新学術領域研究第5回国際シンポジウム
「同盟と境界:地域大国を規定するもの」開催される

ウ ルフ ディビッド (SRC)

 2011年7月7日から8日にかけて,スラブ研究センターで夏期シンポジウム『同盟と 境界:地域大国を規定するもの』が開かれました。新学術領域研究「ユーラシア地域大国の比較研究」(田畑伸一郎代表)第1班(国際関係班)の主催,グロー バルCOEプログラム「境界研究の拠点形成:スラブ・ユーラシアと世界」(岩下明裕代表),および科研費基盤研究A「北東アジアの冷戦:新しい資料と展 望」(デイヴィッド・ウルフ代表)の共催による今回のシンポジウムには,海外から多くの研究者が集まり,合わせて日米安保60周年と,ソ連崩壊20周年を 記念して行われました。今回のシンポジウムで最も重要な意味を持つ試みとしては,アジアの冷戦における同盟と境界の諸問題を明確に位置付けること,現代 ヨーロッパの再編に関わる出来事を検証することが挙げられます。

 これまで,ヨーロッパとアジアをめぐって二つの超大国が競い合うという構図が,冷戦を 捉 える上でお定まりの基準となっていましたが,現実はそのように単純な幾何学的構図で捉えられるものではなく,より複雑に絡み合っていました。まさに合意が 結ばれる過程そのもののなかに,将来不和の生じる要因が含まれていることもあったからです。例えば1950年に結ばれた中ソ協定の機密条項は,スターリン やその他の「新しい皇帝たち」に対する毛沢東の態度を硬直化させました。さらにその後,日米同盟の取引と,安全保障上の基地をめぐって内密の取り交わしが なされたことは,「マッカーサー憲法」の関連条項とともに,日本が再軍備にかかる出費を回避することを可能にしましたが,アメリカは後でこのことについて 不平を言うようになりました。中ソ関係の場合も,日米関係の場合もともに,安保条約にともなう経済的効果への期待が,長年にわたる非難の応酬を招くことに もなりました。あとから考えてみると,取引の核となる部分に意図的に残された様々な不均衡が,時代を越えてそれと認められる不平等を生みだし,同盟関係の 破綻を招いたのは明らかです。

 また同じく重要なのは,ほとんどの場合,同盟関係は敵対する勢力に対して目に見えない 三 角関係を作りながら結ばれるものだったということです。そのため,同盟関係にある国のどちらか一方の変化は,たとえ敵との緊張を和らげる望ましいもので あったとしても,「抜け駆けの和合」という裏切りの恐れをもたらすものでした。日本の議員が1950年代に中国を訪問したことに対してアメリカが反応し, 1970年代に米中の国交正常化にいたったことは,こうした点から分析されなければなりません。

 国境もまた,しばしば厄介な問題となります。冷戦によってあらゆる戦闘に歯止めがかか る とともに,パルチザン戦,秘密作戦,「パブリック・ディプロマシー」など,クラウゼヴィッツの古典的な公式で言うなら別の意味で真の政治をなすところの様 々な「小戦争」とならんで,国境をめぐる小競り合いが起きるようになりました。世界最長の中ソ国境は,友好的に機能する時期もありましたが,より永続的に は両国を分かつ深い溝となりました。比較的流血沙汰になることの少ない国境をめぐる小競り合いは,しばしば壊れやすい同盟関係の裏に潜んだ三角関係を明る みにします。1959年と1962年に起こった中印衝突は,間もなくして中ソ同盟が崩壊する要因となり,ネルーの抱いていた非連携,「非同盟」の道筋を弱 めることになりました。1969年にウスリー川流域と新疆ウイグル自治区で起こった中ソ国境紛争は,一つの同盟が終わって別の同盟が始まることについて, 中国がアメリカに知らせる明らかな合図でした。

 国境と同盟に関する難問の数々においては,ヨシフ・スターリンから鄧小平,リチャー ド・ ニクソンから中曽根康弘にいたるまで,私たちの時代における様々な政治家によって,地域の覇権を築いたり妨害したりするなかで,影響力が行使されてきまし た。その戦略や計画はしばしば期待とは異なる結果を招いたものの,基本的な輪郭は維持されたままで,同盟国は過去から持ち越された共通の利益や共有される 将来の不安によって結びつけられています。国境と同盟に関する問題は,まさに地域大国がそれによって成り立っている要素なのです。これらのことが札幌の白 熱した二日間で報告され,議論されました。シンポジウムで報告された内容は,グローバルCOEプログラムの発行する雑誌『Eurasian Border Review』の特集号として刊行される予定です。


  関連リンク:シ ンポジウム プログラム


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