研 究 の 最 前 線

 
◆ 1999年度夏期国際シンポジウムの開催 ◆

本年度の夏期国際シンポジウムは、地域の経済成長と環境というセンターではこれまで扱ったことのないユニークなテーマを設定しています。とくに、人文社会科学の分野のみならず自然科学の研究者を取り込んで、真の学際的な研究の色彩を強く意識したところに特徴があります。テーマの性格上、センターの外国人研究員の専門とはかけ離れているために、多くの外国人研究者をこのシンポジウムのために招へいいたしました。

昨年の夏期国際シンポジウムでも「地域」をキーワードに人文社会科学の横断的研究がおこなわれ、特に地域研究の歴史学的な視点や政治学的な視点が重視されました。本年度は経済学的な視点からの地域研究が大きな柱になっています。

また、開発と環境という視点はセンターとしては初めてのことです。特に北方ユーラシアの鉱物・森林資源開発によって生じる環境破壊問題の研究は、東南アジアにおけるそれらに比べれば遅れており、北方ユーラシアの自然環境の破壊が地球環境に大きな影響を与えていることを考えれば、当センターのシンポジウムは時機を得たものといえるでしょう。現実には、研究や行政的対応が不在のままに乱開発が先行し、深刻な被害を及ぼしている事実を看過できません。シベリア・極東の環境への対応は後進的で、ロシアの経済破綻の状況下では環境どころではないというのが実情です。外国からの支援の手によってロシアの環境に関する研究者が徐々に芽生えていることは若干の救いであるかも知れません。

このような状況のなかで当センターが先駆的な役割を担っていることは、将来のセンターの幅広い活動を約束するものだと言えると思います。[村上]

1999年度夏期国際シンポジウム ロシアの地域:経済成長と環境

7月21日(水)

[セッション1]15:30〜17:30基調講演
P.ハンソン(英国、バーミンガム大学)「ロシアにおける経済変動の地域類型」
佐和隆光(京都大学)「ポスト京都会議の地球温暖化対策―京都メカニズム、規制的措置、経済的措置をどう組みあわせるか―」
司会者:佐藤経明(横浜市立大学名誉教授)

[ビヤ・パーティ]17:45〜19:00(328号室)

7月22日(木)

[セッション2]10:00〜12:00「環境問題とNGO」
赤羽恒雄、A.ワシリエヴァ(以上、米国、モントレー大学)「サハリンの環境意識:サハリン大陸棚石油・ガス開発の背景と見方」
G.ボロフスコイ(国立サハリン大学)「移行期におけるサハリン住民の意識」
討論者:袴田茂樹(青山学院大学)
司会者:宇多文雄(上智大学)
[セッション3]13:30〜15:30「経済開発と先住民族」
A.ナチョトキナ(サハリン州議会)「サハリン大陸棚開発と北方少数原住民に固有の居住環境および生活様式の防衛」
E.ウィルソン(英国、ケンブリッジ大学)「対決か妥協か? 北サハリンにおける伝統的な天然資源利用と石油産業」
討論者:荻原眞子(千葉大学)、井上紘一(北海道大学)
司会者:佐々木史郎(国立民族学博物館)

[セッション4]15:45〜17:45「シベリアのエネルギー開発」

V.カラシニコフ(ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所)「北東アジアにおけるエネルギー需給とその協力」
北川弘光(北海道大学)「ヤマル・エニセイ地域のエネルギー開発と環境」
討論者:吉田文和(北海道大学)、村上隆(北海道大学)
司会者:未定

[懇親会]18:00〜20:00(アスペン・ホテル)

7月23日(金)

[セッション5−1]9:30〜12:00「ロシアの地域間資金循環」
E.ガブリレンコフ(ロシア、経済大学)「ロシアの地域特性と地域間の資本循環」
荒井信雄(札幌国際大学)、A.ベロフ(福井県立大学)「サハリン州の財政」
V.ルデンコ(ロシア科学アカデミー・ウラル支部哲学・法研究所)「ウラル地域の近代化の要請と経済的・法的対応」
討論者:西村可明(一橋大学)、田畑伸一郎(北海道大学)
司会者:田畑理一(大阪市立大学)

