ITP International Training Program



日露青年交流フェローシップの選考について

高橋 沙奈美

(北海道大学大学院文学研究科博士課程3年)



 2005年度以降、募集が途絶えていた日露青年交流フェローシップが、「日露青年交流センター」の事業としてこのたび再開された。今年に入ってから活発化した日露の政府間交渉の中で、ロシア側から若手研究者の交換を要請する声が上がり、今回の募集再開の運びとなったらしい。



左端・下が筆者

 今回の募集枠は10名前後と大きなものであったため、応募者にとっては大きなチャンスであった。3ヶ月から12ヶ月の枠内で、ロシア国内での調査が可能というもので、月々30万の滞在費、往復の航空券と旅行保険、それに加えて申請すれば、10万円を上限として研究費が保障される、かなり厚遇なフェローシップといえる。また本フェローシップの特徴として、4月末日までに書類提出、5月後半には書類審査合格者の面接、その週のうちには最終合格者が発表され、6月からロシア渡航が可能になるという、極めて迅速な審査もあげられる。


 全体の応募者数がどの程度であったのかは公表されていないため不明だが、書類審査を通過した者を対象とした選考会には、11名が参加した。試験・面接は2つのグループに分けられ、最初のグループが筆記試験を受けている間、もう一方のグループは個人面談を順番に受けるというやり方であった。筆記試験は小論文。ロシアに関係する問いを含めた3題が出され、そこから1つを選択して回答するものであった。ロシアの政情、歴史、文化、および日露関係に関する基本的な知識があれば、3つのうちのいずれかには答えられるだろう、というのが筆者の印象である。


 面接は20分の予定であったが、実際のところ大半の面接者が15分程度で終わった。面接官は3名。いずれも在外公館での勤務経験があるベテランの外交官だと聞いた。実地で養われた彼らのロシアに関する知識やロシア語能力は高い。そのほかに、「日露青年交流センター」からの事務官が2名臨席した。


 今年から、面接にロシア語あるいは英語の口頭試験が導入されたが、これは用意されたロシア語か英語の文章いずれかを選択し、音読したのち、書かれている内容を説明するというものである。流暢な音読を心掛けようとする意識と緊張もあって、要約はなかなかうまくいかないが、時間は十分に与えられているので、説明の前に落ち着いてもう一度読み込むことができれば、それなりに答えられるのではないだろうか。文章レベルは新聞記事程度だと感じた。


 なお、面接では、筆者の場合、他の奨学金について最も熱心に聞かれた印象がある。本フェローシップは他の奨学金との併用は不可能で、申請書に記載した研究目的や渡航期間について、大幅な変更は不可能である。この点を、募集要項に詳細に書いていてくれるとよかったのだが、今回はそのような説明がなかった。4月から受けられる他の奨学金にも募集していて、かつ本フェローシップの受給期間を2009年12月—2010年12月で申請した筆者の場合、本フェローシップを2009年4月までの3ヶ月間のみ受給することは不可能である。そのため、もう一つの結果が分かり次第、どちらかを選ばなくてはならないということになる。このことを知っていたならば、ほかの期間で申請したのに…という悔しさと、こういったフェローシップの問題に対する自分の知識の少なさへの後悔が残った。今後応募される諸氏におかれては、ぜひご留意いただきたい。


 研究のテーマに関しては、面接官は専門的なことを知っているわけではない。他の試験者の話を総合して考えると、質問されるのはテーマ設定の理由や、テーマのアクチュアリティ、テーマに関連した周辺事項など、面接官の興味の赴くままに聞いてくる印象を受けた。


 面接の結果、9名の合格者が選ばれたが、うちスラブ研究センターからは3名を出す快挙となった。また全体の合格者のうち5名が博士後期課程の学生であった。専門分野は幅広いが、人文系科学を多く採用しており、働き口のない我々にとっての恵みの雨となった。スラブ研究センターからは、7月に博士課程の麻田雅文氏が、12月に非常勤研究員の前田しほ氏と博士課程の高橋沙奈美が現地に赴く予定である。


 フェローシップの期間は、研究に専念できるという意味でも、我々にとって大変貴重である。これまで応援してくださった、センターの先生方、諸兄の期待に応えるべく、充実した調査を行い、帰国後はスラブ・ユーラシア研究の一層の発展と飛躍に貢献する若い力となりたい。

[Update 09.06.26]




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