サハリン北東部大陸棚の石油・ガス開発と環境W

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司 会: どうもありがとうございました。具体的にシュミレーションを見せていただくと大変理解しやすいわけですけれども、宗谷海峡を今タンカーが通ってますが、それはバイヤーが韓国だからのですね。サハリン〜Uのプランを見ますと択捉の方を通るラインも考えられていて、特に日本あたりがバイヤーになると太平洋側に持ってきますので、そういうケースが増えてくると思われます。オホーツク海沿岸自治体は特に海洋汚染の問題に非常に熱心ですが、稚内経由のタンカーからの流出油についてはオホーツク沿岸には行かないだろうと私は勝手に解釈していたのですが、今日の説明ではそうではなくて宗谷海峡を通ってもやはりかなりオホーツクの方に影響が出てくるというのを見せつけられたような気がします。択捉の方でのいわゆる仮にあちらを通った場合の流出想定というのはまだやってはいらっしゃらないんですか?

報告者: ええ、やってはいないんですがこれ自体計算はそんなに大変なことではない、出来ないことはないと思います。ただ精度については特に日本の沿海よりも外になってしまうと海流がどうなっているのかという正しい海流データというのがないですね。

司 会: それではご質問なりコメントなりどうぞ。

質 問: 今のは表層の水平拡散ですが垂直の拡散がどうなるかという点が一つと、水平拡散しながら当然濃度が下がって行くわけですが、濃度の変化がどうなるのかということです。それからホタテは海底にいます、オホーツク海ですと水深が30mから60mくらい、そうすると表層拡散がどうこのホタテと結びつくかということですね。この件についてはいかがですか?

報告者: 今回使ったシュミレーションのモデルでは垂直方向の拡散も考えておりまして結局、対数的に当然濃度は減っていきます。漂流の速度の式から海水中の移流というんですか、その中で分散していった分の漂流速度というのも一応考えています。それから垂直方向にどうやって分散するかというのを一応このモデルでは考えておりますので、計算結果からディスクから拾っていけばおおむねこのくらいかなというのは拾えると思ってます。ただ表面の方の濃度というか油の様子というのが分かれば後は今度こういう大きなモデルじゃなく、細かなその場所だけの鉛直方向のモデルを作って、どのくらい表層に滞留していれば10m、20mと下がっていった時に油の濃度が変わっていくのかということをちょっと考えてみたらどうかな思いますが、今回詳しくは分析していません。実験的な式といいますか経験的解析的な式でもあるんですけれども、海外の研究者が提唱しておりますので全く方法がないということはないと思います。

司 会: 特にオホーツクの場合ホタテが多いですね。この被害総額の想定のところで宗谷地方近海とは書いてありますが、ここにはホタテは入ってるのですか?

報告者: 稚内はホタテ漁としては入れていません。一応96年の水揚げでも10月くらいの時期、稚内はほとんどゼロですね。ところがやはりオホーツクに入ってから非常に多くなっています。漁法は手繰り漁といって「けた」というか爪みたいなものでガリガリ引っ張りながらホタテを取っていくというような形で漁をしてるのです。それがやはり先ほど試算した中で被害額の半分くらいになっています。

質 問: そのようなつながりで被害額を計算されたのですか?

報告者: まずだいたい一ヶ月くらい、漁業者が防除活動に出てしまい、もう漁に出れないわけです。それからここが汚染されたとなると多分上に油があれば底は大丈夫ですよといっても流通段階で出荷停止になると思うんです。そうなるとだいたい2ヶ月間ほど見るとその年は漁はほとんどだめになってしまいます。ですからホタテが直接大きく死滅する形までは今回は評価しないで物理的に漁に出れないから、確かにここは汚染されてるかもしれないんですが、しかし実質的に漁ができないからやはり被害だという形で見込んでいる訳です。

質 問: 生物が影響を受ける濃度というのはある程度低いですね。その最低の濃度がどのくらい拡散するかということに関心があって、それが海底生物自体にどういう影響を与えるかということは我々が見るとそれが被害の大部分かなという感じがするので、拡散とその最低の被害の濃度がどの程度かが分かれば把握しやすい。

報告者: 今使っているモデルは表面の油がどこに行くかに主流を置いてるので、まず表面の油がどこに行くか、あるいはここにどのくらい滞留するかというのをつかめれば後はもうちょっとミクロなモデルで、例えば上に一週間滞留したら流れの状況も入れて下でどのくらいの濃度になるか、というような二段構えのサブストラクチャー的なやり方でならば想定できないことはないかもしれないと思います。

司 会: 油の質そのものはどういう基準で考慮しているのですか?

報告者: イラニアンライトというのを使って行ったんですが、ただ先だってサハリンエナジー社の説明会がありましたので、彼らのデータに基づいて考えてみようかと思っているところです。

司 会: 実際に原油をユーザーに供給してますから、より具体的なデータが何らかの形では手に入るかと思いますね。

報告者: 粘度等見ると確かにかなりさらさらした系列の油ではないかと思っています。要するに広がりやすいといいますか。ムースの実験もいろいろやってみてるのですけれども人工的にムースを作るというのは結構難しいのですが、海ではすぐ出来るようです。

質 問: 日本の場合、防除対策に使えるような情報量が少ない。私がノルウェーで見てきた時に、かなりたくさんのシュミレーションがあって、ソフトウエアに新しいデータさえ入ってればそれで地方の公共団体・漁業組合の方たちが、それを見ながら訓練するんですね。シュミレーションモデルを使ってそれでちょっと風速を変えたり海床を変えたり漁種を変えたりどの方向に行くかというのは画面で出てるんです。どのくらいの資機材を使って、何人でやると防げるのか、どういうものを使えばそれが吸い取れるのか全部違うシュミレーションがされているわけです。そういう形でやってみてはと思うんですけれど。

司 会: コンピュータ上の画面をクリックすれば、時間的な流れでこういうふうに流れて行くというふうにはなってるんですか?