[セッション5−2]10:00〜12:00「オホーツク海の海洋汚染」

R.ステイナー(米国、アラスカ大学)「石油流出:アラスカの教訓をサハリンにどう活かすか」
A.レオノフ(ロシア科学アカデミー海洋学研究所)「サハリン大陸棚石油・ガス開発によるオホーツク海エコ・システムの変化」
討論者:山村悦夫(北海道大学)、V.ペレシプキン(ロシア、中央海洋調査・設計研究所)
司会者:青田昌秋(北海道大学)

[セッション6−1]13:30〜15:30「中央アジアの環境問題」

野村政修(九州国際大学)「イリ川下流域における水利用と利用料徴収の可能性:ベレケ村の場合」
佐藤幸男(広島大学名誉教授)「セミパラチンスク旧核実験場周辺住民の環境と健康状況」
討論者:B.イスラモフ(一橋大学)、山下俊一(長崎大学)
司会者:宇山智彦(北海道大学)

[セッション6−2]13:30〜15:30「ロシアの地域労働市場」

V.ギンペリソン、G.モヌソワ(以上、ロシア、IMEMO)「ロシアの地域における公務員雇用と再分配政策」
大津定美(神戸大学)「移行期ロシアにおける地域労働市場の発展類型」
討論者:小森田秋夫(東京大学)、溝端佐登史(京都大学)
司会者:山村理人(北海道大学)

[セッション7]15:45〜17:45「地域の次元から見たロシア金融危機

久保庭真彰(一橋大学)「ロシア先進地域における金融危機」
P.ラトランド(米国、ウェズレイヤン大学)「ロシア経済発展の代替案における地域の問題」
討論者:鵜野公郎(慶応義塾大学)、上垣彰(西南学院大学)
司会者:宮本勝浩(大阪府立大学)

7月24日(土)


エクスカーション(小樽方面)


 

◆ 1999年度外国人研究員候補決まる ◆

7月12日の協議員会において、2000年度の長期外国人研究員招聘に関する審議がおこなわれ、正候補3名、副候補1名が決まりました。正候補として選ばれたのは以下の方々です。

今年度の応募者は48名で、選考は非常に難航しました。結果的に、比較的若手の優秀な方々が選ばれたように思われます。

マゴメドフ氏は38才、ダゲスタン共和国の出身で、政治学を専攻しています。とりわけ、ロシア地方政治の研究では、いくつかの論文によって世界的にも極めて高い評価を受けている新進気鋭の学者です。センターでモスクワ以外から政治学者を招くのは初めてのことではないでしょうか。センターでは「パイプライン問題:カスピ海からノボロシイスクへの石油輸送をめぐるロシア地方エリートの政治的インセンティヴと行動」という研究をおこなう予定で、日本のロシア地方研究者に刺激を与えることが期待されます。

ルキッチ氏は48才、現在カナダで教鞭をとっていますが、クロアチア国籍の研究者です。専門は歴史学、国際関係論で、とくに、バルカン諸国をめぐる研究において広く名を知られており、出版された3冊の著作(共著、編著を含む)はいずれも高い評価を受けています。センターでは今年度初めてブルガリアから研究者を招聘しましたが、来年度は初めてクロアチアから招聘することになります。センターでは「ヨーロッパのポスト共産主義の民族−連邦国家:ロシア連邦とユーゴスラビア連邦共和国のケーススタディ」という研究をおこないます。

ラーニン氏は38才、アゼルバイジャンの出身で、モスクワ教育大学で博士号を取っていますが、専攻はロシア文学です。近代ロシア文学のなかでも、アンチ・ユートピア、亡命文学などのジャンルで活躍されており、最近では文学における女性のイメージという研究もおこなっています。センターでは、「20世紀ロシア文学における皮肉と風刺」という研究をおこないます。来年度は文学を中心とする国際シンポジウム開催が予定されており、そこでの活躍も期待されます。

