ユジノ・サハリンスク全体会議報告(村上)
第4回研究会(1998年9月29日)

はじめに

 今年の5月、北海道知事がサハリンにまいりましたときに、環境の問題で私ども北大のチームが環境の問題に取り組んでいるのでどうぞよろしく、という話をしていただきまして、サハリン行政府側が大変熱心に取り組む姿勢を示して頂いたわけですが、その時に、8月に行きますよ、という話をしております。私ども13人が現地を訪問しました。今回の訪問の主たる目的は、メンバーの多くがサハリンを訪問したことがなかったために、研究プロジェクトを進めるにあたって、相手との意見交換によって今後の研究を進めやすくすることでありました。開発とか環境といった問題は、サハリン州政府あるいはサハリン州国家環境委員会抜きにしては研究を進めることができないという状況にありますので、全体会議を開きました。しかし、専門家との意見交換は所期の目的を果たすことができませんでした。正直のところ、情況の悪いときに訪問したということがあります。そのひとつは、天候に恵まれませんでした。8月24日から一日足りとも晴れる日がなくて雨ばかりが続きました。そのためにヘリコプターで開発現場近くを視察することができませんでした。当初、ユジノ・サハリンスクから汽車でノグリキまで行き、その先はヘリコプターで掘削現場の上空を通ってオハという石油の町まで飛び、帰りは飛行機でユジノ・サハリンスクに戻るという予定でした。結果的にユジノ・サハリンスクだけになりました。

 それからご承知のように8月17日にはロシアの金融危機が発生してロシアが混乱に陥っていくわけですが、地方のサハリン州ではまだその兆候は出ていませんでした。我々の宿泊しているホテルのキオスクの輸入ビールが一挙に25%から30%値上がりしてしまった程度でした。

 サハリンの石油・天然ガス開発というものを遠くから見ていると、ユジノ・サハリンスクにはある種の熱気があって、どんどん開発が進んでいる姿を想像しますが、現地に行ってみると、そういう熱気はありません。例えばアメリカ人の技術者が若干目につく程度で、街中では活気を感じられません。わずかにみちのく銀行が将来を見越してビルを建てていますが、その程度であります。活気どころか現実の姿は厳しいものがあります。陸上で石油を開発しているサハリン州最大企業のサハリン海洋石油堀削会社(SNMG)というのがありますが、この企業の経営悪化は深刻です。この企業の子会社で、大陸棚の石油・天然ガス開発に従事している「サハリンシェリフ」は本社の従業員を吸収しています。本社の人員削減はすさまじく、丁度滞在中に従業員全体の三分の一にあたる3444人の削減が発表されました。石油価格の下落と債務の累積がこの会社の縮小に拍車をかけています。サハリンの開発が本格的になる前に縮小を余儀なくされているわけです。

 日本の新聞でもさかんに書かれておりましたが、停電も深刻です。炭鉱労働者は賃金未払いに抗議して、座り込みストをうって発電所に供給する石炭をストップさせる。そうすると発電所は電気を送れませんから停電が頻発する。停電が一日に15時間におよぶ時もあったわけです。我々が行く直前にこの問題は解決したわけですが、停電というのはその後もあって、24日、皆さんが来られたときにレストランで食事をしていたら停電になってしまって、ろうそくの一晩の生活をするという、昔懐かしい時間を過ごしたわけですけれど、こういった具合で、まだ完全に解決されていない。それからサハリンの主力産業として林業があります。しかし、昨年に比べて今年の上半期には用材生産量は65%も減少しました。製材も31%減少しています。

 こうした情況のなかで、サハリンの開発と環境の問題をロシアの組織を相手に研究しようというのですから大変です。

 現在、サハリン大陸棚の開発はうまくいっているように見えますが、石油価格の低迷で大変な状況にあるという印象を受けております。私どもが、開発と環境という問題を双方で共同研究しましょうと提案したわけですが、サハリン州行政府大陸棚開発局は、開発という問題にデリケートに反応しています。開発というのは私たちにとってはsustainable economic development、要するに接続的経済発展という、開発によってサハリン州そのものが経済的にどう潤っていくのだろうという問題を一方では取り上げようとしたのですが、大陸棚開発局の人たちはもっと狭く考えておりまして、いわゆるPSC(生産分与方式)でロシア側の取り分がどれだけになるのかとか、どれだけ将来州にお金が入るということに首を突っ込んでほしくないということが微妙に感じられました。

