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新年のご挨拶

センター長 新年のご挨拶


 あけましておめでとうございます。

 

 新年の私の欧州出張は、最終目的地がパリとなりました。予約したホテルはたまたま、「共和国広場」の近くです。 1月7日にパリの出版社とユダヤ人商業施設に対して行われたテロ攻撃の報はロンドンで知りましたが、追悼と反テロリズムへの国際的な連帯集会が共和国広場で行われる11日は、パリの共和国広場付近に投宿しているという偶然に遭遇しました。


 集会当日は朝から全メトロが無料で開放され、誰でも共和国広場に駆けつけることができる措置が取られました。犠牲者の受難を我身の痛みとして共有すること、そして反テロリズムへの連帯が呼びかけられ、前日からフランス全土でも70万人の市民が各地で集会を催しました。


 11日の午前にパリ中心部で仕事をしてから、私は共和国広場に戻ろうと試みましたが、地下鉄は市民で溢れ、三色旗が掲げられ、一輪のバラや連帯のプラカード、小旗を手にした人々によって車両の扉さえ閉まらない状況でした。私も多くの市民と一緒にメトロ乗車をあきらめて、徒歩で共和国広場に向かいました。17人の命が奪われたテロに対して、「我われは憎悪ではなく、これに抗する連帯を求める」と、子供連れから若者、そして高齢者に至るまで一般市民が意思表示をする行進の流れに混じりながら、パリが目撃した多くの歴史的マニフェスタシオンに、いま自分自身が参加しているという思いがこみ上げました。


 午後3時から各国首脳を先頭に共和国広場から行進が始まったのですが、私自身も他の多くの市民同様に、広場に通じる道の半ばで閉じ込められてしまい、身動きもできない状態で数時間を過ごすはめになったのです。共和国広場に通じるパリの放射状のあらゆる道が、人で埋め尽くされてしまいました。最終的に四百万人がこの行進に参加したといわれ、またフランス以外でも連帯の動きが各国で展開しました。


  現在のパリはあらゆる人種が生活する街であり、このテロリズムがイスラム系住民に及ぼす影響はむろん懸念されます。開かれた国境の再検討、防衛の強化、あるいは欧米民主主義社会の一体感の強化という、それがいずれどのような結果を生じるのかを注意深く見守るべき動きが胎動し始めました。しかし1月11日のパリは、異なる宗教や民族、習慣を他者として排撃するのではなく、「自由なきフランスはフランスにあらず」と言いながら、高次元の普遍的理念によって、我彼の区別を超えてテロリズムと闘おうとする姿勢を示しました。ここには実にこの国の精神的伝統が生き続けています。また民衆が自ら意思を表明し参加する、フランス革命以来の精神が、今も世界中を動かしています。


 ひるがえって、わが日本はどうでしょうか。若い世代は自分が世界を創り、動かすのだという、自負と責任を実感しているでしょうか。今回の欧州出張の最初の訪問地ベルリンでは、ドイツ原子力倫理委員会委員であり日本通でもあるM.シュロイアーズ女史と語り合いました。女史は、日本とドイツは格差、高齢化、多民族化という共通の問題に直面しているが、日本社会はピラミッド型構造が強固で、学生が受け身で組織に取り込まれてしまうのに対し、ドイツでは連邦制のおかげで社会がフラットで、地域の自主性が健在であり、何より、学生が社会問題を自由闊達に議論しているところに未来を感じるのだと指摘しました。  


 SRCは世界に開かれた、世界と共に活動する研究機関です。センターを舞台に、世界中の知性およびヒューマニズムとみなさんが連帯することを、新年の私からの挨拶としたいと思います。とりわけ本年はICCEESの世界大会が日本で初めて開かれ、オックスフォード大学の知己からも日本開催への声援が届いています。日本、アジア、そして全世界の若手研究者の活躍を期待します。


家田 修

 

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