センターでの滞在期間は、3氏ともに、来年6月から再来年の3月までの予定です。

なお、本誌前号でもお伝えしましたが、センターでは、来年度滞在されるCOE短期外国人研究員について、次の要領で公募をおこなっています。

滞在期間:2000年6月から2001年3月までの間の3カ月から5カ月の期間
応募締切:1999年9月30日
採用通知:1999年12月下旬(正式な通知は2000年3月中旬)

応募用紙の必要な方はご連絡下さい。応募要領は、センターのホームページでもご覧になれます。[田畑]

 

◆ 1999年度鈴川基金奨励研究員決定 ◆

選考の結果、次の方々が本年度の鈴川研究生として選ばれました。

氏 名 所 属 滞在期間 ホスト教官 研究テーマ
浅岡 善治 東北大・院博士課程 99.7.21〜8.4 松里公孝 後期ネップの農村政策における出版関連活動の位置と実状
小椋  彩 東大・院博士課程 99.7.19〜8.2 望月哲男 レーミゾフとアヴァクーム及び旧教徒の関わりについて。及び北方ロシアの民族学的資料収集
小野寺利行 明治大・院博士課程 99.7.21〜8.3 宇山智彦 中世ノヴゴロドの対ハンザ通商関係におけるイワン商人団の役割に関する一考察
栗山こずえ ブラッドフォード大博士課程 99.10.28〜11.4 林 忠行 ユーラシア大陸における民族・民俗文化の動向と今日のエスニックアイデンティティ
田中 良英 東大・院博士課程 99.7.19〜8.6 松里公孝 18世紀前半のロシア行政機構における意志決定過程の分析

今年は、例年にもまして激戦でした。低金利のため5名という枠は変えようがない反面、若手スラブ研究者の力量が年々上昇しつつあることが、選考をしだいに困難にしています。数年前までは、大学院の博士(後期)課程に所属していることがパスする条件でした。過去数年間は、この条件に加え、すでに論文を発表していることが事実上の条件となりました。現在ではこの基準では候補を絞りこめず、文部省などの業績評価と同様に、論文の発表先が自分の大学の紀要なのか、レフェリーズジャーナルなのかを見なければならないようです。

ここで若手の研究者にお願いしたいことは、もし自分が優れた修士論文を書いたという自信がある場合は、ぜひ『スラヴ研究』に挑戦していただきたいということです。レフェリーズジャーナルである以上、落ちるリスクは確かにありますが、指導教官の推薦さえあれば大学院生が書いたものを無批判に載せるような大学紀要とは、パスしたときの価値は全然違います。もちろん、『スラヴ研究』にパスすることは鈴川にパスすることよりもずっと難しいことですから、『スラヴ研究』に挑戦して万一落とされたとしても、それが鈴川の選考に否定的に影響することはありません(むしろ逆です)。

『スラヴ研究』編集側としても、優れた修士論文を素材とした論文を多数掲載することは、『スラヴ研究』が研究の最前線に立ち続けるために必要なだけではなく、雑誌としての若さ、センス、魅力を保つためにも必要です。[松里]

 

◆ 共同研究員一覧 ◆

センターではこの4月から、下記の136名の方々に共同研究員をお願いすることになりました(委嘱期間 1999年4月〜2001年3月)(敬称略、五十音順)。[井上]

1.特別共同研究員
秋月孝子(元センター)、伊東孝之(早大)、岩田昌征(千葉大)、宇多文雄(上智大)、加藤九祚(国立民族学博物館名誉教授)、川端香男里(中部大)、木戸蓊(神戸学院大)、木村崇(京都大)、木村汎(国際日本文化研究センター)、佐藤經明(横浜市立大名誉教授)、外川継男(上智大)、中村喜和(共立女子大)、西村可明(一橋大)、長谷川毅(カリフォルニア大)、松田潤(札大)、南塚信吾(千葉大)、望月喜市(北大名誉教授)、百瀬宏(津田塾大)、安井亮平(早大名誉教授)、和田春樹(東大名誉教授)