 サハリン州国家環境委員会という組織は州政府の所属ではなく、連邦の所属になっています。しかし、この組織は州政府と密着していまして、例えばこのプロジェクトを共同研究で進めて行こうとした場合に、サハリン州国家環境委員会独自の判断では進められません。大陸棚開発局の意見も聞かなければなりません。お金の出るところはまったく別ですけれども、業務についてはお互いがかなり連携をもっています。

全体会議について

 メドベージェフ報告ですが、彼はサハリン州行政府大陸棚開発局の資源保護部部長で、このセクションが環境のことを扱っています。彼は、開発の現状について報告をしております。我々が既に理解している内容ですので、あえてここで説明する必要はないと思います。ただ、ところどころで出てきている数字が日頃我々が得ている数字とずいぶん食い違っております。

 ここで、我々の研究プロジェクトとの関連から申しますと、2ページ目の線を引っぱっているところですが、実はこの全体会議で私の方から、開発環境の共同研究プロジェクトをこういう方向でやりたいというお話をさせていただきました。サハリン〜TおよびUプロジェクトは総額250億ドルが想定される投資プロジェクトですので、「それがもたらす環境あるいは生態系への影響をどのように評価するかということに向けて共同研究のプログラムを進めるという日本側の提案は重要な意味を持っております」と開発よりも環境重視型のプログラムに意義があるという見方を彼はしているのであります。また彼の報告の3ページ目、一番上にありますように、私ども、つまりサハリン州側としてはエコロジーに対する影響の方に重点を置きたい、と述べています。原油流出事故を未然に防ぐ方策というものを最重要視したいということがここに書かれております。その点については私たちも基本的には異存はない訳であります。3ページ目の下の部分、「共同研究の中で原油流出の防止、とりわけ氷海という条件の下で原油の輸送が行われるなかで、原油流出事故をどう防いでいくのかという研究がある種の優先度を与えられることを期待したいと思います」ということで、原油流出事故をどう防いだらいいかという問題に大きな関心があるということがうかがえます。最後4ページ目に、「したがっていろいろ重要な問題はあるけれども、共同研究のプログラムではもう少し中身を見直す必要があろうかと思います」と指摘しています。つまり、見直せということをいっているのであります。確かに、非常に範囲が広い、相手側と協同研究を行う場合には問題を絞り込んだ方が良いのではというのが私が受けた感触ですが、これについては私ども分担者の間で話し合いをしていきたいと思っております。いずれにしても、今回の全体会議に臨むにあたってプロトコールを私どもの方で用意していきましたけれども、結局結ばないということになりました。私どももプロトコールが持つ意味をそれ程重視してはいませんでしたので、それほどショックを受けたわけではございませんが、相手側にとって受け入れやすいプラン、我々にとっても受け入れやすい点、そういうものが一致した点で共同研究をやるという、当たり前のことですがそういう方向で今後進めていきたいと考えています。

