Central Europe and East Asia”
Discussant: ENDO Ken (Hokkaido Univ.)
Chair: HAYASHI Tadayuki (Hokkaido Univ.)
SESSION 7 Northeast Asia, the Cold War and the 21st Century
Dmitry GORENBURG (Harvard Univ.) “Akula in the Water: The Role of the Russian Navy in East Asia after the Cold War”
KIM Hakjoon (Donga Ilbo) “How to Dismantle the Cold War Structure on the Korean Peninsula?: Debate among Conservatives and Progressives in South Korea and Its Implications for Relations among South Korea, North Korea and the United States”
WADA Haruki (Tokyo Univ.) “Hot Wars and the Cold War in Northeast Asia: Reappraisal for the Future”
Discussant: HASEGAWA Tsuyoshi
Chair: HAKAMADA Shigeki (Aoyama Gakuin Univ.)
SESSION 8 General Discussion chaired by David WOLFF

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