2.学内共同研究員
天野哲也(総合博物館)、安藤厚(文学部)、池田透(文学部)、煎本孝(文学部)、宇佐見森吉(言語文化部)、浦井康男(文学部)、タチアーナ・ヴラーソヴァ(言語文化部)、大泰司紀之(大学院獣医学研究科)、大西郁夫(文学部)、小野有五(大学院地球環境科学研究科)、柿澤宏昭(大学院農学研究科)、工藤正廣(言語文化部)、栗生澤猛夫(文学部)、杉浦秀一(言語文化部)、鈴木延夫(文学部)、高幣秀知(文学部)、田口晃(法学部)、竹田正直(教育学部)、津曲敏郎(文学部)、所伸一(教育学部)、中村研一(法学部)、灰谷慶三(文学部)、橋本聡(言語文化部)、福田正己(低温科学研究所)、藤家壮一(言語文化部)、望月恒子(文学部)、山田吉二郎(言語文化部)、吉田文和(経済学部)、吉野悦雄(経済学部)

3.学外共同研究員
秋月俊幸(元北大法学部)、荒井信雄(札幌国際大)、荒又重雄(釧路公立大)、井桁貞義(早大)、諌早勇一(同志社大)、石井規衛(東大)、石川晃弘(中央大)、石川達夫(神戸大)、石田信一(跡見学園女子大)、石田紀郎(京大)、伊東一郎(早大)、岩下明裕(山口県立大)、岩田賢司(広島大)、上垣彰(西南学院大)、上野俊彦(日本国際問題研究所)、浦雅春(東大)、大津定美(神戸大)、大庭千恵子(広島市立大)、荻原眞子(千葉大)、小澤治子(新潟国際情報大)、小田福男(小樽商大)、貝澤哉(早大)、金子亨(千葉大名誉教授)、亀山郁夫(東京外大)、川口琢司(北海学園大)、川原彰(中央大)、北川誠一(東北大)、久保一之(京大)、久保庭真彰(一橋大)、栗原成郎(創価大)、源河朝典(岡山大)、小松久男(東大)、小森田秋夫(東大)、齋藤晨二(名古屋市立大)、坂井弘紀(千葉大)、左近毅(大阪市立大)、佐々木史郎(国立民族学博物館)、佐々木りつ子(旭川大)、佐藤雪野(東北大)、澤田和彦(埼玉大)、塩川伸明(東大)、篠原琢(東京外大)、柴宜弘(東大)、柴崎嘉之(釧路公立大)、志摩園子(東京成徳大)、下斗米伸夫(法政大)、庄司博史(国立民族学博物館)、新免康(東京外大)、菅原淳子(二松学舎大)、鈴木淳一(札大)、仙石学(西南学院大)、高倉浩樹(東京都大)、高田和夫(九州大)、田畑理一(大阪市立大)、月村太郎(神戸大)、徳永彰作(札大)、富田武(成蹊大)、豊川浩一(明治大)、中井和夫(東大)、中見立夫(東京外大)、中村裕(秋田大)、中山弘正(明治学院大)、長與進(早大)、西成彦(立命館大)、西中村浩(東大)、西山克典(静岡県立大)、沼野充義(東大)、根村亮(新潟工大)、袴田茂樹(青山学院大)、畑中幸子(中部大)、坂内徳明(一橋大)、平井友義(広島市立大)、平田武(東北大)、廣岡正久(京都産業大)、広瀬佳一(防衛大)、藤本和貴夫(大阪大)、アンドレイ・ベロフ(福井県立大)、松井憲明(釧路公立大)、松井康浩(香川大)、松戸清裕(北海学園大)、三谷恵子(京大)、六鹿茂夫(静岡県立大)、百瀬響(道教育大)、森下敏男(神戸大)、横手慎二(慶應義塾大)、矢田部順二(広島修道大)、吉田進(環日本海経済研究所)

 