 つぎに、サハリン州国家環境保護委員会の環境安全課、エコロジー安全課課長コスチェンコさんの報告ですが、若干説明をしながらお話をしたいと思います。「サハリン州国家環境保護委員会はサハリン大陸棚開発に関しまして、@水文・気象等の環境調査、A事故対策に対してどのようにかかわってきたか、Bモニタリングをどのように実施しているか、という視点から、26のフィールドワークを含む研究を行ってきました」と述べています。その26の内容につきましては、お手元の参考資料1をご覧になっていただきたいと思いますが、これが彼女の資料になっております。1990年から環境調査が、つまりプロジェクトがまだ立ち上がる前に始められて、97年までの作業が行この一覧から明らかになります。この資料を、ざっと見ていきますと、まず一番目は極東水文研究所、この研究所はサハリン開発プロジェクトの環境面ではあらゆる形で姿を見せているところで、私はこれは重要な組織ではないかと思っています。二番目は、いわゆるファウナ、フローラの問題です。三番目は、海洋投棄をするかしないかという問題ですが、これが環境問題では重要な争点になっていて、裁判沙汰にもなったことがあります。この問題についてはコスチェンコさんの報告にありますように、国としては禁止しているけれども実験的な投棄は認められるという結論になっています。その条件として、石油を掘削するときに摩擦を防ぐためにマッドを入れますが、通常いろいろな化学剤がはいってくるわけですが、水溶性のものを使うということが条件づけられていて、そのサンプルがフィンランドの衛生研究所で検査されてクリアしている、という報告がございました。四番目についても同じような掘削溶液の問題です。五番目は学術調査活動、環境変容調査の報告書が準備されています。六番目はウハ、これはウラル地方の都市ですが、ここでの掘削溶液はバルロイドという商品名がありますが、これの検査であります。七番目ですが、サハリン〜Vの開発地域になっておりますキリンスコエ鉱区の調査報告です。八番目には、二年ほど時間をかけたかなり大型の生態系の情報収集に関する報告書が出されています。九番目はサハリン〜Iで進められている、ダギ鉱区での調査です。十番目は、漁業海洋学面での調査です。十一番目は石油流出拡大のモデル化の問題です。十二番目はチャイウォ湾、これは開発地域の近くの湾ですが、ここでの鳥類の問題を扱っています。十三番目には、サハリン〜Uのフェーズ〜Tで開発が進められる予定のピリトゥン・アストフスコエに考古学的に重要なものがあるかどうかの調査です。十四番目は、サハリン〜Uのピリトゥン・アストフスコエの環境状況です。十五番目が、海鳥・水鳥のデータブック。十六番目はサハリンの海洋保護の水文気象条件。十七番目は両プロジェクトの海洋の様々な調査。十八番目が、アルクトゥン・ダギ鉱床のダギ鉱区でNo. 5、No. 6およびNo. 7という井戸が1996年から97年にかけて掘られていますが、ここで環境モニタリングを実施したということが書かれています。十九番目は追加的なデータ。二十番目は石油流出のモデル化ということを扱っています。二十一番目は、いわゆる掘削溶液の問題。二十二番目はピリトゥン・アストフスコエ鉱床とルンスコエ鉱床のバックグラウンド調査、とくに海洋資源の問題です。二十三番目は海洋資源の損害の評価。二十四番目は氷の条件、二十五番目はこの辺に生息するクジラの研究。二十六番目には海底パイプラインの設計。二十七番目には結氷期の氷の分析が扱われています。

 以上のような環境アセスメントの材料が出てきているわけですが、当然のことですが、開発に移行するに従って、その分野のものが多くなってきておりまして、特に1996年頃から海洋構造物の問題や海氷の問題が扱われるようになっております。

 環境面でどういった事をやっているかという点では、コスチェンコ氏の説明では、実際にボーリング段階でプラットフォームにインスペクターが乗り込んでチェックを行っているとのことです。それと同時にボーリング実施時には原油流出に対処できるように油回収船が張り付いており、開発側に対してプラットフォームで原油が流出した場合に油防除機資材を搭載することを義務づけている、ということです。

 油防除機資材がどこにどのような形で備え付けられているかという事ですが、これは質問の中にもありますが、資料のなかに「石油汚染への対処に関する有効な規制措置へ向けた準備体制を保障するための、設備・資材ストックの形成」ということで、四つの場所が書かれています。一つは、石油による海洋汚染除去サハリン管理局(サフバス)という組織で、ロシア連邦運輸省に所属する日本で言えば海上保安庁第一管区のような非常に重要な組織であります。この組織はコルサコフ港に配置され特殊船、フェンス、その他の機資材を装備しています。二番目のエクソン社が装備しているのはノグリキ、三番目の閉鎖型株式会社「ペトロサフ」はアメリカとの合併企業で年産20万トtもの石油製品を製造する小規模な精油所です。四番目のロスネフチ・サハリンモルネフチェガスが回収船やスキマーといったものを持っております。

