ITP International Training Program



ジョージワシントン大学で2回の研究集会 “China and Russia”, “Two Helsinkis” を組織して


任 哲

(第2期ITPフェロー、ジョージ・ワシントン大学欧・露・ユーラシア研究所に派遣中)[→プロフィール




 ITP事業の一環として、2010年2月18日と2月23日に2回の研究集会を開催した。第一回目のテーマは「China and Russia: A Comparative Perspective of Local Government」で、松里公孝教授(スラブ研究センター)と私がそれぞれロシアと中国の視点からの報告を行い、司会はジョージワシントン大学・欧・露・ユーラシア研究所(IERES)のディレクターであるHenry Hale教授が務めた。第二回目のテーマは「Two Helsinkis: The U.S-Helsinki Commission and the Helsinki Process (CSCE Process) in the Cold War」で、宮脇昇教授(立命館大学、ジョージワシントン大学訪問研究員)が報告され、司会は同じくHenry Hale教授が務めた。



  -イベントまでの経緯-

 まずは、2回の研究集会に至るまでの経緯について簡単に説明しよう。私はITPの再募集で採用されたので、出発時間が同期の二人より大幅に遅れ、欧・露・ユーラシア研究所のドアをノックしたのは10月1日のことであった。イベント開催の連絡が入ったのは12月であり、会計締め切りを考えると時間的な余裕はそれほどなかった。準備期間が短いため、ワークショップ形式を諦め、一パネル(報告者二人)だけの小規模な研究集会にすることにした。一番悩ましいことはテーマの選択であった。中国研究出身である私にとって「欧・露・ユーラシア研究」まったく新しい分野で、人脈も限られているので、選択の余地がそれほどない。いろいろ調整した結果、第一回目を「中国とロシアの比較研究」、第二回目を「冷戦期におけるアメリカ外交」で決着がついたが、報告予定者の一人が急用で報告を辞退することになり、第二回目は報告者一人だけになる少し残念な結果となった。
 集会はスラブ研究センターとIERESの共催で行われた。両研究所ともこのイベントをとても重視しており、両サイドから強力なサポートがあることで、事務的な作業(会場予約、ポスター、外部宣伝、経理業務など)はとても順調に進んだ。但し、「Man Proposes, God Disposes」と言われるように、2月中旬にアメリカ東部地域を襲った記録的な大雪の影響で、イベントの日程変更を余儀なくされ、2月11日に予定した集会は23日にずらして行われた。



 -イベントの内容-

 第一回目:China and Russia: A Comparative Perspective of Local Government



松里教授(右から二人目)報告の様子

 松里報告は、中ソ比較のフレームワークを提示した上、Regional GovernmentよりLocal Governmentを研究する意義を強調した。そして、地域規模、人口、エリート等の要素を取り上げ、ロシアにおけるローカルガバナンスの歴史的変遷を分析し、社会主義時代に残された伝統要素が重要な役割を果たしている結論を導いた。
 任報告は、中国政治における地方政府とりわけ県レベルに焦点を当てる必要性を強調した上、市場経済の中で地方政府がどのような役割を果たしているのかについて分析を行った。報告は土地問題に分析の重点を置き、各地で行った調査研究を事例に取り上げながら議論を展開し、地方政府が果たす役割は「地主兼調停者」であることを強調した。


 第二回目:Two Helsinkis: The U.S-Helsinki Commission and the Helsinki Process (CSCE Process) in the Cold War



宮脇教授報告の様子

 宮脇報告は、国際関係理論における「ブーメラン効果」を検証するもので、事例としてCSCE(欧州安保協力会議)のプロセスを取り上げた。報告では、ヘルシンキ委員会がヘルシンキ宣言の有効性を高めるために、NGOやエスニック・ロビーと協力して東側諸国に圧力をかけ、「ブーメラン効果」の発揮を成功せしめたことが紹介された。フォード政権下でこそ、委員会と政権との間の摩擦は大きかったものの、カーター政権、およびレーガン政権において委員会と政権との関係は良好であり、委員会が果たした役割は大きかったと報告者は主張した。



 -成果と問題点-

 研究集会はLuncheonの形式で行われ、毎回25人程度の聴衆が参加し、熱い議論が展開された。参加者は現職及び退職したファカルティ、学部生、大学院生だけではなく、実務に携わっている各国の官僚も多くみられ、日本では考えられない光景であった。私は中央アジアから来た官僚から中国語で質問され、中国語で答える不思議な体験をしたし、宮脇教授の報告会には、ヘルシンキ委員会の役人が来場し、80年代の出来事を思い出しながら、コメントする光景がとても印象に残った。これは政治中心であるワシントンDCで研究集会を行う醍醐味かもしれない。
 研究集会を通じて感じた問題点も少なくないが、ここでは二つの問題だけ取り上げたい。まずは研究内容のことである。私は「比較研究」を目指して、このプログラムに応募したが、いまだに真の比較研究には至っていない。渡米してからは主に語学と理論勉強に時間を使っており、「比較研究の興奮点」が見つからず茫然とした状態であった。しかし、今回の研究集会において、中国研究以外の専門家と交流する過程で面白い問題点をたくさん見つけることができた。今後の研究ではこの「興奮点」を押さえながら進めるべきであろう。次は「言語の壁」である。これはITP事業で派遣された皆が痛感する問題でもある。私にとって、英語は四番目の言葉であり、中高で習った人のように基礎がしっかりできていない。さらに学術発表になるともっと大きな山であった。これは短い10ヵ月間で克服できる問題でもないが、諦めず努力したい。

 最後に、今回の研究集会を全力でサポートしてくださったHenry Hale教授、欧・露・ユーラシア研究所の事務のCaitlin様、スラブ研究センターの事務局の皆様、そして、遠い日本からわざわざお越し頂いた松里先生に心より感謝の意を申し上げたい。


(Update:2010.03.15)





Copyright ©2008-2010 Slavic Research Center   |  e-mail: src@slav.hokudai.ac.jp