◆  新規科研費プロジェクト ◆

「近現代ロシアにおける国家・教会・社会:ロシア正教会と宣教団」

科学研究費基盤研究(B)「近現代ロシアにおける国家・教会・社会:ロシア正教会と宣教団」がセンターの原を研究代表者として、今年度から3年計画ではじまります。研究分担者には1995〜1997年におこなわれた重点領域研究「スラブ・ユーラシアの変動」のなかの計画研究「地域と地域統合の歴史認識」を継続するメンバーでロシア史専攻の西山克典(静岡県立大)、豊川浩一(明治大)の両氏、そして新たにロシア宗教哲学専攻の谷寿美(慶應義塾大)、現代ロシア政治専攻の廣岡正久(京都産業大)、19世紀ロシア文学専攻の中村健之介(東京大)の3氏が加わります。

各研究分担者の専攻分野からもおわかりのように、学際的な研究をめざすということが本研究の最大の特色です。ロシア極東近現代史を専攻する研究代表者自身は、上記の研究課題で蓄積が乏しく、未知数のジャンルに手を広げることになりますが、あえてこのテーマで科学研究費補助金を申請した理由は、以下の通りです。

広く知られているように、共産党支配終焉後のロシアでは正教会の復興が顕著であり、政権と教会の関係が現代ロシア政治の方向性を占う一つのポイントとさえなっているように見受けられます。ロシア近現代史を一貫した流れとして捉え直そうとするとき、この現実はどのように説明できるのでしょうか。一般論としても、ロシアにおける国家と社会、集団と個人のあり方を追究するにはロシア正教会の研究が不可欠と思われますが、この点、日本のロシア史研究は十分な目配りをしてきたでしょうか。荒っぽい言い方になりますが、ロシア中世史研究はともかくとして、近現代史研究では、ソビエト期のロシア本国の歴史学のあり方に規定されて、この領域を不毛な空白域のままに放置してきたことに気づかされます。また、ロシア国家の威光を背景に、正教会によってロシアの東部および東アジア諸国に派遣された宣教団の活動についての研究は正教会の特質の把握にとってだけでなく、シベリア史、日露関係史、露清関係史、ロシア東洋学史を振り返る上でも基本的な分野をなしていますが、この分野の全体像はまったく不十分にしか認識しえていないと思われます。しかし、ロシア本国で近年この分野に光があてられる状況が生まれつつあるなかで、日本の研究に国際的な期待がかけられているのも事実です。

そのようなわけで、本研究は日本のロシア正教会研究、宣教団研究の水準を高めるための基盤を形成しようという趣旨で開始されるものです。本研究に関して、何かご意見やご要望がありましたら、お聞かせ下さい。[原]

 

◆ 科研費プロジェクト成果の出版 ◆

1998〜2000年度文部省科学研究費補助金(基盤研究(A)および(B))「ロシアの地域間の資金循環」(研究代表者 田畑伸一郎)の中間報告が『スラブ研究センター研究報告シリーズ』No. 65として出版されました。収録されているのは、センター冬期シンポジウム(1999年1月27〜28日)で報告された2つの報告、田畑伸一郎・佐藤智秋・石川健「地域における統計作成の実状―物価統計と就業統計を中心として―」、田畑理一・堀江典生「地域の産業構造と生活水準―ノヴォシビルスクとヴォロネジを中心として―」です。また、付録として、センターまたは上記の研究プロジェクトによって収集されたロシアの地域統計集の1999年4月現在のリスト(Collections of Regional Statistical Handbooks of Russia)を付しました。ご関心のある方は、センターまでご連絡下さい。[田畑]

 

◆ 北海道スラブ研究会総会開催 ◆

北海道スラブ研究会1999年度総会は5月14日に開催されました。

総会では1998年度の活動報告と会計報告がなされ、出席者の了承を得ました。それに続き1999年度の新役員が、以下の通り選出されました(連絡役が皆川修吾から宇山智彦に替わりました)。
世話役代表: 井上紘一(センター)
世 話 役: 大西郁夫(北大文学部)、杉浦秀一(北大言語文化部)、高岡健次郎(札幌学院大)、田口晃(北大法学部)、徳永彰作(札幌大)、所伸一(北大教育学部)、匹田剛(小樽商大)、 吉野悦雄(北大経済学部)
会 計 係: 松田潤(札幌大)
会 計 監 査: 吉田文和(北大経済学部)
連 絡 係: 宇山智彦(センター)