 コスチェンコさんへの質問のなかで、まず第一は、サハリンの北の陸上で石油生産をしているわけですが、そういうところでは基準の200倍の汚染があるのに、なぜ大陸棚の開発ではそんなに厳しいのか、という質問がありましたが、そんな200倍の汚染があるところがあったら教えてくださいと、開き直った回答がありました。原油流出がないとは言わないけれど、あったらその場合は除去するように命じているし、モニタリングも行っているという回答でした。

 二番目には、船による回収設備は誰がどこで管理しているのか、ということにつきましては、コルサコフ港にある海洋汚染除去サハリン管理局(サフバス)がメインになる組織であります。しかしこれは連邦の組織でございまして、連邦からお金が出ている。ナホトカ号事故のときにロシアから回収船がきましたが、これはここの所属だそうです。1リットルの海水に15mg以上の油を含んでいると基準を超えるので、回収しなければならないということです。「ネフチ・サルベント」という商品名はピートモスと製糸工場の廃棄物をあわせて作った、SMNGの付属の研究所が開発したもので、自前の工場を持っていて製造をしております。回収船団はどこにあるのかということにつきましては、ボーリングの現場、ホルムスク港、コルサコフ港の三カ所にあるわけです。ホルムスク港からピリトゥン・アストフスコエ鉱床までが66時間、コルサコフ港からピリトゥン・アストフスコエ鉱床までが48時間、コルサコフ港からホルムスク港が18.1時間となっています。

 関連質問で、サハリン州は防除機資材を何も用意していないのかということに対しては、連邦の海洋汚染除去サハリン管理局にあるという回答でした。サハリン州自体は持っていないということでしょう。

 今後ボーリングの数が増えたらどうするのか、という質問がありましたが。明確な回答はありませんでした。以上の他に、株式会社「エコシェリフ」というのをつくっておりまして、ここは除去作業をコマーシャルベースで行うことになっております。 それから、除去作業の費用の面では、開発側がライセンス料を払っていますし、罰金が課せられてその資金を「環境基金」としてもっていて、その中の予算の5パーセントを緊急時の災害に当てているという説明がありました。ネフチェゴルスクの地震のときもそうでしたが、十分であるかどうかは別としまして、一応こういう形式をとっているということになります。一番大きいな額は開発側のかけている保険です。

 流出防止の対策につきましては、実際にモニタリングを行っているのはSMNGの子会社の「サハリンシェリフ」という会社がサハリン〜IもUも行っております。

 本格的な生産が始まったらどうするのかということですが、当然冬場も生産を始めるわけですが、モリクパックについての耐氷性の問題は、連邦レベルの国家技術検査局、ゴスストロイ、非常事態省の技術アセスを受けて、これをクリアしているという説明がございました。

環境保護派の開発批判

 開発に伴ってどんな問題をもっているのか、特に批判派の意見を整理してみると大体わかってきます。それを我々が受け入れるかということはまた別の問題でして、ここでは4つのレポートをとりあげています。このレポートがこういうことを問題を指摘しているという主な点をピックアップしてここに整理してあります。

 批判点を分析していく段階で印象として感じることは、大体どの組織も問題にしていることが共通しているということであります。科学的な分析という点からいうと何か物足りなさを感じてきます。

 ここで議論されているのはもっぱらサハリン〜Uのフェーズ〜Tでの環境面がテーマになっています。もちろんそれ以外に陸上部分での環境問題などいろいろありますけれど、今サハリンで一番ホットな環境問題というのは、我々が接触した限り感じるのは、やはりこれから述べる問題ではなかろうかと思います。

 批判文書としては4つをとりあげております。まず一つは「サハリン大陸棚の環境、社会、経済問題に関する社会会議」、こういった組織が今年の1月9日にサハリン州の中にできました。参加組織としては、環境NGO、あるいは「我が家ロシア」や共産党をはじめとするいくつかの政党、社会団体等の17の組織がこの社会会議をつくっております。ここで取り上げているのは、この組織が国家環境保護委員会サハリン〜Uフェーズ〜T国家環境影響評価専門委員会に向けに出したレターです。ここでいくつかの疑問点、問題点を指摘しているわけです。

