ITP International Training Program



オックスフォードでのワークショップ「Immigration and National Identity in British History-Europe, Empire and Commonwealth」を組織して


溝上 宏美

(第2期ITPフェロー、オックスフォード大学 聖アントニー校ロシア・ユーラシア研究センターに派遣中)[→プロフィール




 去る2010年1月18日、ITP事業の一環として、オックスフォード大学セントアントニーズカレッジにて、Immigration and National Identity in British History-Europe, Empire and Commonwealthと題してワークショップを開催した。会議の詳細については、会議プログラムをご参照いただきたい→プログラム。当日は、所属するセントアントニーズカレッジだけでなく、オックスフォード大学に属する様々なカレッジから25名ほどの方にご参加いただいた。反省点も多いものの、イギリスで自ら会議を企画し無事開催にまでこぎつけたことは私にとって大きな自信となった。今回の会議は前任者である乗松、平松両氏をはじめ、多くの人々のご支援なくしては実現しなかったものであり、未だ不自由な英語で冷や汗をかきながら右往左往する私を蔭ながら支えてくださった方々にこの場を借りて心から感謝申し上げたい。このような貴重な機会をいただいたことに対する感謝の意味も込めて、以下に会議開催までの経緯などを報告する。今後の参考にしていただければ幸いである。




ワークショップの様子

 オックスフォードで会議を組織することはITP派遣にあたっての義務であったが、正直にいえば、イギリスで一から人脈をつくっていかなければならないこともあって、渡英当初はプレッシャーに感じていた。私が渡英した6月末は、ちょうど夏季休暇に入るころで、カレッジにも人が少なく、人脈を築くにはあまりいい時期とはいえなかった。結果的には、学期が始まった10月以降、セミナーなどに参加する中で十分に人間関係をつくっていくことができたので心配をする必要はなかったのだが、渡英直後は焦りを感じていた。夏季休暇中はオフィスを離れ、徹底して休む、あるいは長期の調査にでかけるといったこちら研究者のスタイルは頭では理解していたものの、それを本当に認識し落ち着きを取り戻すまで1カ月ほどかかったように思う。もちろんこの期間は全く無駄ではなく、今回の会議でチェアを引き受けていただいた方のお一人は、この最初の期間にカレッジの食堂でお会いし、拙い英語で研究などについてお話をした方であった。また、6月末から7月の初めにかけての時期と9月下旬はこちらでは学会シーズンでもあり、幸いにもこの時期に行われる学会やワークショップにいくつか参加することができ、研究面で刺激を受けただけでなく、日本とは異なる点も多いこちらの会議開催の流れを見る機会も十分に得ることができた。会議組織が念頭にあったがゆえに、単なる参加者としてではなく、組織する側として、こちらの会議組織者のやり方に最初から注意をして学ぶ姿勢がとれたことは、非常によかったと思う。細かいことであるが、参加者へ送るメールの文面などは、実際に自分がこれらの会議組織者から受け取ったメールを参考にさせていただいた。


 このような「事前準備」を経て、具体的に企画に動き出したのは9月末であった。インフォーマル・アドバイザーのJohannes-Dieter Steinert教授には、論文の投稿についてだけでなく、ワークショップの開催についても、Call for Papersのやり方から懇切丁寧に教えていただいた。当初、会議は2010年2月に開催するつもりであったが、2月開催であっても、こちらの通常のやり方に従ってCall for Papersをかけるのであれば、すぐにも動かなければ時間的に厳しい状況であった。ゲストスピーカーとして是非お話を伺いたいと考えていたお二人の研究者とすぐに連絡がとれて(こちらの研究者はホームページでメールアドレスを公開していることが多い)、双方からすんなりとご報告の快諾をいただいたことは幸運であった。


 二人のゲストスピーカーのご都合を伺って日程をすり合わせた結果、予定より早まり1月18日の開催となった。当初、私は日本での研究会開催の経験から土曜日開催を考えて打診したが、反応が鈍く、お二人とのやり取りやカレッジの院生などとの話の中で、どうやらこちらでは平日開催が一般的であるということに気付き、月曜日開催となった。開催曜日は、日英の習慣の違いに戸惑ったことの一つである。1月18日という日付については、ちょうど学期が始まる日で学生も先生方も戻ってきており、人を集めるにはちょうど良い日程と(結果的に)なったと思う。


 お二人のゲストスピーカーを確保した時点では、会議プログラムについてぼんやりと開会・閉会時間と各報告・質疑応答時間は決めていたものの、他にどれほど報告者を集めることができるか不安(結果的には杞憂に終わった)もあり、プログラムをきちんと組めていなかった。そのため、最終的にセッション1に2名、セッション2は途中ランチを挟んで3名、セッション3で1名報告というバランスの悪い構成となってしまった。Call for Papersをかければ報告者は集まるということがわかっていれば、会議終了を18時にしてもう一人報告者を増やすなどして、最初からもう少しバランスのよいプログラムを組むことができたと思う。結局は、アブストラクトが面白かったにも関わらず、あまり深く考えず、また、最初から守りに入ってしまって、10時から17時、一人当たり報告・質疑応答合わせて45分という枠を中途半端にはめてしまったために、時間的余裕がなくお断りをしなければならなかった応募者がいたことは非常に残念であった。


