平成10年度 北海道大学スラブ研究センター公開講座

「動き出す日露関係」


 

● プログラムの趣旨

 ソ連の時代以来、日露関係は長いあいだ硬直した状態にありました。しかし昨年11月に、橋本首相とエリツィン大統領がシベリア のクラスノヤルスクで会談し、2000年までに平和条約を結ぶために全力を尽くすことで合意するなど、日露関係は今、大きく動き出す気配を見せています。
 スラブ研究センターの第13回目の公開講座は、日露関係の展望に焦点を当てることにしました。
 私たちの住む北海道は、日露関係を考えるのに非常によい場所にあります。しかしまた、環日本海や北東ユーラシアという単位でみれば、少し違った日露関係 が見えてくるかも知れません。さらに20世紀末という歴史の転換期の視点から、両国の交流や相互認識の歴史を振り返ってみるのも重要でしょう。
 今回の公開講座では、研究者として、あるいは実際の交流の担い手として日露関係に深く関わってきた講師陣による、以下のようなプログラムを用意いたしま した。

● 開講日程
 
日   程
講 義 題 目
講   師
第1回 5月11日(月) 日露関係の新展開
 −クラスノヤルスク以後− 
国際日本文化研究センター教授
          木 村   汎
第2回 5月14日(木) 日露貿易と北海道
 −カニ輸入の背後に見えるもの− 
北海道地域総合研究所主任研究員
          荒 井 信 雄
第3回 5月18日(月) ロシア政治の読み方
 −政策決定の仕組み− 
北海道大学スラブ研究センター教授
          皆 川 修 吾
第4回 5月21日(木) チェルノブイリ救援市民運動 ロシア史研究者
          和 田 あき子
第5回 5月25日(月) 日本人のロシア観 上智大学教授
          外 川 継 男
第6回 5月28日(木) 環日本海経済圏の中の日本のロシア 北海道大学スラブ研究センター教授
          村 上   隆
第7回 6月1日 (月) 日露関係史への新しい視点 北海道大学スラブ研究センター教授
          原   暉 之

 

● 公開講座を終えて
5月11日(月)から6月1日(月)までの毎月曜と木曜、計7回にわたって、センターの公開講座が おこなわれました。  ペレストロイカ初期の1986年から毎年スラブ・ユーラシア地域の様々な問題をテーマとしておこなわれてきた本講座です が、13年目にあたる今年は、新しい局面を迎えた日露関係をテーマとして取りあげました。昨年11月と今年4月の日露 首脳会談を契機として、両国は国境の確定と共栄をテーマとした新しい関係の樹立に向けて動き出しています。今回の講座ではこうした動きを踏まえながら、両 国関係の歴史・現状・将来をできるだけ広い視点から概観できるようなプログラムを組んでみました。治の分野では、現在の両国交渉がもつ可能性と課題、また ロシアの政策決定のメカニズムという問題が論じられました。経済分野では、カニ交易を中心とした北海道と極東の経済関係、また環日本海経済圏という規模で みた場合の日露経済関係の特徴や可能性の問題が論じられました。歴史分野では、江戸期から昭和期にかけての様々な事例を取りあげながら、日本人のロシア体 験 やロシア観の特徴という問題が論じられました。また今後の両国関係にとって大きな意味を持つと思われる市民間交流の一例として、チェルノブイリ原発事故の 被害者に対する支援市民団体の活動が紹介されました。講師は上記のテーマ順に、木村汎(国際日本文化研究センター)、皆川修吾(センター)、荒井信雄(北 海道地域総合研究所)、村上隆(センター)、外川継男(上智大)、 原暉之(センター)、和田あき子の各氏にお願いいたしました。 様々な意味でロシアへの関心の深い土地柄ということもあって、講座には74人の受講者を迎 えることができました。とりわけ国境確定交渉の背景に関する話題や、サハリン沖の油田開発の経 済効果と万一の事故の場合の北海道への影響といった話題には、真剣な反応がみられました。また従来の大学の公開講座では取りあげられることの少なかったベ ラルーシやウクライナの原発事故被害者への支援運動の詳しい実態紹介も、多くの受講生の関心を呼んでいました。センター外部からご協力いただいた講師の方 々には、この場を借りて深く御礼申し上げます。 なおこの講座の講義録は、月刊誌『しゃりばり』(北海道開発問題研究調査会)に連載の予定で、すでに同7 月号に木村汎教授の講義が掲載されています。講義録全体の出版も別途計画されています。ご関心のある方はセンター望月までお問い合わせ下さい。[望月]