 二番目に、「ピルトゥン・アストフ鉱床の環境保護に関する開発側の報告No.6に対するコメント」という形で、アラスカ大学フェアバンクスの先生のリック・ステイナー教授がコメントしています。この報告No.6というのが何なのかということですが、「サハリン〜Uプロジェクトの環境保護」No.9という開発側の報告書です。これに基づいて評価したものです。ステイナー教授はもともとは生物資源を専門にしている人物で、特に1989年のエクソン・バルディーズの流出事故の環境アセスをはじめとして、幅広く活躍している人です。

 三番目は、「1994年6月22日付けサハリン〜U開発計画の鑑定評価」というもので、ロシア連邦下院地政学問題に関する委員会コンサルタントでモスクワ大学法学部教授のメルコフという人物によるものです。このなかでは彼のコメントがもっとも過激で、これをまじめにとりあげていいものかという側面もありますが、一応どういう点を問題としているかという点を我々はスクリーンする必要があるだろうということでここでとりあげています。ただ、これが非常に多岐にわたっていますが、今年の8月5日、つまりこのなかでは一番新しい時点で彼の署名が入っていて、しかも我々のスタッフがNGOに会った時に複数の所からこのレポートを入手しております。ですから、言い換えると、サハリン州内でけっこう流布されているレポートではないかという印象を持っています。タイトルに1994年とありますが、1994年の生産分与協定に対する注文、ということです。

 四番目の「サハリン〜Uプロジェクトの環境の視点」というのは昨年の11月に36名が参加して円卓会議を行っておりまして、この円卓会議の決議文が出されて、これがサハリン〜Uの開発側のサハリン・エナジー社に提出されております。13の質問が出されております。

 ここに参加しているのはNGOや企業、マスコミであったり、研究機関であったり、政党の人間であったり、非常にまちまちです。このプロジェクトに関わりのある人たちがかなり参加していると見てもいいのではないかと思います。

 さて、まず一番目に全般的な問題ですけれども、このプロジェクト自身の契約方法が間違っているということが指摘されていますが、これは先ほど言いましたもっとも辛口の議会のコンサルタント・メルコフ教授です。特に、開発側は1995年から国内市場にガスを供給することを約束していたが、この義務を果たしていないじゃないか、こういう事を言っています。これが非難の対象になるとは思えませんが、強くこの事を意識しております。それから、環境政策というのがロシアの法律に矛盾していると指摘しています。彼は生産分与法に対して憎しみすらもっているのですが、ここで一つ落としていることは、開発側が当初37%の高い収益率を約束したにも関わらず、企業化調査のライセンスを取ってから開発費用を意図的に膨らませて、収益率を0.35%にまで落としてしまった。つまりPSCを結ぶと、いたずらにロシアが不利益を被る証拠であると言っています。

 二番目に、生産分与法(PSC)については、今のように、最貧国でも受けなかったような屈辱的な条件で結ばれているので、この契約は破棄すべきであると言っています。この生産物分与法については、ご承知のように、この法律ができる前にサハリン〜IおよびUはロシア側と結んでいるわけです。ですから、ロシア側の法律に整合性がもてないのには当然の部分があるわけでして、開発側は、我々は正規の手続きをとってきちんとやっていると釈明しています。

 三番目には会社の形態ですけれども、ご承知のようにサハリン・エナジーという会社は、バミューダの英国市民の名で本社を登録しておりますが、その資本金は一億ドルで、しかもそこに入っているマラソンとか三井物産、シェル、三菱商事といった会社はそれぞれ子会社を作って、しかもその本社はロシアにおかずにみんな日本とかオランダ、マラソンは英国の植民地ケイマン諸島、こういったところにおいているわけです。このようなパートナーを果たして信用できるのか、ロシアに本社を置かないことに対する不満が強く出ています。この部分については、他の批判文書にも見られますが。