総会に引き続き、最近著書を出された北大言語文化部の杉浦秀一氏が、「ロシア自由主義の国家論」と題する研究報告をおこないました。ロシア自由主義に固有の「秩序化のコード」を分析するという視点から、カヴェーリンとチチェーリンの国家論の変化を跡づけるもので、質疑応答も活発におこなわれました。報告の後には恒例のビア・パーティが催され、会員の和やかな歓談が続きました。

北海道スラブ研究会では活動をさらに活性化させたいと考えていますので、皆様の建設的な提案をお待ちしております。[宇山]

 

◆ 研究会活動 ◆

ニュース77号以降の北海道スラブ研究会とセンター特別研究会の活動は以下の通りです。[松里]
5月14日 杉浦秀一(北大言語文化部)「ロシア自由主義の国家論」(北海道スラブ研究会総会)
5月26日 K. フレーベルク(ハレ大学・中東欧農業発展研究所) “Impact of East Enlargement of the EU”
6月17日 長谷川毅(カリフォルニア大学サンタバーバラ校)「太平洋戦争末期における千島列島をめぐる米ソ関係」(北海道スラブ研究会)
6月29日 L. ソン(カザフスタン、映画監督)「ソ連崩壊後の中央アジアの朝鮮人」(北海道スラブ研究会・スラブ研究センターセミナー)

 

◆ センター第14回公開講座 ◆

「北方ユーラシアの開発と環境」が終了

センターの公開講座は、5月10日(月)から5月31日(月)までの毎週、月曜日と木曜日に、計7回にわたって開催されました。今回は北方ユーラシアの開発と環境という二律背反の地域的な新しいテーマを掲げてみました。北海道に住む私たちは、北方ユーラシアの繊細で豊かな自然のなかに住んでいます。しかし、近年、シベリア・極東では森林の破壊が進み、大気汚染も深刻になっています。新たな海洋汚染の懸念も高まってきています。というのは、今年7月からサハリン北東部海域で本格的な石油開発が開始され、1週間に1度の頻度でオホーツク海を原油タンカーが航行するからです。石油・天然ガス開発はロシア極東のエネルギー需給の緩和に役立ち、この地域の経済発展に貢献し、日本にとってもエネルギー供給源を多様化できます。その反面、さまざまな環境破壊の可能性も増大します。

受講者の身近な開発と環境問題を設定してみましたところ、評判は上々で、受講者の多くは各講師の専門的な立場からの北の環境破壊の現実を知らされて、自然を意識的に守る必要性を痛感したようです。北大農学部の高橋邦秀教授にはシベリアの森林資源が危機にさらされている状況を、スライドを使って分かり易く解説していただきました。自然と共生しながらどのように北極海の航路を開設したらよいかという夢あふれる北川弘光・北大工学研究科教授の話から、ノルウェー、ロシアおよび日本を中心に、すでにさまざまな角度から詳細に検討されていることを知って驚かされました。紋別の北大流氷研究施設長の青田昌秋教授によるオホーツクの流氷の講義は受講者を引き付けました。北海道は渡り鳥の世界でもシベリアと密接な関係をもっていますが、帯広畜産大の藤巻裕蔵教授は渡り鳥の保護の重要性を強調されました。また、北海道沿岸にはトドがたくさん生息し、魚の網を壊す漁民泣かせの動物ですが、まだその生態が解っていないという野生生物保護学会会長の和田一雄氏の指摘は、今更ながら研究の重要性を痛感させられました。日ロ経済委員会事務局長の杉本侃氏は極東経済発展の問題点と重要性を強調されていました。

総じて受講者の多くが環境問題に強い関心をもっているようで、自然科学系の講師の話はとりわけ新鮮に映ったようです。

なお、この講座の講義録(要約)は、月刊誌『しゃりばり』(北海道開発問題研究調査会)の9月号から連載される予定です。ご関心のある方はセンター村上までお問い合わせ下さい。 [村上]


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