スラブ研究センターニュース 季刊 2010 年秋号 No.123index

ハンガリー赤泥流出事故と日本の支援

家田修(センター)

 

今年はメキシコ湾の海底油田事 故に続き、10 月初めに東欧のハン ガリーで赤泥と呼ばれるアルミニ ウム産業廃棄物の大規模な流出事 故が発生しました。前者はメディ アで継続的に取り上げられました が、後者は極めて扱いが小さく、 しかも第一報の後、全体として報 道が途絶え、何が起こったのか、 全く分からずじまいの状況が続い ています。

赤泥は私たちが日頃手にするア ルミ缶などの原料であるアルミナ の製造過程で生じ、アルミ一缶に つきその二倍もの赤泥が出ます。 再利用が難しく、世界全体で年間1億トンもが投棄されています。日本は海洋投棄していま したが、近年、環境に配慮してアルミナ生産をやめ、海外に生産拠点を移しています。その 意味で日本は世界の赤泥に責任もあり、他人事では済まされないといえます。

赤泥津波が破壊した塀や樹木(デヴェチェル市)
赤泥津波が破壊した塀や樹木(デヴェチェル市)

今回の事故では、欧州10 ヵ国を貫流するドナウ川に汚染物質が流出するのは、食い止めら れましたが、広範な自然破壊が生じ、死者も出ました。現在も百万トンの赤泥が1000 ヘクター ルの農地に流出したまま、乾燥して飛沫化し、大気汚染を引き起こしています。現地政府は 健康被害防止のためマスク使用を促していますが、4 万人の地域住民にマスクを毎日一個、 数ヵ月にわたり確保することは、費用と品質、とりわけ数量面で不可能であり、マスク文化 をもつ日本に支援を求める声が現地から上がりました。

2 メートルに達した赤泥津波が残した痕跡
(デヴェチェル市)
2 メートルに達した赤泥津波が残した痕跡 (デヴェチェル市)

これに対し、事故現場の県と姉妹関係にある岐阜県のハンガリー友好協会がいち早く支援 の手を上げ、現地の新聞も「日本が支援」と報じ、被災者を勇気づけています。更に事故を知っ た大阪大学ハンガリー語学科の学 生も自ら街頭に出て、市民に呼び 掛け、義捐金を集め始めましたし、 ハンガリーに進出している日本企 業もマスク支援の後押しに乗り出 しています。昨今の日本外交に比 べ、実にさわやかな民間国際交流 の姿勢がそこにあります。

住民と赤泥除去作業隊
(最大の被災地デヴェチェル市街)
住民と赤泥除去作業隊 (最大の被災地デヴェチェル市街)

ただ、岐阜の方では50 万個の マスクを確保したにもかかわら ず、マスク購入以上に多額の輸送 費がかかるため、第一陣として 9万個を送った時点で、せっかく 準備したマスクが送れないで困っ ています。欧州ではマスク文化が なく、日本から送るしか手があり ません。

石膏(白い粉)による赤泥中和と瓦礫撤去作業
(デヴェチェル市)
石膏(白い粉)による赤泥中和と瓦礫撤去作業 (デヴェチェル市)

ハンガリーはEU に加盟したと はいえ、ギリシャと同様、経済不 振と財政赤字で苦しんでいます。 また事故調査に来たEU 調査団は、 赤泥に関する極めて「甘い」EU 環境基準に影響されたのか、「大 気汚染は心配ない」と言っていま す。他方、赤泥について独自の厳 しい環境基準をもつハンガリーの 専門家は、繰り返し人体への影響 を警告しています。日本からの支 援にハンガリーの人々が勇気づけ られているのには、こうした背景 もあります。

マスク支援は乾燥する冬を前 に、時間との戦いです。この支援 に御関心のある方は家田までご連 絡下さい。

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