 四番目には保険の問題ですが、先ほど申しました一億ドルという資本金の枠内でしか責任を負わない、この辺は私にはよくわかりませんが、例えばエクソン・バルディーズの場合には最終的に補償額は50億ドルになっている。サハリン・エナジーの場合にはあまりにも負担が少なすぎるのが問題であると述べています。これに対して、サハリン・エナジー側は、会社の方は当然リスクを最小化するために最新技術を投入してオペレーションの面で工夫し、努力していると反論しています。円卓会議で50億ドルを引き合いに出すような非現実的なユートピアな話はどこにもない、米国ですらこういうことは課していないと反論しております。実際に開発側が想定している保険額、責任の範囲は貯蔵タンカーで7億ドル、シャトルタンカーで8100万ドル、これは開発側がいっているから間違いないでしょうけれど、サハリン〜Uプロジェクトでは、まずこのモリクパックというプラットフォームが据え付けられて、そこから南に2キロの所にSALMという保留システムがあり、FSOと呼ばれる貯蔵タンカーが配置され、シャトルタンカーが州1度くらいの頻度で沖取りを行うことになります。パイプラインは海底に延長2キロ、深さは海底29〜35mに敷かれていて、口径は323ミリ、肉厚が12.7ミリ、耐用年数が30年に設計されております。輸送力が一日1200トン。このパイプラインを通じて生産された原油が流れてきて、SALMブイというところにジョイントするわけです。SALMというのはSingle Anchor Leg Mooring Systemの略称です。上部の方は貯蔵タンクに船をつないでいるわけですが、原油は管があってFSO、つまりFloating Storage and Off-loading Unitと呼ばれる貯蔵タンカーと積み出し設備をもっています。ここに輸出用の一船あたり8万から9万トンのシャトルタンカーが6日に1日ぐらいの頻度で、氷のない6ヶ月180日の間にここからどんどん外国に輸出をしていく。こういうふうなスキームになっているわけです。

 ここで批判する人たちが問題にしているのは、一体どういう輸送会社のどういう船を使っているのかまったくわからない、ということです。船の名前も、国籍も、住所もわからない。タンカーリスクの評価のためのデータを示せということです。しかもここで扱う石油はエクソン・バルディーズよりも3〜4倍大きい100万バレルを見込んでいる。被害の範囲も当然大きくなることが予想されるので、7億ドルとか8100万ドルというのはあまりにも小さすぎるということをみなさんこぞって言っております。

 次に、五番目の海洋設備ですが、ここでは構造物の強度の問題が指摘されております。特にモリクパックというのはサハリン北東部の厳しい気象条件で要求されている技術仕様に応えていない、と議会のコンサルタントは指摘しているわけです。それから、もう一つは地震に対する強さ。モリクパックは企業化調査ではロシアでいう震度8を限界に考えているけれども、ネフチェゴルスクのような地震があれば震度10を想定して作るべきであるということです。

 六番目にはタンカー輸送の点ですが、これは非常に危険だと指摘しています。開発側の意識は甘すぎるのではないかという指摘がこれらの批判文書からうかがえます。オホーツクの複雑で厳しい自然条件の下でタンカー輸送するなどということはそもそも考えない方が良い、というのはメルニコフ教授の意見ですが、これは海洋における原油流出事故でタンカーから漏れるものが一番多いというのは皆さんご承知のように西側のレポートで一番指摘されていることです。ここでも50%はそれだと言っていますが、他の資料だと36%になっています。もっとも危険な輸送方法を選択している。ましてやオホーツクというのは低温で強力なストームがあったり、あるいは地震の発生率が高かったり、津波や霧による視界不良、複雑な氷の状況、海流、こういった厳しい海象条件のもとなのでなおさらであるということです。貯蔵タンカーやシャトルタンカーというのは、極めて困難な、流出の可能性を非常に強くもった状況にさらされているというふうに指摘しているわけです。これに対して、サハリン・エナジー側は、具体的に答えているわけではないですが、オフショア開発というのは今までやっているところの経験から行っているので、当然リスクは回避できる、と答えています。しかもこの地域の唯一の輸送手段は海であると言っています。

 七番目にはライセンス供与の問題ですが、この点では漁業委員会の同意をとりつけていない、という指摘があります。関連の法律を無視しているということであるわけです。特に議会のコンサルタントはこんなライセンスは破棄されるべきだ主張しています。

