スラブ研究センターニュース 季刊 2012年冬No.128 index

新学術領域研究

新学術領域研究第6 回国際シンポジウム 「近現代帝国の比較」開催される


セッションのひとコマ
 2012年1月19~20日に、センターの冬期シンポジウムを兼ねた新学術領域研究第6回国際シンポジウム“Comparing Modern Empires: Imperial Rule and Decolonization in the Changing World Order[近 現代帝国の比較:世界秩序変動の中での帝国統治と脱植民地化]” が、 スラブ研究センター大会議室で開かれました。  新学術領域研究はロ シア、中国、インドを主な対象としたものではありますが、帝国比 較のためにはさまざまな帝国を視野に入れる必要があること、帝国 は帝国間および国民国家や小地域との関係性の中で機能してきたことから、今回のシンポジ ウムでは、日本、アメリカ、オスマン帝国、イラン、中央アジアに関する報告も入れました。 1 日目は、ジェーン・バーバンク氏による、帝国が多様な社会をどのように統治し、近現 代にどのように変化したかに関する基調講演に始まり、帝国の統治技術、イデオロギー、相 互認識・歴史認識などを議論しました。特に議論の焦点になったのは、帝国中央とは異質な 社会を統治する際の仲介者・協力者の存在であり、また帝国の保守主義と近代化の関係も話 題になりました。2 日目は、帝国の崩壊とその遺産、脱植民地化に対する諸大国の態度、ア メリカの帝国性や中国の再帝国化の可能性などを議論しました。戦後インドの経済発展が可 能になったのが、イギリス帝国の遺産や外国の援助を巧みに活用したためか、帝国支配の悪影響を克服したためかについては、相異なる見方が披露されました。

会議終了後に全員で記念写真
 全体として、多様な話題について非常に活発な議論が繰り広げられ、帝国研究の世界的な 発展と、その今日的な意義を、凝縮した形で感じ取ることができました。今回は、企画を担当 セッションのひとコマ No. 128 February 2012 した新学術領域研究第4班の班員がなるべく多く報告するという方針をとりましたが、日本人 の報告の水準が高かったという評価を外国人ゲストの方々から戴けたのも嬉しいことでした。 また、前日の1 月18 日には、プレシンポジウム・セミナーとしてセンター外国人特任教授3 人の報告会を開き、外国人研究員とシンポ参加者の交流を深めることもできました。[宇山]

1 月18 日(水) プレシンポジウム・セミナー
 タラス・クジオ(トロント大学/センター)「20歳のウクライナ:ポスト・ソヴィエトかネオ・ソヴィエトか?」
 ノナ・シャフナザリャン(クバン社会経済大学/センター)「アルメニア・ディアスポラを通して見た『ソヴィエト人』:表象、ステレオタイプ、イメージ」
 ヴラジーミル・シシキン(ロシア科学アカデミーシベリア支部歴史研究所/センター)「ロシア帝国の再起動、1917–1922 年:近代化の要因としての戦争と革命」
 司会:望月哲男(センター)
 1 月19 日(木)
基調講演:ジェーン・バーバンク(ニューヨーク大学)「帝国と変容:差異の政治」
 司会:宇山智彦(センター)
第1セッション: 帝国統治の構造と技術 マリア・ミスラ(オックスフォード大学)
 「貴族と近代:大反乱後のインド」ウィラード・サンダーランド(シンシナティ大学)
 「帝国のロシア的方式:カザン征服から1917 年まで」 浅野豊美(中京大学)
 「近代日本における国民国家システムと帝国システム」
 討論者:松里公孝(センター) 司会:西山克典(静岡県立大学)
第2セッション: 帝国と他者の相互関係と相互認識
  宇山智彦(センター)「帝国への招待・適応・抵抗:中央アジアの場合」
 川島真(東京大学)「民国期中国における伝統的世界秩序・朝貢観」
  ルディ・マテー(デラウェア大学)「黄金と武力:貢納制帝国としての後期サファヴィー朝」
 討論者:長縄宣博(センター) 司会:守川知子(北海道大学)
  1 月20 日(金)
第3セッション: 帝国崩壊と国家再編: 遺産と変化
  ファトマ・ミュゲ・ギョチェク(ミシガン大学)「オスマン帝国の遺産」
 池田嘉郎(東京理科大学)「共和制の帝国に向かって:総力戦、革命、ナショナリズムの時代におけ るロシアの変容」
  アディティア・ムカジー(ネルー大学)「植民地主義の脱構造化:ネルー時代と非同盟」
 討論者:半澤朝彦(明治学院大学) 司会:秋葉淳(千葉大学) 会議終了後に全員で記念写真 No. 128 February 2012
第4セッション:脱植民地化の地域的・国際的意義
  秋田茂(大阪大学)「南アジア脱植民地化後におけるネルー政権の経済外交」
  チアン・ジャイ(オーバーン・モントゴメリー大学)「バンドゥンへの道:脱植民地化に対する中国 のアプローチの展開」
 菅英輝(西南女学院大学)「『アメリカ帝国』の形成と冷戦時代初期の脱植民地化への対応」
 討論者:デイヴィド・ウルフ(センター);ムリドゥラ・ムカジー(ネルー大学)
 司会:粟屋利江(東京外国語大学)
第5セッション: 新しい帝国? 米国と中国
 ロブ・クルース(アムステルダム大学)「アメリカ:帝国の中の帝国?」
 蔡東傑(中興大学、台湾)「中国は帝国になりつつあるのか? 戦略的伝統とあり得る選択」
 討論者:古矢旬(東京大学) 司会:田畑伸一郎(センター)
 総合討論 司会:宇山智彦(センター)

