◆「第12回Border Regions in Transition国際学術会議(BRIT2012)」
発表募集締め切られる◆
2012年11月13日から16日までの4日間、福岡市と釜山市(韓国)において、第12回Border Regions in Transition国際学術会議(BRIT
2012)が開催されます。これは、北大グローバルCOEプログラム「境界研究の拠点形成」の一つの大きな成果として企画されているものであり、スラブ研究センター、九州大学韓国研究センターおよび九州大学大学院法学研究院、また東西大学校日本研究センター(韓国・釜山市)との共催でおこなわれます。
この会議は、国境の周辺地域におけるさまざまな問題を議論する国際的な学術会議であり、国境を隔てた2都市を移動しながら開催されるもので、今回、東アジアで初めて開催されることとなったものです。会議は、最初の2日間、福岡国際会議場で開催されたのち、参加者が高速フェリーで対馬に渡り現地調査をおこないます。その後、再び高速フェリーで釜山に渡り、最終日には釜山市にある東西大学校で最後のセッションが開催されます。
今回の会議では、「国境地域の声をどう生かすか:新たな世界秩序の模索」をメインテーマとして、国境で分断された境界地域に住む人々がその境界によってどのような影響を受けてきたのか、あるいは境界地域で発生する様々な問題の克服に彼らの「声」をどのように生かしていくべきか、という点について、政治、経済、文化、環境などさまざまな角度から論じることになっております。その中でも特に、福岡と釜山の広域経済交流の事例は、国境を越えた平和的な交流のひとつのモデルとして位置づけて、複数のセッションで紹介される予定となっています。
すでに4月10日をもって発表の募集は締め切られましたが、予想を大きく上回る200を超える募集がありました。現在はBRIT幹部委員会によって応募のあった発表要旨をレビューする作業が進められており、5月下旬にはすべての発表者およびパネルが確定する見込みとなっています。また、実行委員会によるロジ面での準備も着々と進んでおり、6月初めにはすべてのスケジュールを決定して、参加者登録を開始する予定となっています。
[花松]
グローバルCOE
◆GCOEチーム、ABSヒューストン年次大会に参加◆
2012年4月12~14日、Association for Borderlands Studies(ABS)の年次大会がテキサス州ヒューストンで開催され、北大グローバルCOEプログラム「境界研究の拠点形成」にかかわる岩下拠点リーダーおよび地田、平山、花松、藤森各研究員、GCOE支援により池炫周 直美(北大公共政策大学院)、ポール・リチャードソン(学振外国人特別研究員)が参加しました。
本GCOEプログラムは、世界の境界研究コミュニティの一角を占めることを目的としていることから、北米の境界研究の一大コミュニティであるABSとの関係を重視しており、これまでも多くのユーラシア・アジア地域を専門とする研究者を派遣してきました。
ヒューストンのダウンタウン
これは、境界研究の先進学会でその手法を学ぶと同時に、北米研究者に我々の研究のプレゼンスを示し、市場を開拓する意味も持っています。 岩下拠点リーダーによる報告
“Breaking the Curse of Japan’s Maritime Borders” は、大戦前の日本が巨大な海洋国家であり、今日も大きな排他的経済水域(EEZ)を保有していることを指摘し、東アジアの国際関係における海の境界の重要性を主張するものでした。その観点から、11月開催のBRIT
XII福岡・釜山大会の意義が説かれ、参加の呼びかけともなりました。
花松研究員の報告、“National, Regime and Knowledge Borders in Ecosystem Management: The Case of the Amur-Okhotsk Ecosystem” は、オホーツク海の海洋資源がアムール川全体の環境保全と関連していることを指摘するものでした。これは花松研究員がこれまで北大低温科学研究所(低温研)や総合地球環境学研究所(地球研)で研究してきたテーマで、オホーツク海の海洋資源に依存するロシア、日本と、依存度が低いが影響を与えているアムール上流国(中国、モンゴル)間の調整の難しさが浮き彫りにされました。地田研究員の報告 “Origins of Transboundary Water-Energy Problems in Contemporary Central Asia” は、中央アジアにおける水利開発が、今日でもスターリンの「自然改造計画」の影響下にあることを歴史的に示すとともに、今日の中国の西部大開発政策により、中央アジア諸国間のみならず隣接諸国との間でも水資源を巡る争いが激化している現状が紹介されました。平山研究員による報告 “The Governance of Borderlands in the Process of Nation-state Building during the War of Independence in Northern Vietnam” は今日のベトナムの領土変遷を歴史的に追いかけるものでした。特に、フランス統治下とその後の独立戦争による領土の流動化が、その後、地方における大動員政策や徴税において混乱の原因となったことが主張されました。藤森研究員による報告 “Gaseous Borders: The Former Soviet Republics between Producer and Consumer” は、かつて存在したロシアとヨーロッパ市場間のガス販売価格差が、「地政学的な」友好価格に基づくというよりは、価格差を利用した再輸出ビジネスや、安いガスを利用した発電輸出の利益構造のために存在したことを主張するものでした。しかしながら、ロシアのWTO加盟やLNG普及により、こうした価格設定が困難になり、いずれは「市場価格化」される将来像が提示されました。
平山陽洋の報告
いずれの報告も、一次資料に基づくアジアやユーラシアを対象とした研究報告で、北米(米加国境、米墨国境)主体のABS会員にとってなじみがない地域です。しかし、北米との共通性や比較の観点が討論者や会場から指摘され、境界研究の後発である我々に多くの示唆を与えるものとなりました。特に現状分析については、河川の水資源問題、環境保全や二ヵ国にまたがるビジネス研究については、米墨境界地域と比較可能であり、こうした比較研究を通じて、ユーラシア・アジアの地域研究を世界のコミュニティに売り込むことが有効であることを感じさせられました。
年次大会中は、本プログラムが企画したDVD「知られざる南の国境」(HBCフレックス)もパネルのひとつとして上映されました。次期会長のChristine
Brenner、副会長のVictor Konrad、Martin van der Veldeを始め、Emmanuel Brunet-Jailly、Tony
Payan、James Scott、Ilkka Liikanen、Kimberly Collinsら境界研究を主導する研究者が参加し、本作品を企画した岩下及び英語版の制作に協力したPaul
Richardsonとフィルムをめぐって討議をおこないました。境界地域の状況を収めたフィルムは参加者に深い印象を残したようで、今後、カナダ、米国、フィンランド、オランダなどでボーダースタディーズの教材として使われる予定です。昨年のABSソルトレイク大会での「知られざる北の国境:樺太と千島」からスタートしたこのフィルム・セッションですが、来年のデンバー大会では「先住民と国境」が上映されることになりそうです。