 八番目に環境問題ですが、ここで特に強調されているのは海洋生物資源への影響に対して、あまりはっきりやってない。それから海洋投棄がけしからん、ということです。プロジェクトの環境保護への影響に関する文書準備およびこれら文書によってあらゆる必要な公的手続きの進行の部分でサハリン・エナジー社は環境法のロシア側基準を守っていない、と円卓会議が指摘しているのに対して、サハリン・エナジー側は、我々はロシアの専門家・官僚とこの問題では密接に一緒になってやってきて、かなりの労働力と金を使っているのだと述べています。環境影響評価が2度行われているわけですが、サハリン〜Uプロジェクトに対して、サハリン・エナジー社の話は矛盾しているんだという指摘に対して、2つの評価を行っていて矛盾はしていない、公聴会で修正が要求され、それに沿って修正され、法律には決して矛盾していないと言っています。海洋投棄については、環境に最も悪い方法の選択というのは、なぜロシアの法律で禁止されているのに実施されているのか、非常に奇妙だと言われていますが、これに対してサハリン・エナジー側は海洋投棄が環境に影響を与えないということを証明してきたと、むしろ他の選択よりもこれの方がいいということを言っています。

 次に、流出原油に対する対応がどう準備されているのかという点は、あまりやられていないという指摘があるわけですが、ひとつには化学剤の使用の問題、これがいいのか悪いのかということですが、ナホトカ号であれ、他の例でも、これを選択するかどうか時間との戦いの中で厳しい選択を迫られるわけですが、こういうことを全然検討していないということと、もっているオイルフェンスやスキーマだけでは不十分である。それから実際に流出した油を集めてどこでどうやって処理をするのかがない。開発側と政府がこの問題でどう関係してくるのかはっきりしていない、というような指摘があります。コスチェンコさんの話の中で、岸までたどりついてしまったらおしまい、つまりそこまで来るまでに処理しないとだめだと言っていまして、特にサハリンでは海岸沿いは沼地や湖沼が多い、そのために人間が現場にたどり着けない。そうなるとヘリコプターで行くしかないけれど、それでは人数が限られてしまう。だから、岸辺にたどり着く前に処理をすることを前提にして油を吸着することが考えられているんだという説明がございます。

 最後に社会問題の点では一言で言うと世論への配慮がないということを言っていますが、ここはお互いの主張をしているわけで、開発側は当然我々はそれなりの努力をしていると言っていますが、これに対して、いやそんなことはない、という水掛け論になっています。

 以上が、批判側が問題としている点ですが、繰り返しますがこれはサハリン〜UのフェーズTでの開発が来年から始まるという現実を前にして、去年あたりから特にこの問題に関心が集まって議論が展開されている、ということであります。こういうレポートだけを読んでも、どの程度科学的な分析がされているのかという点では疑問の余地があるわけです。先ほどの、開発側が出しているレポートというのもかなりボリュームがあるけれどもこれをつくっているコンサルタント会社のようなものが当然あるわけですね。特にここにメンションされているのは、先ほど私が言いました極東水文気象研究所というところがかなりこのレポートにかかわっています。

 以上が私の報告ですが、問題はそれぞれがここにとどまっていては何の進歩もないのですが、一つには今後、私ども分担者にはそれぞれの分野での専門家がいらっしゃいますので、その専門的な立場から、もうちょっと資料に裏付けられたもの、資料をなるべく集める努力をしてそれに対して分析をしていただく、ということになろうかと思います。26の文書というのはサハリン州の環境委員会が自分の所でやったのではなくていろいろな所がやっていて、それの提出を求めているわけですね。ですから彼女の所にある分けですので、その部分でどうしても必要なものについて入手する努力をしなければいけないと思います。もう一つは、我々の一番大きな関心事はやはり北海道への影響ということを考えていきますと、海洋の構造物というと危険だらけという印象を受けるわけですが、本当にそういう理解で良いのか、あるいは先ほどのこのレポートにはもうちょっといろいろと詳しく書いてありますので、この辺を、分担者の北川先生に解明していただいて、我々の関心をより高めていくということにしたいと思います。


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