スラブ研究センターニュース 季刊 2010 年夏号 No.122 index

研究の最前線


 外国人研究員リュドミラ・ポポヴィッチ教授の講演会

6 月25 日に、本年度の外国人研 究員リュドミラ・ポポヴィッチ教 授(ベオグラード大学)が、東京 大学文学部スラヴ語スラヴ文学研 究室にて講演会をおこないました。 題目は「動作様態(Aktionsart)の 記述の認知言語学的モデル」で、 ロシア語、ウクライナ語、セルビ ア語における当該現象を3 次元的 に解釈して各語の比較をおこない、 それぞれの特徴を明らかにするこ とを試みたものでした。

ポポヴィチ教授講演会のようす
ポポヴィチ教授講演会のようす

「動作様態」の研究は、動詞の体 の研究とならんで、スラヴ語研究 で最も重要なテーマの一つです。 本講演会においてポポヴィッチ教授は、Aktionsart 研究史(主に意味論的アプローチと語形 成論的アプローチ)と問題点を概観した上で、教授が用いる認知言語学的モデルの有用性を 踏まえて、上記の3 語の比較をおこないました。この講演会が沼野充義教授の大学院ゼミの 枠内でおこなわれたため、専門外の方にもわかるように懇切丁寧な解説がなされました。系 統的に非常に近い3 言語について、しかも意味的なニュアンスの違いがときに大変捉えにく くなる接頭辞についてきわめて精密に論じられたので、私たちのような外国人がこの分野に 挑戦するハードルの高さを感じざるをえませんでしたが、当該分野の専門家である金子百合 子氏(岩手大学)などから積極的な質問が出るなど、専門的な議論も活発におこなわれまし た。尚、ポポヴィッチ教授の講演内容にご興味がおありの方は、教授の著書『言語的現実像: 対照分析の認知的側面(Jezička slika stvarnosti: kognitivni aspekt kontrastivne analize)』(ベ オグラード、2008)を参照されると良いと思います。

また、2 日後の6 月27 日の日本ロシア文学会北海道支部会では、ポポヴィッチ教授の特別 講演会「ロシア、ウクライナ、セルビアフォークロアにおける色彩名称の意味的な潜在性」 がおこなわれました。本講演会では、色を意味する形容詞と名詞との語結合の可能性が、フォー クロアテクストを題材に比較検討されました。色彩語彙の研究も認知言語学や民族言語学な どにおいて重要なテーマですが、スラヴの伝統言語文化における類似性と多様性とを提示す る本講演は、専門を異にする言語研究者、文学研究者にとっても大変興味深いものとなりま した。

尚、9 月27 日(月)に予定されているGCOE 研究会では、セルビアのヴォイヴォディナ地 方におけるルシン人の諸問題について報告されます。ご関心のある方はセンターのホームペー ジをご覧下さい。近日中に報告のレジュメがアップされる予定です。

上記の講演会の組織に当たり、沼野充義、乗松亨平両先生、日本ロシア文学会北海道支部 の関係者の皆様には大変お世話になりました。紙面をお借りしてお礼申し上げます。

[野町]

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