報告者: ええなってます。計算自体は差分計算なのでタイムステップを変えてやれば、例えば30分ごとに計算しなさいという形で指示すると、油膜がだんだん広がりながら動いていくというような形で出力されます。

質 問: 広がるというのはムース化してるということですか?

報告者: そうとも限りません。表面の油と海中の油というような形でも計算は分けて行っています。水の中に入ってしまっていて、ムース化しているような状態の油ですと例えばここから想定するとある時点でも海中油の量とか状態を確認した上で、垂直方向にちゃんと計算してみるというようなことができれば、何となく予測は出来るのではないかと思うんですが。

質 問: シュミレーションの場合は、いかに正確に海岸線の性質、例えば、表層は細かい砂でも、荒い砂が出て来たり石油が来ると種類によって染み込み方も違って、回収の仕方、それにかかる費用もかなり違ってきます。先ほど1キロメートルで行ったのですけども実際現地に行ってやったのかどうかということですが。

報告者: これは現地調査ではありません。既存の資料とか底質の分け方もどういうふうな分け方でやって行くかについては既存資料をもとに行っています。

質 問: 漁業被害のことでちょっとお聞きしたいのですが。今、出されている56億という判定の大きさなのですけども、例えば漁種ごとに評価した場合、資源量の出所は何でしょうか?沿岸に漂着した場合、どのくらいまでの面積を漂流し、それによってその流量被害も当然変わってくるし、垂直の関係もあるのですけれど、水平的にはどのくらいの汚染海域を想定されているのか、いろいろそういうものを組み合わせて56億という数字が出されたと思うのですけども、その辺をもうちょっと説明して頂きたい。

報告者: まず漁業被害の単位は1997年の水産関係の水揚げの統計にその地域ごとの各地の漁種ごとの水あげ金額の統計がありますので、それとその漁種が例えば3ヶ月漁が行われたとなれば単純に月当たり3で割ってこの町の出漁に使っている漁場がここにあって、それで3ヶ月間で97年に例えば何十億円水揚げがあり、そこの漁場が汚染されてしまえば、油がかぶってしまえば漁ができないという形で判断して被害額を算定しています。ですから直接資源量が減ったという考え方をとっていません。

質 問: 周年取れる魚種であれば例えば年間10億水揚げする内の3ヶ月、1.5ヶ月汚染されるということになると要するに単純に12分の3あるいは12分の1.5ということですね。ホタテの場合は稚魚を放流してそのまま取り上げるわけです。ですからその世代だけの話なんですが鮭などは世代後の資源量の変化が当然減少してきますから空間と時間変化の被害を計算しないといけないのです。そうするともっともっと被害額は大きくなるという感じがします。

報告者: おっしゃる通りなんですが、なかなかすぐお金まで評価するのは困難です。ただし、それでも単純に水揚げがなくなるということで今回は評価しております。

司 会: 問題提起としては非常に面白いし、分かりやすいんですが、ただ非常にデリケートな問題で、お金の被害の問題というのは数字が一人歩きするとちょっと恐いところがあるのでやはり前提条件をきちんとして、そしていろいろなことを客観的に考えていくということに相当神経を使う必要があると思います。

質 問: 漁業者が一番心配するのはどうしても一昨年のナホトカ号事故の経験から国際油濁基金等で補償する対象というのはあくまでもその時に被害にあった漁獲減少だけが対象だからです。ですから稚魚、例えばホタテであれば4年後に生産されるとか例えば鮭であれば3年後に生産されるとか、それは被害を受けても現状の条約では将来に対する資源減に対しては補償の対象にはならない。ですから我々からすると例えば確かにホタテはその年10億円被害を受けた、鮭は10億被害を受けた、だけど将来的にはその3倍、4倍のものが被害を受けるという面、あるいは3年後に被害を受けるというものは当然対象になりません。ですから多分こういう事故が起きて漁業被害が算定された時に我々漁業者が一番困るのは、将来の失う利益が全然対象にならないということです。この問題は確実に出てくると考えられます。

質 問: 道庁の漁業被害の算定の関係なんですけれども、数字は国の統計事務所が出したんでしょうか?

報告者: 道です。正確に申しますと北海道水産統計が主です。ですから道統計協会がお出しになってるものから取ってます。

質 問: それから漁港の出荷高というのはお調べになっていないんですね?

報告者: ええ、漁港ごとの出荷高というのは部分的につかんでるんですが全体を集計するにはあちこち穴があってまだ漁港別にというものにはなっていません。

質 問: ちょっと疑問だったのが手繰りの部分で稚内がゼロという形になっているのですが、私の記憶が正しければ稚内は宗谷海峡ではかなりの量のはずです。何故抜けたのか時期的な問題なんでしょうか?

報告者: 基本的には水産統計を信じるしかないというのが実態なんですが、水産統計と漁港の統計の違いがあります。

質 問: 水産統計は市町村がまとめた数値を集約するのです。ですから市によっては漁業出荷高と数字はかなり違ってきます。ただ違うにしても例えば稚内市がゼロというのはありえない。

司 会: 問題提起という点からも内容の点からでも興味深い報告でした。是非また別の機会に追加的に報告して頂ければ幸いです。どうもありがとうございました。


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