平成18年度 北海道大学スラブ研究センター公開講座

「多様性と可能性のコーカサス:民族紛争を超えて」


 

● 開講にあたって

 泥沼化し、未だ出口の見えないチェチェン紛争。モスクワ劇場占拠事件や、ベス ランの学校占拠事件は、ロシアのみならず世界中に大きな衝撃を与えました。チェ チェン共和国が位置するコーカサス(カフカス、カフカース)地方は、黒海とカス ピ海に挟まれた狭い地峡ですが、ソ連崩壊以来、ユーラシア大陸中心部の要衝とし て、民族紛争やカスピ海石油・パイプライン問題、民主化革命(グルジアのバラ革 命)といった国際的な政治問題が注目を集めてきました。

一方で、コーカサスは、ソ連時代から、長寿の郷、ワインの故郷、ポリフォニー (多声合唱)や勇壮かつ優美な民族舞踏など、伝統芸術の宝庫として世界的に知ら れてきました。近年もヨーグルトなどの食文化や世界遺産などが日本でも紹介され ています。

紛争と流血の地と、美男美女の集う桃源郷。コーカサス・イメージの両極端な違 いは、何に起因するのでしょうか?残念ながら、人類史の秘境ともいうべきコーカ サスを直接知る機会は、長い間日本では不可能でした。今回のスラブ研究センター 公開講座では、現地の問題に精通する若手を中心とする専門家を集めて、日本で初 めて、このコーカサスの歴史と文化に焦点をあてて、連続講義を行います。

コーカサスの長い歴史を特徴付けるのは、有史以来、巨大な国家や文明体にのみ 込まれることなく、言語や文化の多様性を保ってきたという特異な背景にありま す。文明の十字路に位置する一方、大コーカサス山脈という自然障壁に守られたコ ーカサスの人々は、内側では多様な言語・宗教に基づく共生の文化を築き、周辺世 界ではマイノリティとしてのネットワークを生かして独自の地位を確保してきまし た。したがって、コーカサスについて考えることにより、中東・ロシア・ヨーロッ パやアメリカの知られざる側面を観察することも可能になります。また、植生の多 様性(りんごやぶどうの原産地)・人間文化の多様性(民族・言語の坩堝)は、ク ロスボーダーな現代において、豊かな文化資源の供給地として時代を先取りした魅 力をわれわれに伝えるのです。

ロシア・スラブ研究から出発し、現在、中東からインド、中国研究まで射程にい れたスラブ・ユーラシア学の構築(21世紀COEプログラム)をうたう北海道大学 スラブ研究センターにおいて、既存の文明や歴史を超えた実体としてのコーカサス はまさにうってつけな素材です。講座を通して、新たな知的関心の扉をご一緒に開 いていきたいと思います。みなさまのご参加を心よりお待ちしております。

(スラブ研究センター)


 

● 開講日程

毎週月・金曜日 午後6時30分〜午後8時30分

日  程 講 義 題 目 講   師
第1回 5月12日(金) ロシアのイスラム政治とダゲスタンのスーフィズム 北海道大学スラブ研究センター
教授 松里公孝
第2回 5月15日(月) コーカサスをめぐる国際政治:求められるバランス外交 東京外国語大学
講師 廣瀬陽子
第3回 5月19日(金) 野戦軍司令官からジャマーアット・アミールへ 東北大学
教授 北川誠一
第4回 5月22日(月) コーカサス・ダンスとディアスポラ(トルコの例) 東京外国語大学
講師(非常勤) 松本奈穂子
第5回 5月26日(金) 「コーカサスの虜」たち:ロシア文学に表れたコーカサスのイメージ 山形大学
助教授 中村唯史
第6回 5月29日(月) 中央アジアとコーカサス:近くて遠い隣人? 北海道大学スラブ研究センター
助教授 宇山智彦
第7回 6月2日(金) コーカサス史の転回〜歴史における「辺境」と「中心」〜 北海道大学スラブ研究センター
講師 前田弘毅

*都合により、日程等の一部を変更することがあります。