ITP International Training Program



ASEEES大会参加記

斎藤 祥平

(北海道大学文学研究科博士後期課程)



 第43回Association for Slavic, East European, & Eurasian Studies大会は2011年11月17日から20日にかけ、ワシントンD.C.で開催された。


 8月に参加した第3回スラブ・ユーラシア東アジアとは異なり、ネイティブスピーカーが圧倒的に多く、大規模な大会であった。そのこともあって、自分の報告そのものは成功したとは言い難かった。しかし、現地の研究者によるパネルやより自由な議論が可能な「ラウンドテーブル」での新たな議論を生み出そうとする雰囲気に刺激を受けるとともに、参加後に考えさせられることも多く、個人的には得るものが大きい学会であったと言える。以下の三つの項目について、述べてみたい。


①パネルおよびペーパーのタイトルについて
 報告の目的は、できるだけ多くの人に来ていただき、コメントをもらい、次の仕事につなげることである。桜間さんの体験記[→click]にもあるように、その意味でパネルやペーパーのタイトルで人を惹きつけることができるかどうかは重要である。傾向として、著名な研究者のパネルには多くの聴衆が集まっており、平日の午前中や食事の時間帯、最終日、人気のあるパネルと同じ時間帯などは人が集まりにくいというプログラムの問題もあるが、これらは運などの要素にも左右されるため、タイトルに思考を凝らすというのが個人で可能な解決法の一つだろう。とはいえ、運営委員会の側も人が集まりそうなパネルは重ならないようにプログラミングを行う、ということも考えられるので、究極的には委員会を惹きつける様なタイトルを考え、大会全体のテーマと整合性をもったプロポーザルを書き、パネルのメンバーに現地の研究者を招くことが不可欠であると感じた。もちろん、ネイティブではない人間にとっては英語の練習も重要であり、報告内容そのものが良くなければ意味がないのだが、大会参加の応募までの準備が勝負であり、大会への参加を効果的にするためには欠かせない作業であると分かった。 


②パネル作りについて
 上述の理由から個人のペーパーの準備だけでなく、パネル作りに力を入れることは非常に重要である。David Schimmelpenninck Van der Oye教授(Brock University)、 Barbara Allen教授(La Salle University)、 Karen Weberさん(New York University)といった方々を集めてくださったオーガナイザーの麻田雅文さん(日本学術振興会研究員、首都大学東京)、また、Barbara Allen教授を紹介してくださった瀧口順也研究員(北海道大学スラブ研究センター)に心から感謝したい。仮に当日聴衆が集まらなかった場合でも、パネルのメンバーの研究者から有益なコメントをいただけることは大きい。東アジア学会でパネルを組織した際にも感じたが、特に筆者のような経験の浅い者にとってはこうした一つ一つの出会いが非常に有り難い。


③海外の研究と自分の研究の位置づけについて
 一般化はできないが、アメリカの研究は新しいトレンドを作り出す創造性、議論の明確さなど優れた点が多い。ハード面においても、アメリカの図書館はよく整備されている上に、貴重な一次史料を多く所蔵していて作業効率はかなり良いのではないかと察する。しかし一方でそれを相対化していく必要性も感じる。日本人である筆者がアメリカで学会報告をしたからといって、感化されてアメリカ人の研究の真似をしても意味がない。学ぶべき点を吸収し、チャレンジしていくことは重要であるが、一歩引いて分析し、整理するという作業は不可欠である。例えば、これも一般化できないが、ドイツやロシア、中国、日本の研究の方が議論は緻密であると感じることも多い。また、アメリカの研究者の目が届きにくいドイツやチェコに彼らが手を付けていない研究や史料が存在することも確かである。トルベツコイではないが、アメリカを「スタンダード」にするのではなく、アメリカとヨーロッパの狭間で自問自答し、アジアの研究者と連携をとりながら研究を進めていくというのも一つの道である。それぞれの研究の傾向、特徴を把握し、自分の立ち位置を意識しながら研究の質を高めていく他ない。こういったことを考える契機を得られたことに感謝したい。



 ASEEESはもちろんアメリカ人のための学会なのだが、アメリカ以外ではドイツの研究者の参加が目立った。彼らが大西洋を渡ってアメリカで学会発表をする目的はその影響力の大きさにある。おそらく、ASEEESのプログラムは世界中のスラブ・ロシア研究者が目を通すのではないか。筆者は会議の数日前にドイツの研究者から「プログラムを見たのでペーパーを送って欲しい」とのメールを受け取った。少し躊躇したが、送ってみると「反西欧思想」を特集する雑誌の編集者で、論文投稿の話をいただいた。こういった影響力の大きさを考えると、苦労してでも参加する価値はある学会であると言える。また、先に述べたようにペーパーのタイトル等はやはり重要であるということが分かる。
 かなり蛇足であるが、筆者は留学先のチェコからの参加だったので、帰りの飛行機にて別のドイツ人の教授と一緒になり話をさせていただいた。実は行きの飛行機でも彼は筆者の後ろの席であり、彼とは同じパネルに参加していたものの会議中は話をできなかった。帰りの空港のロビーでも一緒だったので筆者は何かあるのではないか、話し掛けたほうがいいのではないかと思った。話し掛けてみると、彼も筆者のことに気づいてくれており、再び現れてくれてありがとうと言われた。話をしてみるとやはりロシア思想史家であった。本来ならば、会議中に知り合っておくべきである。国際会議では勇気を振り絞って積極的に色んな人に話し掛けてみることを勧める。

[Update 12.01.19]




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