 一般の報告者をどのように募るかについては、かなり悩んだ。報告者を集めるには、関連する研究者に直接連絡を取り報告をお願いするという形もあり、実はぎりぎりまでこの方法も考えていたのであるが、結果的には、報告の幅が広がったこと、これから活躍する若手研究者とも知り合いになれたことから、Call for Papersをかけて広く報告者を募ってよかったと思う。一般にCall for Papersをかける場合、募集を出してからアブストラクトの締め切りまでの期間を最低2カ月はとり、会議開催の2カ月前ぐらいに審査結果を通知するというタイムスケジュールで行うようである。実際、大学のあちらこちらに掲示されているものを見ても、半年以上前から募集を行っているものも多い。その中で、私が最終的にCall for Papersをかけたのは10月の半ば、1カ月後の11月半ばで募集を締め切り11月末に報告者を決定するという、かなり急なタイムスケジュールとなってしまった。H-netという人文・社会科学系の研究者のウェブサイトに情報を流すとともに(欧米の各大学のメーリングリストに情報が流れる)、参加していた歴史系のセミナーで案内を配布したり、カレッジの食堂であった院生や以前出席したワークショップの組織者などに宣伝を依頼したりするなどして、幅広く宣伝をすることに努めた。そのためか、3名の募集枠に11名から応募があり、多くの人にお断りをする結果になってしまった。予算が限られているため、どうしてもアメリカなど遠方からの応募については断らざるをえなかったのであるが、実際には何らかの研究費を応募者が持っている場合もあるので、一概に距離のみでお断りする必要はなかったのかもしれない。今回アメリカからお招きした報告者1名については、アブストラクトの内容とともに別に研究費を持っていて英米間についてはこちらが出す必要はないことを明記してきたことも決め手になったのだが、他の応募者についても後から別のファンドから渡航費は出せると言ってきたという例があった。


 報告者が全員決定したあと、今度は会議へ参加を呼び掛けたのであるが、こちらは12月の第一週目で大体授業が終わってクリスマス休暇に入るため、ワークショップの案内を周知させるのに必要な期間を考えると、11月末の報告者決定はぎりぎりのタイミングであったと思う。報告者を決定してから急いでプログラムを作成し、学期最終のセミナーで配布したり、間に合わなかったセミナーについては組織者にメーリングリストで案内を回していただくよう依頼したりした。カレッジで知り合いになった人の中には、自ら所属する研究会などのメーリングリストで案内を回してくれた人もいて、多くの人の助けで、会議当日までに報告者を除いても20名弱の参加登録を得ることができた。


 セントアントニーズのスラブ・ユーラシアセンター事務のリチャードさんにも、プログラムの書体や案内文の英文などをチェックしていただき、2度も案内メールを流していただくなど非常にお世話になった。心配していた報告者のペーパーも締め切りの1月13日にほぼ集まり、無事18日に会議開催にこぎつけることができた。


 会議当日も、セントアントニーズのスタッフの方々や、前任者の乗松・平松両氏、当日参加してくださった先生方の助けを得て、混乱もなく予定通りスムーズに議事を進めることができた。面白い議論になった際にも英語力が追い付かず忸怩たる思いもしたが、参加者の方々は拙い英語で何とか議事を進行する組織者を支え、積極的にコメントや質問を出して議論を盛り上げてくださった。この場を借りて感謝申し上げたい。


 当初、会議の組織は義務であった。しかし、会議を準備するなかで、自分でやりたいように企画組織できることの面白さ、日本では名前を目にするだけだったこちらの第一線の研究者とのつながりをつくる機会を与えられたことの有難さを痛感するようになった。何より、会議開催に関連して、こちらの研究者と積極的に交流することになったことは思わぬ副産物であった。もちろん会議の組織がなくても、セミナーや学会に参加したことに変わりはないし、人間関係もできたであろう。しかし、Call for Papersや会議の参加登録などの呼び掛けの過程で、必要に迫られ、嫌でもこちらの院生や研究員の方に自分から話しかけざるをえない状況になったことは結果的には非常によかったと思う。知り合いになったこちらの院生の中には、自ら資金獲得に走り回り、部分的には自腹を切って会議を開催する人もいた。そのようななか、私のような若手に貴重な機会を下さったITPプログラムの関係者の方々には、改めて深くお礼を申し上げたい。





One–day Conference “Immigration and National Identity in British History – Europe, Empire and Commonwealth”
  Monday 18th January 2010, 10:00-17:00
Dahrendorf Room, St. Antony’s College
Sponsored by the Slavic Research Center, Hokkaido University in Japan, with the cooperation of St. Antony’s College

10:00-10:10 Opening remarks
Session 1   British Identity outside the UK (Chair: James Pitsula, St. Antony’s College)
10:10-10:55 Indian princes and ideas of “Britishness”: the influence of education and aesthetics on creating hybrid colonial identities , Angma Jhala (Bentley University, USA)
10:55-11:40 “Democracy was never intended for degenerates”: eugenics, race and manhood civilization in Canada prior to World War II, Lukasz Albanski (Jagiellonian University, Poland)
11:40-12:00 Tea Break
Session 2   Immigration and National Identity in the UK (Chair: Alana Harris, Lincoln College)
12:00-12:45 Home, colonial and foreign: Europe, empire and the history of migration in 20th-century Britain, Wendy Webster (University of Central Lancashire)
12:45-14:00 Lunch (Hall, St. Antony’s College)
(Session 2 continued)
14:00-14:45 Home and national identity: the role of women’s groups in resettling foreign workers during the Attlee years, Hiromi Mizokami (St. Antony’s College)
14:45-15:30 Social movements, “race” and Britishness in the “long 1960s’’, Jodi Burkett (University of Sheffield)
15:30-15:50 Tea Break
Session 3   Present situation surrounding immigrants to the UK (Chair: Wendy Webster)
15:50-16:35 From Poland to the UK: changing experiences of migration and settlement, Kathy Burrell (De Montfort University)
16:35-16:50 General Discussion
16:50-17:00 Closing Remarks
(Update:2010.01.22)





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