第5回全体集会開かれる

 国際シンポジウムに引き続き、1 月21 日(土)午後には、新学術領域研究第5 回全体集会 「最終成果の出版に向けた報告会」が開かれました。本全体集会では、プロジェクトの最終成 果となる出版物『ユーラシア比較地域大国論』(全6 巻)に収められる予定の2 本の論文を取 り上げ、それぞれの執筆者によって、他のメンバーの前で報告がおこなわれました。各報告 の後には、討論者のコメントに続いて、フロアからも積極的な意見が出され、出版物の大ま かな方向性について、各自で確認がおこなわれました。[後藤]
 報告: 1.松里公孝(センター)・中溝和也(京都大学)「民族領域主義と連邦制」   コメンテーター:山根聡(大阪大学)
 2.王柯(神戸大学)「『公共空間』という戦略:ムスリムとして中国に生きる」   コメンテーター:安藤潤一郎(東海大学)

外国人研究員の採用

 新学術領域研究第1 班外国人研究員の募集に対して、複数の応募者の中から厳選な審査 の結果、モニカ・チャンソリア氏(Monika Chansoria)〔土地戦争研究センター, Center for Land Warfare Studies (CLAWS), New Delhi〕の採用が決まりました。氏はインドと中国の軍 事外交に関する国際関係をテーマとして、アジアにおける中国プレゼンスの影響力について 研究されています。1 月5 日から3 月13 日までセンターに滞在しながら、様々な研究活動に 従事される予定です。 また第6 班の外国人研究員として,エレナ・イコンニコヴァ氏(Elena Ikonnikova)〔サハ リン国立大学〕を招聘することが決まりました。イコンニコヴァ氏は比較文学・文学理論を 専門としており,主としてサハリン・樺太に関わる日露の文学について研究されています。1 月28 日から3 月28 日までセンターに滞在します。[越野]

比較地域大国論集第7号『比較帝国論の世界』の刊行

 比較地域大国論集第7 号として、宇山智彦編『比較帝国論の世界:新学術領域研究第4班 中間成果』が刊行されました。下記3 本の論文のほか、第4 班が開いた研究会のうち15 回分 の概略と、大半の報告のレジュメを収録しています。多くの論客による多様な帝国論の世界 をお楽しみください。本書は、新学術領域研究ウェブサイトの出版のページからダウンロー ドできます。[宇山]
 宇山智彦 帝国の弱さ:ユーラシア近現代史から見る国家論と世界秩序
 岡本隆司 「主権」の形成:20 世紀初頭の中国とチベット・モンゴル
 森まり子 民族自治から主権国家へ:帝国解体期のシオニズム運動における民族分離主義の変容 1881 ~ 1948

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